Inevitable Romance?

天乃 彗

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Let's walk together

03

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「行っても、きっと無駄ですよ」

 しばらく粘ったら、葛木はそう言って住所のメモをくれた。悠長に電車を使ってる暇はない。そもそも家は駅から遠い。
 かくなる上は……。俺は携帯を取り出して、吉田に電話をかけた。吉田は2コールで出た。

「理由はあとで話すから、車貸して!」
「あ? お前、免許は?」
「高校の時とったけどペーパーです!」
「バッカ、んなやつに貸せるか!」

 電話口で怒鳴られる。そりゃそうだ。自分でもちゃんと運転できる気がしない。
 しかし、電車とチャリ以外の乗り物なんて、車くらいしか。しょうがない、タクシーか? そう思ったけど、吉田は俺の焦りを感じ取ったのか、

「……あー。じゃあ今からお前んち行くから、待ってろ」
「吉田様! あとでアイス奢ります!」
「安いわ、バーカ。B定な」

 そう言って、電話を切った。B定食も十分に安いわ。そうは思ったけど、今は素晴らしい友人がいることにただただ感謝した。吉田はすぐに来てくれて、俺も急いで車に飛び乗った。

「俺がナビするから、言った通りに進んで! なるべく急いで!」
「へっ俺のテクなめんな」

 そう言うやいなや、吉田はアクセルを踏み込む。すごいスピード。俺は携帯を片手に、道順を調べて吉田に告げた。思ったより早くつきそうで安心した。
 未来の姿が頭をよぎる。それと同時に、友里ちゃんとの会話がよみがえった。

“友里ちゃんって、どんなときに相手のこと『好きだなぁ』って実感する?”
“そうだなぁ……”
“声聞いて、顔見て、ほっとして、『あ、好きだ』って”

 いつから、未来が“おかえり”と言ってくれることを当たり前と思うようになったか。俺はそのたびに、その声を聞くたびに、その顔を見るたびに、安心していたんだ。未来がいてくれていることに。

“あとは、笑顔を見たときとか。笑顔を見たいなって思ったときとか”
“笑顔?”
“うん、だって、一緒にいて楽しい時間を共有したり、共有したいなって思ったりするのは、好きだからじゃん?”

 生活の中で、時折見せる笑顔。その笑顔に確かにときめいていたのに、顔が好みだからだ、とかってごまかして。本当は、いつも笑っていて欲しかったくせに。

「これか? なんだこれ、でっけー家……」

 吉田の声にはっとする。顔をあげると、まじででかい門が立ちはだかっていた。

「なんだこれっ!?」

 予想外すぎる。何坪あるんだこの家。
 高い外壁に囲まれた家は、見た目は少し古いけど、それを補ってあまりある大きさだ。外壁の中央にある門は、車もそのまま入れるようにだろう、見上げるほどのデカさ。

「えーと、じゃあここで降ろすから、終わったら連絡寄越せ」
「あ、あぁ……」

 吉田は巨大な門の前に車を止める。俺はゆっくりと助手席のドアを開け、外へ出た。直接見ると、もっとでかく見える門だ。しばらくして吉田の車は発進し、いよいよ俺一人になったところで、はっとした。このあとのこと、考えてねぇ! 
 アホだ俺。こんなセキュリティ万全な家を前にして、どうやって未来を取り返そうと言うんだ。明らかにセコム入ってるだろ! 見てみると案の定忌々しいセコムのマークが、門についていた。まさかピンポン押してお邪魔しますってわけにもいかないだろうし。どうしよう……。
 そうして何もできずただ立ち尽くしていた俺に、後ろから声をかけられた。

「そんなことだろうと思いました」
「え。あ、葛木!?」

 真っ黒い車から出てきたのは、さっきまで顔を会わせていた葛木だった。葛木は、表情こそ変わらないが、心底呆れた声で俺に言う。

「だから行っても無駄だとあれほど言いましたのに」
「う……うるせぇ、今どうするか考えていたところで……」

 俺の苦しい言い訳を聞いているのかいないのか、葛木はポケットから携帯を取り出して、どこかに電話をし始めた。その動きすらスマートで、俺はその様子をぼけっと眺める。

「葛木です。……ええ、失敗して、現在門の前に……申し訳ございません。はい、はい……ええ、今から……かしこまりました」

 そうしてスッと電話を切ると、ポケットに携帯を戻して俺を見た。

「さぁ、行きましょう」
「行くって……」
「未来様と時成様の所にです」

 言いながら葛木は門にある機械をいじり始めた。なれた手つきでナンバーを打ち込むと、胸ポケットからカードを取り出してスキャンする。ピピッと音がすると同時に、その重くてでかい門はゆっくりと開き始めた。

「……もしかしてあんたって、ちょっといい人……?」
「バカを言わないでください。別にあなたの味方をしているわけではありません。私の仕事は、あなたに納得してもらうことですから、それを遂行しているだけです」
「あ、そ……」

 ちょっとでも信じた俺がバカだった。俺は苦笑いを浮かべると、門の中を見た。やたらでかい建物が目に入る。この中に、未来がいる。

「ご案内します。こちらへ」

 俺は、スタスタと歩き始める葛木の背中を慌てて追ったのだった。

 家の中はすごく綺麗に片付いていて、なおかつすごく静かだった。ここに暮らしているのは、未来とお父さんだけで、さらにお父さんはたまにしか戻らない。それがどんなに寂しいことか、身をもって実感した。広い家でも、意味がない。
 俺は、なんとなく実家を思い出した。広いとは言えない、ただただ普通の一軒家。いつも口うるさい母さんがいて、小生意気な妹がいて、夜にはくたびれた父さんが帰ってきて、犬のココルは嬉しそうに玄関へ駆けていって──そんな日々が、いかに幸せだったか。一人になってから、家族の大切さを感じた。でも、未来はそれを持っていないんだ。

「……嫌です」

 聞きなれた声が、耳に届いた。横をみるとふすまで仕切られた部屋がある。この奥に未来がいるんだ。前を歩いていた葛木が足を止めたから、俺も同じく足を止めた。
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