22 / 23
続編
05 とりあえずは安心しました
しおりを挟む
次の日バイトに行くと、カボチャ頭の衣装であるマントは畳まれてロッカーの中に入っていた。あぁ、華鈴、あの後店に来たんだな。……店に戻って来て、宝条さんと何を話したのだろう。俺なんか別れ際にバカとか言われたんですけど……。考えれば考えるほど気持ちが沈む。
ため息をつきながら着替え(といってもマントを羽織ってカボチャ頭を被るだけだが)を済ませると、バックヤードの扉が開く。
「あ」
「あ」
入って来たのは華鈴だった。目がバッチリ合い声が重なったが、華鈴は目をそらしてしまう。
「華鈴、その……」
「……」
「昨日はごめん。ちょっと、言いすぎた。だから、その。……“嫌い”は、勘弁してくれ。一番、きつい」
華鈴はこっちを見なかった。見ないまま声も出さないまま、自分の荷物をロッカーにしまっている。許してもらえないままバイトをするなんて無理だ。なんとかしてこっちを見てもらえないかと突っ立っていると、とうとう華鈴が振り返ってくれた。
「……華鈴……!」
「着替えたいので出ていってください」
「──……ハイ」
バックヤードには簡易的なカーテンがあるのみで、フルで着替えるには心もとない。流石にここで居座ったら最低すぎる。トボトボとバックヤードから出ようとする。
と。
「せんぱい」
小さく声がかけられた。カボチャ頭のせいで聞き取りづらかったが、確かに俺を呼んだ。勢いよく振り返り、華鈴に近寄って行くと、華鈴は驚いて肩を震わせた。
「何!?」
「いや、えっと……ひとつだけ、聞きたいことがあって」
「何でも答える! 何だ!?」
俺の勢いに引き気味の華鈴は、少しだけ目を泳がせてから俯いて、そのうちキッと顔を上げて俺を見た。
「先輩は、私にしてほしいことってありますか?」
「へ!?」
質問の意図が読み取れない。どういう意味なのかわからず追加の言葉を待ったが、華鈴は何も言わなかった。そのままの意味か? してほしいこと? そんなの。
「そんなの、いっぱいあるよ。まずは昨日のこと許してほしいし、もっと長い時間一緒にいてほしいし」
数えたらきりがない。本当はもっとハイレベルな望みもあるけど、流石に言ったらビンタが来そう。質問の真意がわからない以上、俺は必死に脳を巡らせて、もしかしたら叶えてくれるかもしれないレベルの望みを口に出していく。
「贅沢言ったらそりゃ付き合ってほしいし、デートとかしてほしいし、それから……」
「それから?」
「そーだな。その……名前、を、」
「……名前?」
「名前を、呼んでほしい。名字じゃなくて」
言いながら照れてどうする。あいにく俺が照れているのはカボチャ頭のおかげで華鈴にはバレていないはずだ。声はちょっと不自然に震えたが。
「名前って……そんなこと、ですか?」
「なんだよ、悪いかよ」
華鈴はいつもでかい目をそれ以上にクリクリさせている。そんなに驚かれるとは。しばらくキョトンとしていた華鈴だったが、しばらくして顔を綻ばせた。
なんでかわからないけど、笑ってくれた。昨日のこと、許してくれたんだろうか。
「先輩、わがままですね」
「……さーせん」
さっきのはほんの一部分なんだけども。わがままなのは事実だし否定はしない。
カボチャ頭の中から華鈴の様子を伺う。華鈴はさっきよりは柔らかい表情だった。それにしても、叶えてくれるから聞いたわけじゃないのか……? しきりに小声で「そっか……」と呟いているのは、なんなのだろうか。
「お前はないの? 俺にしてほしいこと」
「ありません」
「デスヨネー……」
許してくれてなかった。塩対応でぴしゃりと言い放たれる。しょぼんとうなだれると、華鈴が思いついたように手を合わせた。
「……あっ、バイト終わったら美味しいパフェが食べたいです! ご馳走してください、昨日のお詫びも兼ねて」
「うっ……奢ったら許してくれるわけ?」
「検討します」
「確実じゃねーのかよ!」
文句を言いつつ、いつもの調子に戻って来た華鈴に安心している俺がいる。やっぱり、人生惚れたもん負けだよなぁ。ホッとしていると、バックヤードの入り口から声がした。
「パフェなら僕が作ってあげるから、さっさと持ち場に向かってくれ、バイト諸君」
しまった、駄弁りすぎた。振り返ると宝条さんが腕組みしてこちらを見ている。華鈴を伺うと、そわそわと落ち着きがなくなって、宝条さんを見ない。でも、それを勘付かれないように、いつも通りを装おうとしている。たぶんまだ昨日の衝撃のカミングアウトを引きずってるのだろう。
宝条さんの思い通りにはさせない。なるべくこの二人を接触させないようにしなければ!
「何ちゃっかり聞いてんすか! もう俺は持ち場行きますし華鈴も着替えますからほら、男二人は出て行きましょ、ね!」
「パ、パフェも作れるんですか……?」
おい、人がせっかく追い出そうとしてるのにそこに食いつくのかよ!? やっぱり華鈴って人よりアホだよな!?
「一応ね。食べたいか?」
「……う……いや、悪いです!」
「ちょっと迷ってんじゃねーよ! 俺が先約です! ダメです! 華鈴、行きたいとこ連れてくから終わるまでに考えとけ! さー、行きましょ宝条さん!」
グイグイと背中を押してどうにか追い出そうとする。背がでかいからか、押し出すのにもすげー力がいる。この人わざと脱力してやがる。入り口付近でもだもだしていると、背後から声がかかった。
ため息をつきながら着替え(といってもマントを羽織ってカボチャ頭を被るだけだが)を済ませると、バックヤードの扉が開く。
「あ」
「あ」
入って来たのは華鈴だった。目がバッチリ合い声が重なったが、華鈴は目をそらしてしまう。
「華鈴、その……」
「……」
「昨日はごめん。ちょっと、言いすぎた。だから、その。……“嫌い”は、勘弁してくれ。一番、きつい」
華鈴はこっちを見なかった。見ないまま声も出さないまま、自分の荷物をロッカーにしまっている。許してもらえないままバイトをするなんて無理だ。なんとかしてこっちを見てもらえないかと突っ立っていると、とうとう華鈴が振り返ってくれた。
「……華鈴……!」
「着替えたいので出ていってください」
「──……ハイ」
バックヤードには簡易的なカーテンがあるのみで、フルで着替えるには心もとない。流石にここで居座ったら最低すぎる。トボトボとバックヤードから出ようとする。
と。
「せんぱい」
小さく声がかけられた。カボチャ頭のせいで聞き取りづらかったが、確かに俺を呼んだ。勢いよく振り返り、華鈴に近寄って行くと、華鈴は驚いて肩を震わせた。
「何!?」
「いや、えっと……ひとつだけ、聞きたいことがあって」
「何でも答える! 何だ!?」
俺の勢いに引き気味の華鈴は、少しだけ目を泳がせてから俯いて、そのうちキッと顔を上げて俺を見た。
「先輩は、私にしてほしいことってありますか?」
「へ!?」
質問の意図が読み取れない。どういう意味なのかわからず追加の言葉を待ったが、華鈴は何も言わなかった。そのままの意味か? してほしいこと? そんなの。
「そんなの、いっぱいあるよ。まずは昨日のこと許してほしいし、もっと長い時間一緒にいてほしいし」
数えたらきりがない。本当はもっとハイレベルな望みもあるけど、流石に言ったらビンタが来そう。質問の真意がわからない以上、俺は必死に脳を巡らせて、もしかしたら叶えてくれるかもしれないレベルの望みを口に出していく。
「贅沢言ったらそりゃ付き合ってほしいし、デートとかしてほしいし、それから……」
「それから?」
「そーだな。その……名前、を、」
「……名前?」
「名前を、呼んでほしい。名字じゃなくて」
言いながら照れてどうする。あいにく俺が照れているのはカボチャ頭のおかげで華鈴にはバレていないはずだ。声はちょっと不自然に震えたが。
「名前って……そんなこと、ですか?」
「なんだよ、悪いかよ」
華鈴はいつもでかい目をそれ以上にクリクリさせている。そんなに驚かれるとは。しばらくキョトンとしていた華鈴だったが、しばらくして顔を綻ばせた。
なんでかわからないけど、笑ってくれた。昨日のこと、許してくれたんだろうか。
「先輩、わがままですね」
「……さーせん」
さっきのはほんの一部分なんだけども。わがままなのは事実だし否定はしない。
カボチャ頭の中から華鈴の様子を伺う。華鈴はさっきよりは柔らかい表情だった。それにしても、叶えてくれるから聞いたわけじゃないのか……? しきりに小声で「そっか……」と呟いているのは、なんなのだろうか。
「お前はないの? 俺にしてほしいこと」
「ありません」
「デスヨネー……」
許してくれてなかった。塩対応でぴしゃりと言い放たれる。しょぼんとうなだれると、華鈴が思いついたように手を合わせた。
「……あっ、バイト終わったら美味しいパフェが食べたいです! ご馳走してください、昨日のお詫びも兼ねて」
「うっ……奢ったら許してくれるわけ?」
「検討します」
「確実じゃねーのかよ!」
文句を言いつつ、いつもの調子に戻って来た華鈴に安心している俺がいる。やっぱり、人生惚れたもん負けだよなぁ。ホッとしていると、バックヤードの入り口から声がした。
「パフェなら僕が作ってあげるから、さっさと持ち場に向かってくれ、バイト諸君」
しまった、駄弁りすぎた。振り返ると宝条さんが腕組みしてこちらを見ている。華鈴を伺うと、そわそわと落ち着きがなくなって、宝条さんを見ない。でも、それを勘付かれないように、いつも通りを装おうとしている。たぶんまだ昨日の衝撃のカミングアウトを引きずってるのだろう。
宝条さんの思い通りにはさせない。なるべくこの二人を接触させないようにしなければ!
「何ちゃっかり聞いてんすか! もう俺は持ち場行きますし華鈴も着替えますからほら、男二人は出て行きましょ、ね!」
「パ、パフェも作れるんですか……?」
おい、人がせっかく追い出そうとしてるのにそこに食いつくのかよ!? やっぱり華鈴って人よりアホだよな!?
「一応ね。食べたいか?」
「……う……いや、悪いです!」
「ちょっと迷ってんじゃねーよ! 俺が先約です! ダメです! 華鈴、行きたいとこ連れてくから終わるまでに考えとけ! さー、行きましょ宝条さん!」
グイグイと背中を押してどうにか追い出そうとする。背がでかいからか、押し出すのにもすげー力がいる。この人わざと脱力してやがる。入り口付近でもだもだしていると、背後から声がかかった。
0
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる