15 / 31
Let's walk together
03
しおりを挟む
「行っても、きっと無駄ですよ」
しばらく粘ったら、葛木はそう言って住所のメモをくれた。悠長に電車を使ってる暇はない。そもそも家は駅から遠い。
かくなる上は……。俺は携帯を取り出して、吉田に電話をかけた。吉田は2コールで出た。
「理由はあとで話すから、車貸して!」
「あ? お前、免許は?」
「高校の時とったけどペーパーです!」
「バッカ、んなやつに貸せるか!」
電話口で怒鳴られる。そりゃそうだ。自分でもちゃんと運転できる気がしない。
しかし、電車とチャリ以外の乗り物なんて、車くらいしか。しょうがない、タクシーか? そう思ったけど、吉田は俺の焦りを感じ取ったのか、
「……あー。じゃあ今からお前んち行くから、待ってろ」
「吉田様! あとでアイス奢ります!」
「安いわ、バーカ。B定な」
そう言って、電話を切った。B定食も十分に安いわ。そうは思ったけど、今は素晴らしい友人がいることにただただ感謝した。吉田はすぐに来てくれて、俺も急いで車に飛び乗った。
「俺がナビするから、言った通りに進んで! なるべく急いで!」
「へっ俺のテクなめんな」
そう言うやいなや、吉田はアクセルを踏み込む。すごいスピード。俺は携帯を片手に、道順を調べて吉田に告げた。思ったより早くつきそうで安心した。
未来の姿が頭をよぎる。それと同時に、友里ちゃんとの会話がよみがえった。
“友里ちゃんって、どんなときに相手のこと『好きだなぁ』って実感する?”
“そうだなぁ……”
“声聞いて、顔見て、ほっとして、『あ、好きだ』って”
いつから、未来が“おかえり”と言ってくれることを当たり前と思うようになったか。俺はそのたびに、その声を聞くたびに、その顔を見るたびに、安心していたんだ。未来がいてくれていることに。
“あとは、笑顔を見たときとか。笑顔を見たいなって思ったときとか”
“笑顔?”
“うん、だって、一緒にいて楽しい時間を共有したり、共有したいなって思ったりするのは、好きだからじゃん?”
生活の中で、時折見せる笑顔。その笑顔に確かにときめいていたのに、顔が好みだからだ、とかってごまかして。本当は、いつも笑っていて欲しかったくせに。
「これか? なんだこれ、でっけー家……」
吉田の声にはっとする。顔をあげると、まじででかい門が立ちはだかっていた。
「なんだこれっ!?」
予想外すぎる。何坪あるんだこの家。
高い外壁に囲まれた家は、見た目は少し古いけど、それを補ってあまりある大きさだ。外壁の中央にある門は、車もそのまま入れるようにだろう、見上げるほどのデカさ。
「えーと、じゃあここで降ろすから、終わったら連絡寄越せ」
「あ、あぁ……」
吉田は巨大な門の前に車を止める。俺はゆっくりと助手席のドアを開け、外へ出た。直接見ると、もっとでかく見える門だ。しばらくして吉田の車は発進し、いよいよ俺一人になったところで、はっとした。このあとのこと、考えてねぇ!
アホだ俺。こんなセキュリティ万全な家を前にして、どうやって未来を取り返そうと言うんだ。明らかにセコム入ってるだろ! 見てみると案の定忌々しいセコムのマークが、門についていた。まさかピンポン押してお邪魔しますってわけにもいかないだろうし。どうしよう……。
そうして何もできずただ立ち尽くしていた俺に、後ろから声をかけられた。
「そんなことだろうと思いました」
「え。あ、葛木!?」
真っ黒い車から出てきたのは、さっきまで顔を会わせていた葛木だった。葛木は、表情こそ変わらないが、心底呆れた声で俺に言う。
「だから行っても無駄だとあれほど言いましたのに」
「う……うるせぇ、今どうするか考えていたところで……」
俺の苦しい言い訳を聞いているのかいないのか、葛木はポケットから携帯を取り出して、どこかに電話をし始めた。その動きすらスマートで、俺はその様子をぼけっと眺める。
「葛木です。……ええ、失敗して、現在門の前に……申し訳ございません。はい、はい……ええ、今から……かしこまりました」
そうしてスッと電話を切ると、ポケットに携帯を戻して俺を見た。
「さぁ、行きましょう」
「行くって……」
「未来様と時成様の所にです」
言いながら葛木は門にある機械をいじり始めた。なれた手つきでナンバーを打ち込むと、胸ポケットからカードを取り出してスキャンする。ピピッと音がすると同時に、その重くてでかい門はゆっくりと開き始めた。
「……もしかしてあんたって、ちょっといい人……?」
「バカを言わないでください。別にあなたの味方をしているわけではありません。私の仕事は、あなたに納得してもらうことですから、それを遂行しているだけです」
「あ、そ……」
ちょっとでも信じた俺がバカだった。俺は苦笑いを浮かべると、門の中を見た。やたらでかい建物が目に入る。この中に、未来がいる。
「ご案内します。こちらへ」
俺は、スタスタと歩き始める葛木の背中を慌てて追ったのだった。
家の中はすごく綺麗に片付いていて、なおかつすごく静かだった。ここに暮らしているのは、未来とお父さんだけで、さらにお父さんはたまにしか戻らない。それがどんなに寂しいことか、身をもって実感した。広い家でも、意味がない。
俺は、なんとなく実家を思い出した。広いとは言えない、ただただ普通の一軒家。いつも口うるさい母さんがいて、小生意気な妹がいて、夜にはくたびれた父さんが帰ってきて、犬のココルは嬉しそうに玄関へ駆けていって──そんな日々が、いかに幸せだったか。一人になってから、家族の大切さを感じた。でも、未来はそれを持っていないんだ。
「……嫌です」
聞きなれた声が、耳に届いた。横をみるとふすまで仕切られた部屋がある。この奥に未来がいるんだ。前を歩いていた葛木が足を止めたから、俺も同じく足を止めた。
しばらく粘ったら、葛木はそう言って住所のメモをくれた。悠長に電車を使ってる暇はない。そもそも家は駅から遠い。
かくなる上は……。俺は携帯を取り出して、吉田に電話をかけた。吉田は2コールで出た。
「理由はあとで話すから、車貸して!」
「あ? お前、免許は?」
「高校の時とったけどペーパーです!」
「バッカ、んなやつに貸せるか!」
電話口で怒鳴られる。そりゃそうだ。自分でもちゃんと運転できる気がしない。
しかし、電車とチャリ以外の乗り物なんて、車くらいしか。しょうがない、タクシーか? そう思ったけど、吉田は俺の焦りを感じ取ったのか、
「……あー。じゃあ今からお前んち行くから、待ってろ」
「吉田様! あとでアイス奢ります!」
「安いわ、バーカ。B定な」
そう言って、電話を切った。B定食も十分に安いわ。そうは思ったけど、今は素晴らしい友人がいることにただただ感謝した。吉田はすぐに来てくれて、俺も急いで車に飛び乗った。
「俺がナビするから、言った通りに進んで! なるべく急いで!」
「へっ俺のテクなめんな」
そう言うやいなや、吉田はアクセルを踏み込む。すごいスピード。俺は携帯を片手に、道順を調べて吉田に告げた。思ったより早くつきそうで安心した。
未来の姿が頭をよぎる。それと同時に、友里ちゃんとの会話がよみがえった。
“友里ちゃんって、どんなときに相手のこと『好きだなぁ』って実感する?”
“そうだなぁ……”
“声聞いて、顔見て、ほっとして、『あ、好きだ』って”
いつから、未来が“おかえり”と言ってくれることを当たり前と思うようになったか。俺はそのたびに、その声を聞くたびに、その顔を見るたびに、安心していたんだ。未来がいてくれていることに。
“あとは、笑顔を見たときとか。笑顔を見たいなって思ったときとか”
“笑顔?”
“うん、だって、一緒にいて楽しい時間を共有したり、共有したいなって思ったりするのは、好きだからじゃん?”
生活の中で、時折見せる笑顔。その笑顔に確かにときめいていたのに、顔が好みだからだ、とかってごまかして。本当は、いつも笑っていて欲しかったくせに。
「これか? なんだこれ、でっけー家……」
吉田の声にはっとする。顔をあげると、まじででかい門が立ちはだかっていた。
「なんだこれっ!?」
予想外すぎる。何坪あるんだこの家。
高い外壁に囲まれた家は、見た目は少し古いけど、それを補ってあまりある大きさだ。外壁の中央にある門は、車もそのまま入れるようにだろう、見上げるほどのデカさ。
「えーと、じゃあここで降ろすから、終わったら連絡寄越せ」
「あ、あぁ……」
吉田は巨大な門の前に車を止める。俺はゆっくりと助手席のドアを開け、外へ出た。直接見ると、もっとでかく見える門だ。しばらくして吉田の車は発進し、いよいよ俺一人になったところで、はっとした。このあとのこと、考えてねぇ!
アホだ俺。こんなセキュリティ万全な家を前にして、どうやって未来を取り返そうと言うんだ。明らかにセコム入ってるだろ! 見てみると案の定忌々しいセコムのマークが、門についていた。まさかピンポン押してお邪魔しますってわけにもいかないだろうし。どうしよう……。
そうして何もできずただ立ち尽くしていた俺に、後ろから声をかけられた。
「そんなことだろうと思いました」
「え。あ、葛木!?」
真っ黒い車から出てきたのは、さっきまで顔を会わせていた葛木だった。葛木は、表情こそ変わらないが、心底呆れた声で俺に言う。
「だから行っても無駄だとあれほど言いましたのに」
「う……うるせぇ、今どうするか考えていたところで……」
俺の苦しい言い訳を聞いているのかいないのか、葛木はポケットから携帯を取り出して、どこかに電話をし始めた。その動きすらスマートで、俺はその様子をぼけっと眺める。
「葛木です。……ええ、失敗して、現在門の前に……申し訳ございません。はい、はい……ええ、今から……かしこまりました」
そうしてスッと電話を切ると、ポケットに携帯を戻して俺を見た。
「さぁ、行きましょう」
「行くって……」
「未来様と時成様の所にです」
言いながら葛木は門にある機械をいじり始めた。なれた手つきでナンバーを打ち込むと、胸ポケットからカードを取り出してスキャンする。ピピッと音がすると同時に、その重くてでかい門はゆっくりと開き始めた。
「……もしかしてあんたって、ちょっといい人……?」
「バカを言わないでください。別にあなたの味方をしているわけではありません。私の仕事は、あなたに納得してもらうことですから、それを遂行しているだけです」
「あ、そ……」
ちょっとでも信じた俺がバカだった。俺は苦笑いを浮かべると、門の中を見た。やたらでかい建物が目に入る。この中に、未来がいる。
「ご案内します。こちらへ」
俺は、スタスタと歩き始める葛木の背中を慌てて追ったのだった。
家の中はすごく綺麗に片付いていて、なおかつすごく静かだった。ここに暮らしているのは、未来とお父さんだけで、さらにお父さんはたまにしか戻らない。それがどんなに寂しいことか、身をもって実感した。広い家でも、意味がない。
俺は、なんとなく実家を思い出した。広いとは言えない、ただただ普通の一軒家。いつも口うるさい母さんがいて、小生意気な妹がいて、夜にはくたびれた父さんが帰ってきて、犬のココルは嬉しそうに玄関へ駆けていって──そんな日々が、いかに幸せだったか。一人になってから、家族の大切さを感じた。でも、未来はそれを持っていないんだ。
「……嫌です」
聞きなれた声が、耳に届いた。横をみるとふすまで仕切られた部屋がある。この奥に未来がいるんだ。前を歩いていた葛木が足を止めたから、俺も同じく足を止めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる