Inevitable Romance?

天乃 彗

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Let's walk together

04

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「この部屋に、時成様と未来様がいらっしゃいます」

 葛木はそう言ったが、中で会話してるみたいだし、急に入るのは気が引ける。とりあえず会話が終わったら入ろう、と中の声に耳を澄ませた。

「いい加減我が儘を言うのは止めないか」
「……我が儘ではないです。その人は、違う」
「それが我が儘だと言うのだ。鶴岡の娘として相応しい行為をしなさい。だからこそ、いままでの勝手な行動に目をつぶっていたんだ」

 勝手な行動って、家出のことかな。ていうか、なんの話だろう。嫌とか、我が儘とか……。

「勝手なのは、お父様です。私は嫌です。……お見合いなんて」
「おっ、お見合いぃ!?」

 驚きのあまり、思わずふすまを勢いよく開けた。あっやべ! 思ったときにはもう遅い。二人の視線が一斉に俺に注がれた。

「……朝霧晃太っ……」

 未来の顔が綻んだように見えた。俺は未来の姿を見たとたん安心してしまって、肩の力が抜けた。

「葛木、彼か」
「はい、左様です」

 二人のやりとりではっとした。そうだ、安心してる場合か。

「お見合いって、どういうことですか?」
「未来に相応しい結婚相手を決めるんだよ。鶴岡の名に恥じないようにね」
「未来は嫌だって言ってます!」
「そんな我が儘は聞けない」

 我が儘、このことか。そんなの、未来じゃなくても嫌に決まってる。知らない相手と結婚なんて、俺だって嫌だ。

「朝霧晃太くん、だね。私の交渉に応じなかったそうだが、君も未来の虚言を信じているのか?」
「……虚言?」

 言ってる意味が分からなかった。虚言ってなんのことだ? 

「自分に神様がついているとか、人の心や未来が見えるとか……そんなことだよ」
「……は……?」
「昔から、仕事柄この子にかまってあげられなかったからね。虚言癖がついてしまったようで、ありもしないことを言うのだ。まして、君が結婚相手だなんてふざけたことを」
「違う! ……嘘じゃ……ない……」

 虚言癖、だって? 俺は弾けるように未来を見た。未来は、俯いて、ぎゅっと唇を噛み締めながら、拳を握りしめていた。本当のことを言っているのに信じてもらえず、なんで信じてくれないのって泣く子供。今の未来は、まさにそんな感じに見えた。
 未来の能力には、確かに信じがたいものがある。しかし、神様云々は別にするとしても、未来は俺の手に触れただけで、心を読んで、データを読んだ。それは恐ろしく正確なものだ。怒りでパワー制御出来ず、物を浮かせるところだって見てる。俺は確かに力は本物だと思うし、今こうして、「嘘じゃない」と言って震えるところを見ても──。

「未来は嘘なんかついてない!」

 俺は、未来を背にして時成さんの前に立って叫んだ。威圧感に思わず怯むけど、ここで目をそらしたらダメだと思った。

「証拠はあるのか? 娘が嘘をついていない証拠は」
「そんなものない!」
「ないのにふざけたことを言っているのか?」
「証拠はない、けど……未来と一緒にいればすぐにわかる。あなたは、今まで未来と一緒にいなかったから、それがわからないだけだ」
「何……?」

 時成さんの眉がピクリと動いた。癪にさわったのかもしれないけど、止まらない。俺には未来みたいな特殊な能力はないけど、今は未来の気持ちがわかる気がするから、代わりに伝えたい。

「自分のことを信じてくれない親に、将来を決められて──未来が今までどんな気持ちでいたか考えたことがありますか!?」
「朝霧晃太っ……もう……」

 未来が俺の言葉を制そうとする。未来がこれ以上を望まないなら、俺がとやかく言う必要はない。ないけど──。

「それでも未来の力が信じられないって言うなら、俺が証明してやりますよ!」
「証明、だと?」

 時成さんが意外そうな顔をする。これを言ってしまえば、もう後には退けない。でも、それでもいいって、決めた。彼女が、それを見たと言うのなら。
 俺はギュッと拳を握りしめて、唾を飲み込む。

「近い将来、最高の笑顔をした未来を連れて、あなたに会いに来ますから! 鶴岡の名に恥じないくらいに成長した俺が、“娘さんを僕にください”って言いに来ます!」
「……っ!? あさ、」
「それまでは俺が未来を預かります。未来をお見合いさせるかどうかは、それから決めればいい。それまでは、首を長くして待っててくださいね!」
「ちょ……」
「行くよ、未来!」

 俺は勢いよく振り返り、未来の手をつかんだ。開けっ放しだったふすまから飛び出して、俺は未来をさらっていった。


 * * *


 部屋に取り残された葛木と時成。先ほど二人が出ていったふすまの先を見つめながら、しばし沈黙していた。

「どうなさいますか」

 沈黙を破ったのは葛木だった。その声にはっとしたように、時成は葛木に振り返る。

「……構わん。しばらく好きにさせておけ」
「しばらく、とは、彼が結婚の挨拶に来るまで、ということですか?」

 そう言うと、葛木はすぐに頭を下げた。

「──失礼しました。出過ぎた発言でした」

 時成は小さくため息をつく。計画がめちゃくちゃだ。相手は貧乏学生だから、金をちらつかせれば、きっと簡単に諦める。ましてや、虚言癖のある娘のことなど。そう思っていたのに。

“未来は嘘なんかついてない!”
“証拠はない、けど……未来と一緒にいればすぐにわかる。あなたは、今まで未来と一緒にいなかったから、それがわからないだけだ”
“自分のことを信じてくれない親に、将来を決められて──未来が今までどんな気持ちでいたか考えたことがありますか!?”

 あの青年は、ただただ真っ直ぐな目でそう言った。それが、にわかには信じられなかった。

「なぁ、葛木。大抵の人間は、私には逆らわず、私の機嫌を伺ってばかりだ。もちろん葛木、お前も含めてな」
「……はい」
「あんな風に、真剣に考えをぶつけられたのは初めてだった」
「……はい」
「彼は、思ったより──いや、いい。聞かなかったことにしろ」
「はい」

 時成はもう一度小さくため息をつくと、いつも通りの切れ者の目に戻った。葛木もなにも言わず、その様子を眺める。

「そろそろ、自分たちが未来の荷物を忘れてきたことに気づいただろう。葛木、持っていってやれ」
「かしこまりました」

 葛木は一礼したあと、部屋をあとにした。そのまま未来の荷物を取りに向かったのだろう。時成はただ一人、しんと静まり返った室内で、宙を見つめた。


 * * *
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