10 / 31
Dating and Happening
02
しおりを挟む
元来た道を戻ってみても、未来の姿はなかった。その間にあるお店も覗いてみたが、いない。どこに行ったのか皆目検討も付かない。何せ俺は未来のことをほとんど知らないんだ。どんな店に入りそう、とか、どんな食べ物が好きそう、とか。
「あーもうどこに行ったんだよ……!」
目を離した俺にも責任はあるんだけど、そんなことを言っていられるほど余裕はなかった。土曜日のショッピングモールはとても混雑している。それはもう腹が立つくらいに混んでいる。
どうしよう。とにかく、行った店の店員さんに、未来が戻ってこなかったか聞いて回るか。俺は走り回って疲れてきた足を奮い立たせながら走りだした。
「──さぁ、見てないですね……」
「そうですか……ありがとうございます」
結果は全滅だった。手がかりは「黒髪ロングの可愛い子」だから、まぁ望みは薄かったけど。……いっそ、迷子センターにでも……。そう考えたとき、トンッと背中に重みを感じた。
「んっ……?」
恐る恐る、後ろを振り返る。見覚えのある長い黒髪が、視界に映った。
「未来っ……! どこにいたの!」
未来は少しぐったりした様子で、俺の背中にもたれ掛かっていた。少し息も切れている。
「ちょ……未来?」
「……座り、たい」
「えっ……座……? わ、わかった、待って」
俺は辺りを見渡して、一番近くのベンチへ未来を連れていった。未来は一緒に座った俺の肩に身を委ねた。少し汗ばんだ肌が、俺の腕に触れた。こんなときに何言ってんだって感じだけど、額にまとわりつく前髪が、その様子が色っぽくて、ドキドキしてしまう。俺はしばらく未来が落ち着くのを待ちながら、余計なことを考えまいと、思い出せるだけ円周率を思い出していた。
* * *
やっと未来が落ち着いたところで、俺は未来がそんなふうになってしまった理由を聞いた。
「で、どうしてそんな疲れちゃったの?」
「……目を離した隙に、朝霧晃太が、いなくなって」
「うん」
「探してもいなかったから、すれ違う人みんな手当たり次第にぶつかっていって、記憶を見たの」
「……うん。うん?」
「波長が合わない人の記憶を、少し触れただけで見るのは、すごく体力を消耗するから……なおかつ、たくさんの人を見たから」
「……そうなんだ」
「やっと、見つけて。……よかった」
そう言って、未来はまた頭を俺の肩に寄せた。振り払うわけにもいかず、俺はそれを受けとめる。
つまり……俺を探すために力を使いまくっちゃった、ってことだもんな。申し訳なく思って、そっと未来の頭を撫でた。
「……ごめんね。疲れさせちゃったね」
未来は黙って頭を撫でられている。
「俺も未来から目を離しちゃったから。えと、ごめん」
「……おあいこ」
「……そうだね、おあいこ」
そう言って微笑んで、ふと、ポケットの膨らみを思い出した。未来が迷子になった原因とも言えるブレスレット。まぁ、話のネタにはなるな……。
俺はポケットのブレスレットを袋から取り出して、未来の左手にするりと通した。未来は目を白黒させて俺とブレスレットを見る。
「あのワンピースに似合うかなと思って、買っちゃった。勝手に、ごめんね。気に入らなかった別に捨ててもいいし。安物だし」
「うれしい!」
未来は目をキラキラさせて言った。その勢いに俺は面食らう。
「……それはよかった」
「ほんとに、うれしい! ありがとう、朝霧晃太!」
いつも無表情な未来が、恍惚とした表情でブレスレットを眺めている。そんな反応が返ってくるとは思ってなくて、こっちもなんだか嬉しくて、でもなんだか恥ずかしかった。どうせなら、もっと高いやつ買ってあげればよかったかな、とか。そんな可愛い顔するんなら、なんかもっとかっこいい渡し方すればよかったな、とか。言っても仕方ないけど。未来が喜んでくれたならまぁいいか。迷子になったことも、結果オーライ。
さて。
「また迷子になっても困るし、そろそろ帰りますか?」
俺がそう言うと、未来は大きく頷いた。一歩歩きだして、足を止める。土曜日のショッピングモールは、まだまだ人並みは途絶えない。未来もまだ少し疲れてるみたいだし。少し考えて、俺は後ろにいる未来に手を差し出した。
「ん」
「……何?」
きょとんと首を傾げる未来。いやいや「何?」ってアナタ。
「だから、手! はぐれないように!」
言わせないで欲しい。恥ずかしいんだから。
未来は俺の手をじっと見つめて、恐る恐る手をつないだ。未来の小さな手。今まで何度となく(勝手に)手をつながれてきたけど、今日のこれは何か違った。何でだろうと思ったけど、いつもは未来が俺の手を握っていたのが、今日は逆になったからだと気付いた。変な感じだ。胸の辺りがこそばゆい。
未来を見ると、自然と上目遣いになった瞳で俺を見つめたあと、はにかんだように笑った。
──……ッ!
完全に不意討ちだったその笑みに、俺は動揺を隠せない。
「……あ! 勝手に心読むなよな!? 手つないでるからって!」
「……わかってるもん」
悟られないように、わざと強めに言った。でも、声が裏返った。逆効果だよこれじゃ。未来はやはりどこか上機嫌で、時折ブレスレットを眺めながらニコニコしていた。
いくら心を読むなと言っても、て言うか相手が未来じゃなくても。手にじっとりかいた汗のせいで、俺の焦りと動揺は、この気持ちは、きっとだだ漏れなんだろう。そう思うと、苦笑するしかなかった。
「あーもうどこに行ったんだよ……!」
目を離した俺にも責任はあるんだけど、そんなことを言っていられるほど余裕はなかった。土曜日のショッピングモールはとても混雑している。それはもう腹が立つくらいに混んでいる。
どうしよう。とにかく、行った店の店員さんに、未来が戻ってこなかったか聞いて回るか。俺は走り回って疲れてきた足を奮い立たせながら走りだした。
「──さぁ、見てないですね……」
「そうですか……ありがとうございます」
結果は全滅だった。手がかりは「黒髪ロングの可愛い子」だから、まぁ望みは薄かったけど。……いっそ、迷子センターにでも……。そう考えたとき、トンッと背中に重みを感じた。
「んっ……?」
恐る恐る、後ろを振り返る。見覚えのある長い黒髪が、視界に映った。
「未来っ……! どこにいたの!」
未来は少しぐったりした様子で、俺の背中にもたれ掛かっていた。少し息も切れている。
「ちょ……未来?」
「……座り、たい」
「えっ……座……? わ、わかった、待って」
俺は辺りを見渡して、一番近くのベンチへ未来を連れていった。未来は一緒に座った俺の肩に身を委ねた。少し汗ばんだ肌が、俺の腕に触れた。こんなときに何言ってんだって感じだけど、額にまとわりつく前髪が、その様子が色っぽくて、ドキドキしてしまう。俺はしばらく未来が落ち着くのを待ちながら、余計なことを考えまいと、思い出せるだけ円周率を思い出していた。
* * *
やっと未来が落ち着いたところで、俺は未来がそんなふうになってしまった理由を聞いた。
「で、どうしてそんな疲れちゃったの?」
「……目を離した隙に、朝霧晃太が、いなくなって」
「うん」
「探してもいなかったから、すれ違う人みんな手当たり次第にぶつかっていって、記憶を見たの」
「……うん。うん?」
「波長が合わない人の記憶を、少し触れただけで見るのは、すごく体力を消耗するから……なおかつ、たくさんの人を見たから」
「……そうなんだ」
「やっと、見つけて。……よかった」
そう言って、未来はまた頭を俺の肩に寄せた。振り払うわけにもいかず、俺はそれを受けとめる。
つまり……俺を探すために力を使いまくっちゃった、ってことだもんな。申し訳なく思って、そっと未来の頭を撫でた。
「……ごめんね。疲れさせちゃったね」
未来は黙って頭を撫でられている。
「俺も未来から目を離しちゃったから。えと、ごめん」
「……おあいこ」
「……そうだね、おあいこ」
そう言って微笑んで、ふと、ポケットの膨らみを思い出した。未来が迷子になった原因とも言えるブレスレット。まぁ、話のネタにはなるな……。
俺はポケットのブレスレットを袋から取り出して、未来の左手にするりと通した。未来は目を白黒させて俺とブレスレットを見る。
「あのワンピースに似合うかなと思って、買っちゃった。勝手に、ごめんね。気に入らなかった別に捨ててもいいし。安物だし」
「うれしい!」
未来は目をキラキラさせて言った。その勢いに俺は面食らう。
「……それはよかった」
「ほんとに、うれしい! ありがとう、朝霧晃太!」
いつも無表情な未来が、恍惚とした表情でブレスレットを眺めている。そんな反応が返ってくるとは思ってなくて、こっちもなんだか嬉しくて、でもなんだか恥ずかしかった。どうせなら、もっと高いやつ買ってあげればよかったかな、とか。そんな可愛い顔するんなら、なんかもっとかっこいい渡し方すればよかったな、とか。言っても仕方ないけど。未来が喜んでくれたならまぁいいか。迷子になったことも、結果オーライ。
さて。
「また迷子になっても困るし、そろそろ帰りますか?」
俺がそう言うと、未来は大きく頷いた。一歩歩きだして、足を止める。土曜日のショッピングモールは、まだまだ人並みは途絶えない。未来もまだ少し疲れてるみたいだし。少し考えて、俺は後ろにいる未来に手を差し出した。
「ん」
「……何?」
きょとんと首を傾げる未来。いやいや「何?」ってアナタ。
「だから、手! はぐれないように!」
言わせないで欲しい。恥ずかしいんだから。
未来は俺の手をじっと見つめて、恐る恐る手をつないだ。未来の小さな手。今まで何度となく(勝手に)手をつながれてきたけど、今日のこれは何か違った。何でだろうと思ったけど、いつもは未来が俺の手を握っていたのが、今日は逆になったからだと気付いた。変な感じだ。胸の辺りがこそばゆい。
未来を見ると、自然と上目遣いになった瞳で俺を見つめたあと、はにかんだように笑った。
──……ッ!
完全に不意討ちだったその笑みに、俺は動揺を隠せない。
「……あ! 勝手に心読むなよな!? 手つないでるからって!」
「……わかってるもん」
悟られないように、わざと強めに言った。でも、声が裏返った。逆効果だよこれじゃ。未来はやはりどこか上機嫌で、時折ブレスレットを眺めながらニコニコしていた。
いくら心を読むなと言っても、て言うか相手が未来じゃなくても。手にじっとりかいた汗のせいで、俺の焦りと動揺は、この気持ちは、きっとだだ漏れなんだろう。そう思うと、苦笑するしかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる