Inevitable Romance?

天乃 彗

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Let the double date!

04

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 日が傾いてきている。園内をぐるりと一周するように回っていた俺らだったけど、残すアトラクションもあと一つとなっていた。デートの定番中の定番……観覧車だ。

「時間的にこれがラストかなー」
「あぁ、そうだな」
「これは二組に別れようか? 私、今日未来ちゃん独占しちゃったし」
「あっ、いや、その」

 (もちろん友里ちゃんの真意を知るまでだったけど、)あんまりよく思ってなかったのばれてたみたいだ。俺は慌てて取り繕うとしたけど、友里ちゃんは「いいのいいの」と笑った。

「あ、そうだ。未来ちゃん」
「?」

 友里ちゃんは、何かを思いついたように未来に近寄って耳打ちをする。その表情は実に楽しそうだけど、一体何を話しているのだろう。耳打ちが終わるまで静かに友里ちゃんの話を聞いていた未来だったが、友里ちゃんが未来のそばから離れた瞬間、まるで火がついたように未来の顔が真っ赤に染まった。
 友里ちゃん、マジで何を言ったんだ!? 

「あの、未来?」
「……っ!」
「じゃ、お先~っ! 行こ、マサ!」
「? お、おう」
「ちょ、友里ちゃん!? 一体何を……」

 その答えを聞く前に、友里ちゃんと吉田は先にゴンドラに乗り込んでしまった。あんぐりと口を開いたままの俺に、友里ちゃんは呑気に手を振っている。何か言ってる。……口の動きから察するに、「頑張ってね」、かな。いや、何を! 何をですか先輩! 
 恐る恐る未来を見る。未来は相変わらず真っ赤な顔で、俯いてしまっていた。……何、その顔。そんな顔されたら、俺も緊張してしまう。

「どうぞー」
「あ、はい。未来、行こ」

 係員さんに促され、固まっている未来を引きずるようにゴンドラに乗り込んだ。ぎこちなくとった未来の手もまた、ぎこちなかった。
 俺らが入ったことで、ゴンドラががたりと揺れる。未来に反対側に座るように声を掛けると、何も言わずにストンと座った。

「……」
「……」

 二人きり、なんてシチュエーション、慣れてるはずなのに。呼吸が伝わるほど狭いゴンドラの中、向かい合って二人きり。ゴンドラはゆっくり空に昇って行く。夕日が綺麗だと思った。でも、それを口に出すのもなんだか躊躇われて、息が苦しい。視界の端で、未来が膝に乗せた自身の手をギュッと握りしめた。それだけで、未来の緊張が伝わってくるような。とにかく、この緊張を解いてやらねば──彼氏、なんだし。俺。

「……今日一日、楽しかった? 未来」

 とりあえず、何でもない話から。俺がそう尋ねると、未来は勢い良く顔を上げた。まだ火照ったままの顔で見つめられて、ドキリとする。……いかんいかん! 俺が緊張してどうする。

「……楽し、かった。すごく」
「そ、か。よかった。友里ちゃんも未来にすごいよくしてくれたみたいだしね」
「……」

──……あれ? 

 どうしてだろう。俺が「友里ちゃん」という言葉を出した瞬間、未来の顔が悲しげに歪んで俯いてしまった。そんな反応が返ってくるとは思わず、俺は何と声をかければいいのかわからなくなってしまった。予定では、明るい反応が返ってきてからの朗らかムードだったのに。

「……晃太」
「はい!?」

 急に未来が顔をあげて、驚いて声が裏返る。未来は苦しげに眉をしかめて、胸のあたりでギュッと拳を握りしめた。

「晃太、あのね。私、今まで他人なんでどうでもいい、私には晃太だけいればいいと思ってたの。力のせいで……他人にはどうしても、気持ち悪いと、思われるから」
「……うん」
「でもね、違かった。あの子は、違かったの。私の力をわかってて、手を握ってくれた。そんなこと、初めてだったの」

 “あの子”というのは、きっと、友里ちゃんのことだ。そういえば、未来は吉田のことも友里ちゃんのことも名前で呼ばない。俺のことさえ、長い間フルネームで呼んでいた彼女だ。それはきっと距離感の掴み方がわからないことの表れなのだろう。

「心も、見えてしまった。あの子は、私と仲良くなりたいと思ってたの」
「はは、友里ちゃんらしいね」
「──ねぇ、晃太。私……、私も、あの子と仲良くなりたい。でも、なり方がわからない。どうしたらいいかわからないの。どうしたらいいの?」

 未来は、真剣な顔で俺を見た。その真剣さが可笑しくて、俺は思わず笑いそうになってしまう。
 そんなことさえ、未来にとっては新しい世界なんだ。悩んで、悩んで、きっと今未来は大きな一歩を踏み出そうとしてる。なら俺は、その背中を押してあげたい。支えてあげたい。でもさ、未来。「仲良くなりたい」と、そう思ったら、それはもう──。

「俺に言ったことそのまま、友里ちゃんに伝えたらいいんだよ。きっと喜ぶ」
「……本当に?」
「うん、本当。絶対。あ、あと、ちゃんと名前で呼んであげること。あの子でもあなたでもなく。わかった?」
「……うん」

 そう言うと、未来はさっきの苦しげな表情を和らげた。心配事がなくなったからか。すると、未来は吉田たちが乗っているゴンドラの方を眺めながら、ポツリと声を漏らした。

「あの子……友里ちゃんって、いい人ね。あのハリネズミには勿体無いくらい」
「ははは……」

 未来の言葉に、俺は曖昧に笑って見せた。そりゃ端から見れば吉田はちゃらんぽらんだけど、吉田には吉田のいいところがあって、友里ちゃんもそれをわかっている。そして多分、完璧に見える友里ちゃんにもダメなところはあって、それさえも吉田はわかっているはずだ。お互いの長所も短所も理解した上で好きあってる二人なんだから、やっぱりそういう意味で、二人はお似合いなんだと思う。それに──「勿体無い」のは未来だって同じだ。

「ていうか、俺にだってわからないよ。どうして未来みたいな可愛い子が俺と付き合ってるのか。それこそ勿体無いって気がするけど」

 ちょっと自虐的な言い方になったけど、事実だから仕方がない。俺は顔だって普通だし、頭も悪くはないけどよくもないし、秀でたところなんてない普通の大学生だ。未来みたいな美少女に釣り合う人間だとは、到底思えない。

「……晃太の、魅力は」
「ん?」
「私にしかわからなくて、いいの……」

 そう呟くと同時に、未来は俺の手をとった。俺の右手を両方の手のひらで包むように握る──“見る”時の握り方だ。

「晃太は素敵よ。他の人にそれを知られたら、二人の未来が狂ってしまう」
「そんな、まさか。ないよ」
「あるの」

 他の人……多分、女の子のことだろうけど。今までもてた試しもないし、そんなことないと思うけどな。でも、未来が「ある」と断言するもんだから、なにも言えなくなってしまう。すると未来は、握った手のひらにより一層力を込めた。
 胸が高鳴る。シチュエーションのせいか、いつもよりドキドキする。意識しないようにしてたのに、未来の艶やかな髪に、柔らかい肌に、濡れた唇に、細い身体に、目が行ってしまう。今すぐ抱きしめて、キスしたくなる──。

「……こうしたら、私の気持ちも伝わればいいのに」
「え?」
「私は、晃太がいいの。晃太じゃないと駄目なの。夢に見た未来の私は、笑ってた。そうすることが出来るのは、きっと晃太だけだから」
「未来……」
「だから、そんな風に言わないで」

 じっと、真っ直ぐ俺の目を見る未来。俺はこの目が好きだ。俺を捕らえて、離さなくする。俺の全てを、見つめてくれる瞳。

「……うん、ごめん」

 そう言うと、未来はそっと力を緩めた。それでも手は繋いだまま。それがまた緊張する。手なんか繋いでなくても、お互いの緊張が手に取るようにわかってしまう。チラリと未来を見ると、握った手をじっと見つめたまま、下唇を噛み締めていた。
 外を見ると、いつの間にか高いところまできていて、あと数分で頂上というところだった。人がゴミのようだ……なんて考えても緊張がほぐれるわけもなく。
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