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CAT-GPsT

Story 1: main-dide chapter-5 【Quiet Execution】

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 窓から差し込む光で目を覚ました。
 今日もいつになく心地の良い目覚めだ。

 昨夜はすっかり夜更かしをしてしまった。
 そのぐらいCAT-GPsTの虜になっている。
 そして、今日、ついに俺の復讐がはじまる。
 こんなにワクワクした朝は本当にいつ以来だろうか?

 ベッドから起き上がり、洗面所に向かう。
 歯を磨き、顔を洗った。
 どうにも口元がニヤけてしまうのが抑えきれない。
 そんな湧き上がる高揚感をグッと堪えて、
 着替えを済ませた。

 本当に簡単な朝食を用意する。
 パンと珈琲だけだ。
 それでもなにか食べておかないと1日どうも調子がでないので、
 いつは無理やり食べるのだが、今日は何を食べても美味しく感じる。
 人間、気の持ちようで様々なことの感じ方が変わるのだなと実感していた。

 朝食を食べ終えると、すぐに会社に向かう時間になる。
 電車に乗り遅れては大変なので、そそくさと鞄を持って家を出る。

 毎日とにかく地獄へ向かうかのようだった電車通勤が、
 真逆に感じるのもCAT-GPsTに出会ったからだと思うと、
 人生どこで何が起こるかわからないものである。

 しばらく電車に揺られていると
 あっという間に会社最寄りの駅に到着した。
 心なしか足取りも軽く、会社に向かう。

 自分のフロアに向かうエレベーターを待っていると、
 ふと、数人前にヤツが立っていることに気が付いた。

 そう、早川幸雄だ。

 昨日、CAT-GPsTで実行した指令は
 まだすべて完了していないはずなので、
 ヤツが焦るようなそぶりは見せないだろうが、
 ちょっと遠めに様子を見てみることにした。

 見る限りいつも通りにクールを装ったかのような、
 ちょっとかっこつけているようなヤツの様子が見えた。
 やっぱりまだ何も起こらないかと思った瞬間、
 ヤツがスマートフォンを手に取る様子が見えた。
 そして、ヤツの表情がこわばっていく。
 これは徐々に指令が行き渡ってきたのだろうか?
 ニヤけそうになるのをぐっと我慢し、
 エレベーターがくるのを待った。

 ヤツは1つ前のエレベーターであがっていったので、
 俺はその後のエレベーターで自分の職場フロアに向かう。

 エレベーターを降りて廊下を歩く。
 これから起こっていくことを考えると、
 とにかく口元が緩んでしますが、
 万が一ということもある。
 怪しまれないようにグッっと表情を引き締める。

 極力ヤツを見ないように席に向かった。
 そして鞄を置き、席に座る。
 パソコンの電源を入れ、仕事の準備を始めたのだが、
 やはりどうにもヤツの様子が気になる。
 画面を見るフリをしてヤツが座っている方向をチラリと見てみた。

 いつもなら、どこからその自信が湧いてくるんだ?
 という俺からすれば嫌味しか感じない表情をしているヤツが、
 なにやら青ざめた顔で呆然としている。

 よしよし、徐々に女性達に指令が行き渡っているようだな。
 心の中でCAT-GPsTにありがとう!
 と叫んでいるのは言うまでもない。

 それでもいつもどおり仕事を開始する。
 ここで周りからおかしな表情をしていることを指摘されては、
 せっかくの復讐が水の泡になってしまう。

 とにかく冷静に、そしていつも通りに。
 それだけを心がけて仕事を一つ一つこなしていくことにした。

 そして、いつもであれば朝一番にヤツが話しかけきて、
 多くの仕事を俺にふってくるという日常だった。

 しかし、いま、ヤツはそれどころではないようだ。

 周りの目も気にせず、必死にスマートフォンでなにかをしている。
 恐らく、女性達からのメッセージに返信でもしているんだろう。
 いま、何が起きているかは後でCAT-GPsTに聞けばいいことなので、
 俺はそんなヤツの様子をあえて見ないようにして仕事を続けた。

 そして、ついにお昼12時が過ぎた。
 ちょうどお昼休みになるタイミングでもあったので、
 俺はスマートフォンを手にとり社食に向かおうとした。

 その時、背後からヤツに呼び止められた。



「すまん、今日体調が悪いから午後休をもらうよ。
 やっておいてほしい仕事はメールしておいたから見ておいてくれ。」



 ほうほう。体調不良ですと。

 どれだけ我慢しても顔に笑みが溢れてしまうこの状況で、
 なんとか平常心を保ってこう答えた。



「わかりました。ご無理なさらず。あとはやっておきますので。」



 するとヤツはこう返してきた。



「すまんね。では、頼むよ。」



 そういって心なしか肩を落としてやつは去っていった。

 心の中がガッツポーズをしながら、俺は社食へ向かった。
 そして、定食を注文し、受け取ると席についた。
 こんなにうまい昼飯は食べたことがないというぐらい飯が美味く感じた。
 そして、食事をしながらスマートフォンを見てみると、こんな通知がでていた。



「CAT-GPsT:すべての指示を実行し終えました。」



 よし。完璧だ。

 10人の女性達が一斉にヤツにメッセージや電話をしていることだろう。
 何がおこったのかわからないヤツはとにかく困惑するに違いない。
 なんとか取り繕おうとするところへ、追加の指示を与えて、
 10人すべてと別れるように仕向ける。
 これが俺の最初の復讐だ。

 まぁ、こちらがなにか手をくださずとも、
 勝手にヤツのもとから去っていく女性もいるだろうから、
 まずは状況確認が重要だ。

 しかし、今それをやるべきタイミングじゃない。
 夜じっくりと確認させてもらうとしよう。
 そんなことを考えながら昼食を終えると、
 ヤツがいない職場に戻った。

 早速ヤツからのメールを確認するが、
 余程焦っていたのか困惑していたのか、
 上位上司への最低限の報告の依頼だけで
 他にはなにもなかった、

 俺はすぐにその仕事を終わらせ、
 自分がやるべきことを粛々とこなしていった。

 そうしているともう終業時間となった。
 1日がこんなに気分よく早く終わるようになったことが
 ただただ嬉しく感じる夕方だった。

 終業時間のチャイムが鳴ったので、
 パソコンの電源を落として、帰り支度を始めていたところ、
 数人の女性に声をかけられた。

 内容は全員同じだった。

 「早川幸雄は早退したの?」と。

 俺はもちろん事務的に、

 
「ええ体調がすぐれないとかで早退されましたよ。」


 と答えると、皆、ありがとうとだけ言って去っていった。

 社内の女性にもあんなに手を出していたのか。
 そんなことを図らずも確認できた瞬間だった。


 その後、すぐに会社を出て帰路についた。
 電車に揺られながら、とにかく早く家に帰りたかった。
 流行る気持ちを抑えながら俺は家に向かうのだった。


 こうして、CAT-GPsTを使った復讐プラン実行の最初の昼間が終わった。

 あまりに思い通りに行き過ぎて気持ち悪いぐらいだったが、
 この日の夜、さらに凄い事実を知ることになるとは、
 この時は知る由もなかった。
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