16 / 31
Let's walk together
04
しおりを挟む
「この部屋に、時成様と未来様がいらっしゃいます」
葛木はそう言ったが、中で会話してるみたいだし、急に入るのは気が引ける。とりあえず会話が終わったら入ろう、と中の声に耳を澄ませた。
「いい加減我が儘を言うのは止めないか」
「……我が儘ではないです。その人は、違う」
「それが我が儘だと言うのだ。鶴岡の娘として相応しい行為をしなさい。だからこそ、いままでの勝手な行動に目をつぶっていたんだ」
勝手な行動って、家出のことかな。ていうか、なんの話だろう。嫌とか、我が儘とか……。
「勝手なのは、お父様です。私は嫌です。……お見合いなんて」
「おっ、お見合いぃ!?」
驚きのあまり、思わずふすまを勢いよく開けた。あっやべ! 思ったときにはもう遅い。二人の視線が一斉に俺に注がれた。
「……朝霧晃太っ……」
未来の顔が綻んだように見えた。俺は未来の姿を見たとたん安心してしまって、肩の力が抜けた。
「葛木、彼か」
「はい、左様です」
二人のやりとりではっとした。そうだ、安心してる場合か。
「お見合いって、どういうことですか?」
「未来に相応しい結婚相手を決めるんだよ。鶴岡の名に恥じないようにね」
「未来は嫌だって言ってます!」
「そんな我が儘は聞けない」
我が儘、このことか。そんなの、未来じゃなくても嫌に決まってる。知らない相手と結婚なんて、俺だって嫌だ。
「朝霧晃太くん、だね。私の交渉に応じなかったそうだが、君も未来の虚言を信じているのか?」
「……虚言?」
言ってる意味が分からなかった。虚言ってなんのことだ?
「自分に神様がついているとか、人の心や未来が見えるとか……そんなことだよ」
「……は……?」
「昔から、仕事柄この子にかまってあげられなかったからね。虚言癖がついてしまったようで、ありもしないことを言うのだ。まして、君が結婚相手だなんてふざけたことを」
「違う! ……嘘じゃ……ない……」
虚言癖、だって? 俺は弾けるように未来を見た。未来は、俯いて、ぎゅっと唇を噛み締めながら、拳を握りしめていた。本当のことを言っているのに信じてもらえず、なんで信じてくれないのって泣く子供。今の未来は、まさにそんな感じに見えた。
未来の能力には、確かに信じがたいものがある。しかし、神様云々は別にするとしても、未来は俺の手に触れただけで、心を読んで、データを読んだ。それは恐ろしく正確なものだ。怒りでパワー制御出来ず、物を浮かせるところだって見てる。俺は確かに力は本物だと思うし、今こうして、「嘘じゃない」と言って震えるところを見ても──。
「未来は嘘なんかついてない!」
俺は、未来を背にして時成さんの前に立って叫んだ。威圧感に思わず怯むけど、ここで目をそらしたらダメだと思った。
「証拠はあるのか? 娘が嘘をついていない証拠は」
「そんなものない!」
「ないのにふざけたことを言っているのか?」
「証拠はない、けど……未来と一緒にいればすぐにわかる。あなたは、今まで未来と一緒にいなかったから、それがわからないだけだ」
「何……?」
時成さんの眉がピクリと動いた。癪にさわったのかもしれないけど、止まらない。俺には未来みたいな特殊な能力はないけど、今は未来の気持ちがわかる気がするから、代わりに伝えたい。
「自分のことを信じてくれない親に、将来を決められて──未来が今までどんな気持ちでいたか考えたことがありますか!?」
「朝霧晃太っ……もう……」
未来が俺の言葉を制そうとする。未来がこれ以上を望まないなら、俺がとやかく言う必要はない。ないけど──。
「それでも未来の力が信じられないって言うなら、俺が証明してやりますよ!」
「証明、だと?」
時成さんが意外そうな顔をする。これを言ってしまえば、もう後には退けない。でも、それでもいいって、決めた。彼女が、それを見たと言うのなら。
俺はギュッと拳を握りしめて、唾を飲み込む。
「近い将来、最高の笑顔をした未来を連れて、あなたに会いに来ますから! 鶴岡の名に恥じないくらいに成長した俺が、“娘さんを僕にください”って言いに来ます!」
「……っ!? あさ、」
「それまでは俺が未来を預かります。未来をお見合いさせるかどうかは、それから決めればいい。それまでは、首を長くして待っててくださいね!」
「ちょ……」
「行くよ、未来!」
俺は勢いよく振り返り、未来の手をつかんだ。開けっ放しだったふすまから飛び出して、俺は未来をさらっていった。
* * *
部屋に取り残された葛木と時成。先ほど二人が出ていったふすまの先を見つめながら、しばし沈黙していた。
「どうなさいますか」
沈黙を破ったのは葛木だった。その声にはっとしたように、時成は葛木に振り返る。
「……構わん。しばらく好きにさせておけ」
「しばらく、とは、彼が結婚の挨拶に来るまで、ということですか?」
そう言うと、葛木はすぐに頭を下げた。
「──失礼しました。出過ぎた発言でした」
時成は小さくため息をつく。計画がめちゃくちゃだ。相手は貧乏学生だから、金をちらつかせれば、きっと簡単に諦める。ましてや、虚言癖のある娘のことなど。そう思っていたのに。
“未来は嘘なんかついてない!”
“証拠はない、けど……未来と一緒にいればすぐにわかる。あなたは、今まで未来と一緒にいなかったから、それがわからないだけだ”
“自分のことを信じてくれない親に、将来を決められて──未来が今までどんな気持ちでいたか考えたことがありますか!?”
あの青年は、ただただ真っ直ぐな目でそう言った。それが、にわかには信じられなかった。
「なぁ、葛木。大抵の人間は、私には逆らわず、私の機嫌を伺ってばかりだ。もちろん葛木、お前も含めてな」
「……はい」
「あんな風に、真剣に考えをぶつけられたのは初めてだった」
「……はい」
「彼は、思ったより──いや、いい。聞かなかったことにしろ」
「はい」
時成はもう一度小さくため息をつくと、いつも通りの切れ者の目に戻った。葛木もなにも言わず、その様子を眺める。
「そろそろ、自分たちが未来の荷物を忘れてきたことに気づいただろう。葛木、持っていってやれ」
「かしこまりました」
葛木は一礼したあと、部屋をあとにした。そのまま未来の荷物を取りに向かったのだろう。時成はただ一人、しんと静まり返った室内で、宙を見つめた。
* * *
葛木はそう言ったが、中で会話してるみたいだし、急に入るのは気が引ける。とりあえず会話が終わったら入ろう、と中の声に耳を澄ませた。
「いい加減我が儘を言うのは止めないか」
「……我が儘ではないです。その人は、違う」
「それが我が儘だと言うのだ。鶴岡の娘として相応しい行為をしなさい。だからこそ、いままでの勝手な行動に目をつぶっていたんだ」
勝手な行動って、家出のことかな。ていうか、なんの話だろう。嫌とか、我が儘とか……。
「勝手なのは、お父様です。私は嫌です。……お見合いなんて」
「おっ、お見合いぃ!?」
驚きのあまり、思わずふすまを勢いよく開けた。あっやべ! 思ったときにはもう遅い。二人の視線が一斉に俺に注がれた。
「……朝霧晃太っ……」
未来の顔が綻んだように見えた。俺は未来の姿を見たとたん安心してしまって、肩の力が抜けた。
「葛木、彼か」
「はい、左様です」
二人のやりとりではっとした。そうだ、安心してる場合か。
「お見合いって、どういうことですか?」
「未来に相応しい結婚相手を決めるんだよ。鶴岡の名に恥じないようにね」
「未来は嫌だって言ってます!」
「そんな我が儘は聞けない」
我が儘、このことか。そんなの、未来じゃなくても嫌に決まってる。知らない相手と結婚なんて、俺だって嫌だ。
「朝霧晃太くん、だね。私の交渉に応じなかったそうだが、君も未来の虚言を信じているのか?」
「……虚言?」
言ってる意味が分からなかった。虚言ってなんのことだ?
「自分に神様がついているとか、人の心や未来が見えるとか……そんなことだよ」
「……は……?」
「昔から、仕事柄この子にかまってあげられなかったからね。虚言癖がついてしまったようで、ありもしないことを言うのだ。まして、君が結婚相手だなんてふざけたことを」
「違う! ……嘘じゃ……ない……」
虚言癖、だって? 俺は弾けるように未来を見た。未来は、俯いて、ぎゅっと唇を噛み締めながら、拳を握りしめていた。本当のことを言っているのに信じてもらえず、なんで信じてくれないのって泣く子供。今の未来は、まさにそんな感じに見えた。
未来の能力には、確かに信じがたいものがある。しかし、神様云々は別にするとしても、未来は俺の手に触れただけで、心を読んで、データを読んだ。それは恐ろしく正確なものだ。怒りでパワー制御出来ず、物を浮かせるところだって見てる。俺は確かに力は本物だと思うし、今こうして、「嘘じゃない」と言って震えるところを見ても──。
「未来は嘘なんかついてない!」
俺は、未来を背にして時成さんの前に立って叫んだ。威圧感に思わず怯むけど、ここで目をそらしたらダメだと思った。
「証拠はあるのか? 娘が嘘をついていない証拠は」
「そんなものない!」
「ないのにふざけたことを言っているのか?」
「証拠はない、けど……未来と一緒にいればすぐにわかる。あなたは、今まで未来と一緒にいなかったから、それがわからないだけだ」
「何……?」
時成さんの眉がピクリと動いた。癪にさわったのかもしれないけど、止まらない。俺には未来みたいな特殊な能力はないけど、今は未来の気持ちがわかる気がするから、代わりに伝えたい。
「自分のことを信じてくれない親に、将来を決められて──未来が今までどんな気持ちでいたか考えたことがありますか!?」
「朝霧晃太っ……もう……」
未来が俺の言葉を制そうとする。未来がこれ以上を望まないなら、俺がとやかく言う必要はない。ないけど──。
「それでも未来の力が信じられないって言うなら、俺が証明してやりますよ!」
「証明、だと?」
時成さんが意外そうな顔をする。これを言ってしまえば、もう後には退けない。でも、それでもいいって、決めた。彼女が、それを見たと言うのなら。
俺はギュッと拳を握りしめて、唾を飲み込む。
「近い将来、最高の笑顔をした未来を連れて、あなたに会いに来ますから! 鶴岡の名に恥じないくらいに成長した俺が、“娘さんを僕にください”って言いに来ます!」
「……っ!? あさ、」
「それまでは俺が未来を預かります。未来をお見合いさせるかどうかは、それから決めればいい。それまでは、首を長くして待っててくださいね!」
「ちょ……」
「行くよ、未来!」
俺は勢いよく振り返り、未来の手をつかんだ。開けっ放しだったふすまから飛び出して、俺は未来をさらっていった。
* * *
部屋に取り残された葛木と時成。先ほど二人が出ていったふすまの先を見つめながら、しばし沈黙していた。
「どうなさいますか」
沈黙を破ったのは葛木だった。その声にはっとしたように、時成は葛木に振り返る。
「……構わん。しばらく好きにさせておけ」
「しばらく、とは、彼が結婚の挨拶に来るまで、ということですか?」
そう言うと、葛木はすぐに頭を下げた。
「──失礼しました。出過ぎた発言でした」
時成は小さくため息をつく。計画がめちゃくちゃだ。相手は貧乏学生だから、金をちらつかせれば、きっと簡単に諦める。ましてや、虚言癖のある娘のことなど。そう思っていたのに。
“未来は嘘なんかついてない!”
“証拠はない、けど……未来と一緒にいればすぐにわかる。あなたは、今まで未来と一緒にいなかったから、それがわからないだけだ”
“自分のことを信じてくれない親に、将来を決められて──未来が今までどんな気持ちでいたか考えたことがありますか!?”
あの青年は、ただただ真っ直ぐな目でそう言った。それが、にわかには信じられなかった。
「なぁ、葛木。大抵の人間は、私には逆らわず、私の機嫌を伺ってばかりだ。もちろん葛木、お前も含めてな」
「……はい」
「あんな風に、真剣に考えをぶつけられたのは初めてだった」
「……はい」
「彼は、思ったより──いや、いい。聞かなかったことにしろ」
「はい」
時成はもう一度小さくため息をつくと、いつも通りの切れ者の目に戻った。葛木もなにも言わず、その様子を眺める。
「そろそろ、自分たちが未来の荷物を忘れてきたことに気づいただろう。葛木、持っていってやれ」
「かしこまりました」
葛木は一礼したあと、部屋をあとにした。そのまま未来の荷物を取りに向かったのだろう。時成はただ一人、しんと静まり返った室内で、宙を見つめた。
* * *
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる