Inevitable Romance?

天乃 彗

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01

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 大学から帰ってくるや否や、自宅の前に背広の男が立っていたらそりゃあ誰だって驚いて警戒するはずだ。しかもその男が記憶に新しく、その記憶が割と嫌なものであればなおさら。
 前に未来は、実のお父さんに連れ戻され、お見合いさせられそうになった。その実行犯(?)が奴だ。まぁ、ちょっと助けてもらったり、実はいい人かもとも思ったけど。
 鶴岡時成第一秘書──確かそんな肩書きだったその男・葛木は、俺のうちのドアの前で身じろぎもせず突っ立っている。一体何をしているんだろう。しばらくしたらいなくなってくれると思って影から眺めること10分、いなくなる気配はない。
 今日、未来は家にいるはずだ。それをわかってて来たんだろうけど、ピンポンなりなんなりすればいいのに……あ、いや、したけど出なかったのかな、寝てて。
 また連れ戻しに来たわけじゃなさそうだった。そうするつもりだったらさっさとしてるだろうし。かと言ってただ監視しているだけのようにも見えない。俺は意を決して奴に声をかけることにした。

「未来なら中にいますけど」

 俺の声に気づいた葛木は、顔色を変えることなく俺に視線を向けた。相変わらずのポーカーフェイス。

「存じております」
「じゃあ、何してるんすか、人ん家の前で」

 未来に用事があったわけじゃないのか? 不思議に思って尋ねたら、葛木はチラリ、と手元の紙袋に目をやった。

「……ケータイ?」

 それは有名な携帯会社のロゴが入った紙袋で、その中の箱には携帯が、しかも新品のそれが入っているのは明らかだ。あー、俺んとこと同じ会社だな、だなんて思ったけど、問題はなぜ葛木がそんなものを持っているのか。

「ええ。未来様は携帯電話をお持ちでないので、これをお渡しするようにと」
「なんでそんなこと?」
「あなたの経済力では難しいでしょう」
「なっ! そういうことじゃなくて!」

 図星を突かれつい大きな声が出た。慌てて口を塞いだけど、後の祭りだ。
 確かに未来は携帯を持ってなくて、携帯の必要性はこの間の連れ戻し事件で痛いほど感じていた。だけど、未来は基本的に俺と一緒にいるか留守番してるし、まぁなくても大丈夫だって思っていた。

「お友達、とやりとりをなさるのに必要でしょう?」
「!」

 この人は、いや、この人たちは、どこまで知っているんだろう。もしかしたら、全部? 全部分かられた上で野放しにされてる──時成さんの手のひらで転がされてるのかと思うと、少しゾッとした。
 いやいや! 立ち向かうと決めたじゃないか! ふるふると首を振って、葛木に向き合う。

「そ、それって、GPSとかついてるだろ? また連れ戻す気じゃないだろうな!?」
「そのようなことはないのでご安心を」
「だったら未来いるんだし、渡せばよかったじゃんか」

 そう言うと、葛木は少し黙った。

「私からお渡ししても、受け取ってはもらえないでしょうから」
「あー……」

 未来は可愛い顔して頑固だからな。一度決めたことは絶対に曲げないし。いきなり現れて、一緒に住むといって聞かなかった時のことを思い出して、思わず苦笑した。

「……本当に、連れ戻したりしないんだな?」
「はい」
「……うーん、なら、いいか」

 実際、不便には感じていたんだ。携帯を持ってない未来は、友達の友里ちゃんとのやりとりも俺を通じてだし、携帯ないから、一人で外出させるのも不安で、それを読み取ってか、未来はいつも家にいるみたいだったし。未来も年頃の女の子なわけで、買い物とか、行きたい時に行けないのは辛いだろう。

「わかった、渡しとく」
「……ありがとうございます」

 葛木は深々と礼をして、紙袋を俺に手渡した。

「じゃあ、私はこれで」

 用が済んだからか、そそくさと立ち去ろうとする葛木。その背中に俺は叫んだ。

「時成さんからだって、ちゃんと伝えておくからな!」

 振り向いた葛木の顔は、少しだけ、本当に少しだけ驚きで歪んだ。

「本当に、お人好しなんですね?」
「ほっとけ!」

 形はどうあれ、未来のことを考えて渡してくれたものならば、伝えないとと思った。今はまだ歪な関係で、親子の距離が遠くても、俺が働きかけることで少しでも関係が良くなっていけば。
 葛木は少し黙って、「伝えたければお好きに」とだけ言って去っていった。俺は渡された紙袋をしばらく眺めた。未来、喜ぶかな。これがあれば、一人で外出も出来るし、友里ちゃんとも自由にやり取り出来るし……と、ここまで考えて、ふと、気付く。ん? 外出? 

──あ。

 重要なことを思い出した。そうなれば、こうしちゃいられない。俺は家には帰らず、紙袋を持ったまま駆け出したのだった。


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