Inevitable Romance?

天乃 彗

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Let's walk together

05

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「あ、さ……あさぎっ……ちょっ……」

 後ろから未来の声がする。でも俺は返事をせず、ずんずんと歩みを続ける。

「朝霧、晃太! っ……手、いたい……」

 掠れた声に、ようやく我に帰った。俺は慌てて未来の手を離すと、即座に謝った。

「わっ! ご、ごめん! 跡になっちゃって──」

 未来は小さく首を横に振る。「いいの」、と、小さな声で言った。とりあえず、また歩き出そうとしたところで、服の裾をきゅっと掴まれた。

「……しばらく、こうしてても、いい?」

 弱々しく紡がれたその声に、拒否する気は起きず、

「……うん」

とだけ言った。
 いつになくしおらしげな未来に、なんて言ったらいいのか分からず、ゆっくりと歩き出した。しかし、無言なのもおかしくはないだろうか。少なくとも、さっきみたいな出来事があったのだから、何かしらの会話はすべきでは。
 ふと、さっきみたいな、で思い出した。さっき時成さんに言った言葉は、ほとんどプロポーズじゃ──!? 

「未来っあの──」
「朝霧晃太っ、あのねっ……」

 勢いよく振り返る。するとほぼ同時に、未来も言葉を発した。俺はとりあえず黙って、未来の言葉の続きを聞くことにした。

「……嬉し、かったの」
「え?」

 未来は俯きながら、胸元で拳をギュッと握りしめた。必死で言葉を探しているのか。そういえば、未来が自分の気持ちを伝えてくれるのは、初めてかもしれない。

「私の、予知夢は、絶対じゃなくて。……そうなるかもしれないって、だけで。だから、少しでも、ねじれが起きれば……叶わなくなるかも、しれなくて」
「……うん」
「お父様が私を連れ戻すのも、予想外で。こうして晃太が来てくれるのも……予想外で」
「……うん」
「ん、違っ……予知夢が叶うには、何より朝霧晃太の、気持ち次第で……気持ちは、どうにもできなくて」
「……うん」

 しどろもどろになりながらも、懸命に話す未来が可愛くて、俺は未来の頭をそっと撫でた。ゆっくりでいいんだよって、そんな言葉を込めて。すると未来は、我慢していたらしい涙をじわじわ目にためながら、俺を見つめた。

「とにかくっ……嬉しかったの。あなたが迎えに来てくれたこともっ……お父様に、私が嘘をついてないって言ってくれたこともっ……証明してくれるって、言ったこともっ……! 全部っ全部っ……!」

 とうとう、未来の目にたまった涙が一筋、頬を流れた。

“あとは……愛されてるなぁって、実感するとき、かな”

 不意に、友里ちゃんの言葉が頭によぎる。俺がしたことをすべて、“嬉しかった”と泣く未来。未来は、俺を、こんなに真っ直ぐ愛してくれていた。
 その瞬間──未来に出会ってからゆっくりと俺の中で育ってきた感情が溢れ出した。彼女に対する、たくさんの“好き”。一度気付いてしまったら、もう止めることなど出来ないのだ。
 俺は耐えきれなくなって、未来のことを思い切り抱き締めた。強く、強く抱き締めた。

「未来……待たせてごめんね。ようやく分かったよ。俺は、未来のことが好きだ。すごい好き」
「……晃、太……」

 何故か冷静に、初めて名前で呼んでくれたなぁなんて思いながら、未来の目を見つめる。

「旦那さん、のその前に。未来の彼氏にしてくれませんか?」

 未来は驚いたように目を開いたあと、またポロポロと涙をこぼした。俺はその涙を指でぬぐいながら、未来のすべてが愛しくて愛しくて、笑みをこぼした。

「そんなのっ……決まってる……!」

 未来は自分から俺の首もとに抱きついた。俺もそれを受け止めながら、未来の頭を撫でたのだった。


 * * *


「あっ」

 ようやく泣き止んだ未来が、小さく言った。何事か、と俺は身構える。

「……荷物、置いてきちゃった」
「……あ!」

 そういえば! 俺の家は未来の荷物すべて持ち出されていて、なにもなくなっていた。時成さんは荷物ごと未来を連れ戻したのだ。

「しまったな……あんなこと言って出ていった手前、戻るわけにも」
「……どうしよう」

 二人で首を捻っていると、見覚えのある車が俺らの横に止まった。窓が開くと、葛木の仏頂面が。まずい、未来を連れ戻しに来たのか? 

「葛木っ……!」
「ご安心ください、未来様を連れ戻しに来たわけではありませんよ」
「……? じゃあ、何しに」

 すると葛木は車から降りて、トランクをあけた。中にはキャリーケース──未来の荷物が入っていた。

「それっ……」
「お忘れのようだったので、お届けに。何なら、お二人をご一緒に朝霧様の自宅までお送りしますが、いかがなさいますか?」

 連れ戻されるわけではないようなので安心した。ほっと肩を下ろすと、未来を見つめた。……今は、少しでも一緒にいたいな。

「いいや。荷物だけもらって、歩いていきます。ね? 未来」

 未来も同じ気持ちだったのか、こくりと頷いた。葛木は「かしこまりました」と一礼すると、俺に未来の荷物を手渡した。時成さんは認めてくれたのか──聞きたかったけど、聞けなかった。葛木はまた一礼だけすると、さっさと車に乗り込み、行ってしまった。不思議な人だったな……葛木。

「晃太……重いでしょ」
「平気平気。行こう」

 空いた方の手を未来に差し出す。今までさんざん勝手に人の手を繋いできたくせに、未来は少しためらったあと、そっと手を乗せた。
 いろいろあったけど、俺と未来はようやく、共に歩む人生の一歩を踏み出したのだ。その足取りが軽やかなのは、やっぱり隣を歩くのが未来だから──そう思った。
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