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別れも出会いも突然です!
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こんなにも、人をまた好きになれるなんて、思ってなかったな。
僕は、スマホを片手に持ち、ぼんやりと考えていた。
ギルドの皆に、新人スタッフがヒーロである事、そして白姫と結婚するといった事を、報告した時、もちろん皆驚いて、それでも祝福してくれたのだった。 二人が結婚した事は、他のプレイヤーにも知られる事になり、それぞれビックリしたり、からかわれたりしながらも、楽しい、充実した毎日を過ごしていた。
そして、結婚して数日がたった頃、この関係に至る日々を改めて思い返してみるのだった。
そして、冒頭である。
自室でドリップしたてのコーヒーの香りに包まれながら、昔の事を思い出していた。
そう、思い出したくない、忘れたい過去の話を、久しぶりに見つめ直すのだった。
あれはもう2年以上前の事、当時、洋菓子店に勤務していた僕は、忙しい日常の毎日に追われ、心をすり減らしていったのだった。
たまの休日だし何をしよう? 特に用事もなかった為に、予定が決まらず、しばらく思案していたが、おもむろに身支度を整えると、ある場所へと出掛けるのであった。
なんか久しぶりだな。 そこは社会福祉協議会、ボランティア活動をする時に利用する機関で、僕自身過去に何度か利用していた事があったのだ。
人の為に何かしたいから、そんな前向きな理由などなく、ただ人から感謝されると自分が嬉しくて、ボランティアをした事があったのだった。
事務所で簡単な手続きをして行った先は、ある老人ホームだった。
「こんにちは、今日一日宜しくお願いします!」
簡単な挨拶を済ませ、言われた業務をこなしていく、ふと一人の女性が話しかけてきた。
「初めまして、あなたもボランティアの方ですよね。」
その女の人は親しげに挨拶をしてきたのだった。
年は同じくらいに見え、背格好は自分と変わらない程で、髪を後ろで束ねたポニーテールにした元気な印象の彼女は
「私もボランティアなので、どうぞ宜しくね!」
そういった彼女は、「名前は、黒木 真由っていいます!」 聞かれてもないのに自分の名前を伝えて来たのだった。
「僕は、蒼井 洋です!」
「今日は、宜しくお願いします!」
その時は、ごく普通の会話をしていた。
その日のボランティアは淡々と終わり、おじいちゃん、おばあちゃん達からの、感謝の言葉を報酬に、家路につくのだった。
夜ご飯を作って食事を済ませ、布団に入った時に、今日あった事をふと考えていた。
(忙しかったけど、楽しかったな!)
何となくだったが、次の休みもボランティアに行こうかなとぼんやりと考えていたのだった。
そして忙しく日々は過ぎて、また次の休日
先週に引き続き、またボランティアに参加したのだった。
食事の介助も終わり後片付けがようやく一段落し、時計がまもなく3時になろうかとしたその時。 ふと視線を感じて辺りを見回すと、先週も参加していた女性がそこにいたのだった。
「こんにちは、洋さん!」
幾分、親しみを込めて下の名前を呼んで声をかけてきた彼女。
「真由さんどうも、今日も参加されてたんですね?」
下の名前で呼ばれたからか、以前よりも距離が近くなったのを実感し、こちらも下の名前で返事を返したのだった。
「今日ボランティアが終わったら、その後一緒に御飯食べません?」
真由は軽く首をかしげ、上目遣いでこちらを見上げると、にっこりと笑みを浮かべるのだった。
いきなりの提案だったのだが、もちろん断る理由もなく、
「いいですね! 御飯一緒に食べましょう!」
洋は深く考えずに返事をしたのだった。
程なく、ボランティアは終わり、約束通り二人は御飯を食べる為に、帰り道を車で走っていた。
近くのファミレスに行き、料理の注文も終わってすぐに、真由が話しかけてきた、
「洋さんってお仕事は何をしてるんですか?」
こちらの顔を見つめながら、そう言ってきたのだった。
「洋菓子店で勤務してます。」
「真由さんは何をされてるんですか?」
聞かれたので、こちらも同じ質問で返した。
「少し前までは実家のお店の手伝いをしてたんだけど、今は一人でアルバイトしながら介護の勉強してます!」
明るくそう言って彼女は答えたのだった。
「そうなんですね! 実家は何のお店をされてるの?」
会話の流れてきに質問をすると
「隣町でカフェをしてるんです!」
「今度、一緒に行ってみます?」
彼女は、嬉しそうに誘って来たのだった。
「僕はコーヒー好きなので、喜んでご一緒します!」
好意の目を向けられ、思わず勘違いしてしまいそうになるのをこらえ、返事をすると
「嬉しいっ! 約束ですよ!」
彼女はにっこり笑って答えたのだった。
それから、いろいろな話をして、食事も終わり、彼女を送っていきアパートの駐車場での事、少しの沈黙があり、軽く深呼吸をした真由は真剣な顔をして、おもむろに喋りだした。
「洋さんは、今付き合ってる人っているの?」
意を決して、彼女は問いかけた。
「彼女なんていませんよ!」
突然、そんな事を言われてビックリはしたが、何とか平静を装い答えたのだった。
それを聞いた彼女は目を輝かせ、
「洋さん、もし良ければ私と付き合って下さい!」
勢いよく、そして真っ直ぐに告白をしてきた。
明るく元気な彼女の事を、その時少なからずいいなと思っていた僕は、
「凄く嬉しいです! こちらこそ宜しくお願いします!」
喜びのあまり、思わず叫びだしたくなる衝動を抑えながらも、彼女に答えたのだった。
「本当に? 私と付き合ってくれるの? 夢みたい!」
真由は少し恥ずかしそうにしながらも、喜びを噛み締めていたのだった。
そうか、僕はこの人と付き合うんだ! 目の前で、嬉しそうにはしゃぐ真由を見て、大事にしようと心の中で呟いた。
真由と付き合う様になり、毎日が今までよりも楽しく過ぎていったある日のこと、彼女の実家のカフェに二人はいた。
彼女のお父さんが淹れてくれたコーヒーの香りを嗅ぎ、一口飲み
「お父さんの淹れてくれたコーヒー、いつも変わらず美味しいです!」
お世辞などではなく本心からそう思って、コーヒーの感想を言う。
「それは良かった!」
娘の彼氏とはいえ、自慢のコーヒーを褒められ、満更でもない父親である。
そして唐突に
「前から考えていたんだが、洋君さえ良ければ、ここで働かないか?」
「聞けば君は、料理やスイーツも作れるそうじゃないか?」
「丁度人手が欲しかったのだが、娘も喜ぶだろうし、どうかな?」
前のめりで洋に話しかける。
「料理はファミレスで多少やってた程度だし、スイーツもまだ2年程しかやってないですけど、僕なんかで大丈夫です?」
自分の高評価に多少困惑しながらも返事をしたところ
「いやいや、ある程度出来れば後はこちらが、いろいろ教えてあげられると思うから、心配はいらないからね!」
彼女の父親の猛アピールに根負けして、翌月からカフェで働く事となった。
カフェで働くようになり、ますます彼女の両親から気に入られ、居心地が良くなっていた頃、彼女の母親から いつ結婚するの? とか気の早い言葉を聞くようになっていた。
「結婚かぁ」
思わず口から溢れる独り言
自宅でお風呂に浸かって何となく考えていた
それまで、全然考えなかった訳ではなかったのだが、最近少し気になる事もあり、どうしたものかと悩んでいたのだった。
彼女の両親とはうまくいっていたが、彼女自身とはなかなか時間が取れずに、デートもおざなりになっていた。
最近、すれ違いが多いなぁ 風呂から上がり、冷蔵庫からビールを飲もうかとも思ったが、ふと真由に逢いたくなり、連絡もせず彼女のアパートへと車を走らせたのだった。
ビックリするだろうな! ワクワクしながらもちょっとしたイタズラ心もあって、はやる心を抑え玄関のインターホンを鳴らす。
しばらく待ったが返事はなく、居ないと思い帰ろうかとした時、真由が目の前に現れた。
その横に知らない男の人を連れて。
一瞬頭の中が真っ白になり、言葉が出てこなくなっていたが、振り絞るように彼女に質問をした。
「真由、その人は誰?」
「なんで腕を組んでるの?」
ようやく出た弱々しい声に、やや取り乱した彼女は、隣の男に帰るように促して、洋へと話しかける。
「どうしてここにいるの?」
「今の人は介護の専門学校の友達で送って貰ったの!」
「何でもないから、心配しないで!」
焦った様子で矢継ぎ早に言葉をかけてきた。
とてもそうは見えなかった僕は、
「腕まで組んで、ただの友達には見えなかったよ!」
怒りを感じ、声が震えながらも、静かに言った。 その時、やめておけばいいものを、彼女のスマホを取り上げ、メールを見たのだった。
「何だこれっ!」
思わず叫んでしまった。
そこに書かれていたメールに、愕然となり、見てしまった事を激しく後悔していた。
そこには、さっきの男と思われる人との、親しげな、また言葉にするのもはばかれる内容の男女の仲の会話であった。 それも、一度や二度ではなくである。
サァッと血の気がひき、力が入らなくなった僕は、そのまま無言で帰ろうと真由をおいて車に向かう。
「ちょっと待って、お願いだから私の話を聞いて!」
真由は泣きながら腕を掴んできた。
「ごめん、無理! もう終わりです!」
今まで誰よりも好きでいた彼女の裏切りに、またさっきまで大好きだった人に対して気持ちが急になくなる訳もなく、それでも彼女がした事を絶対に許せるはずもなく、彼女の掴んだ腕を無理やり剥がし、車で走り出した。
どこをどうして帰ったか、自宅に帰りつき、そのままベッドに顔をうずめて、号泣した。
本当に大好きだった人、大事な思い出、そしてこれから先にあったかもしれない未来の事を考えながら、それを全て忘れようと布団の中で一晩中泣いたのだった。
あれから僕は、元彼女の両親に真実を隠して、彼女と別れた事を報告し、カフェを辞めた。 当然、真由から何度も電話があったが、スマホを新しく買い替え、番号も変え、それ以来はもちろん電話はこなくなり、部屋も引越しし、暫くの後、少しずつ平穏な日常が訪れるようになった。
仕事は心機一転、あらたに託児所で働くようになり、毎日子供達との賑やかな触れ合いにより、過去の事をあまり考えなくなっていた。
そして今このとき、ふと我に返ると、コーヒーがすっかり冷めてしまい、それを温め直し、カフェ・オ・レにした。
少し苦味があるそれを飲みながら、軽い倦怠感に襲われていた。
「姫に逢いたいな。」
ゲーム内で妻になった白姫の事を思って呟いた。
過去の事をもう一度見つめ直し、改めて姫への思いを再確認する事が出来たのだった。 過去の出来事は辛いものだったが、それから、本当に偶然見つけたゲーム、それを何となく始めた事により、姫と出逢う事になるのである。
その時の僕はまだ、その事を知らないのだったが。
二人は確かにこの後、運命の出会いをするのであった。
僕は、スマホを片手に持ち、ぼんやりと考えていた。
ギルドの皆に、新人スタッフがヒーロである事、そして白姫と結婚するといった事を、報告した時、もちろん皆驚いて、それでも祝福してくれたのだった。 二人が結婚した事は、他のプレイヤーにも知られる事になり、それぞれビックリしたり、からかわれたりしながらも、楽しい、充実した毎日を過ごしていた。
そして、結婚して数日がたった頃、この関係に至る日々を改めて思い返してみるのだった。
そして、冒頭である。
自室でドリップしたてのコーヒーの香りに包まれながら、昔の事を思い出していた。
そう、思い出したくない、忘れたい過去の話を、久しぶりに見つめ直すのだった。
あれはもう2年以上前の事、当時、洋菓子店に勤務していた僕は、忙しい日常の毎日に追われ、心をすり減らしていったのだった。
たまの休日だし何をしよう? 特に用事もなかった為に、予定が決まらず、しばらく思案していたが、おもむろに身支度を整えると、ある場所へと出掛けるのであった。
なんか久しぶりだな。 そこは社会福祉協議会、ボランティア活動をする時に利用する機関で、僕自身過去に何度か利用していた事があったのだ。
人の為に何かしたいから、そんな前向きな理由などなく、ただ人から感謝されると自分が嬉しくて、ボランティアをした事があったのだった。
事務所で簡単な手続きをして行った先は、ある老人ホームだった。
「こんにちは、今日一日宜しくお願いします!」
簡単な挨拶を済ませ、言われた業務をこなしていく、ふと一人の女性が話しかけてきた。
「初めまして、あなたもボランティアの方ですよね。」
その女の人は親しげに挨拶をしてきたのだった。
年は同じくらいに見え、背格好は自分と変わらない程で、髪を後ろで束ねたポニーテールにした元気な印象の彼女は
「私もボランティアなので、どうぞ宜しくね!」
そういった彼女は、「名前は、黒木 真由っていいます!」 聞かれてもないのに自分の名前を伝えて来たのだった。
「僕は、蒼井 洋です!」
「今日は、宜しくお願いします!」
その時は、ごく普通の会話をしていた。
その日のボランティアは淡々と終わり、おじいちゃん、おばあちゃん達からの、感謝の言葉を報酬に、家路につくのだった。
夜ご飯を作って食事を済ませ、布団に入った時に、今日あった事をふと考えていた。
(忙しかったけど、楽しかったな!)
何となくだったが、次の休みもボランティアに行こうかなとぼんやりと考えていたのだった。
そして忙しく日々は過ぎて、また次の休日
先週に引き続き、またボランティアに参加したのだった。
食事の介助も終わり後片付けがようやく一段落し、時計がまもなく3時になろうかとしたその時。 ふと視線を感じて辺りを見回すと、先週も参加していた女性がそこにいたのだった。
「こんにちは、洋さん!」
幾分、親しみを込めて下の名前を呼んで声をかけてきた彼女。
「真由さんどうも、今日も参加されてたんですね?」
下の名前で呼ばれたからか、以前よりも距離が近くなったのを実感し、こちらも下の名前で返事を返したのだった。
「今日ボランティアが終わったら、その後一緒に御飯食べません?」
真由は軽く首をかしげ、上目遣いでこちらを見上げると、にっこりと笑みを浮かべるのだった。
いきなりの提案だったのだが、もちろん断る理由もなく、
「いいですね! 御飯一緒に食べましょう!」
洋は深く考えずに返事をしたのだった。
程なく、ボランティアは終わり、約束通り二人は御飯を食べる為に、帰り道を車で走っていた。
近くのファミレスに行き、料理の注文も終わってすぐに、真由が話しかけてきた、
「洋さんってお仕事は何をしてるんですか?」
こちらの顔を見つめながら、そう言ってきたのだった。
「洋菓子店で勤務してます。」
「真由さんは何をされてるんですか?」
聞かれたので、こちらも同じ質問で返した。
「少し前までは実家のお店の手伝いをしてたんだけど、今は一人でアルバイトしながら介護の勉強してます!」
明るくそう言って彼女は答えたのだった。
「そうなんですね! 実家は何のお店をされてるの?」
会話の流れてきに質問をすると
「隣町でカフェをしてるんです!」
「今度、一緒に行ってみます?」
彼女は、嬉しそうに誘って来たのだった。
「僕はコーヒー好きなので、喜んでご一緒します!」
好意の目を向けられ、思わず勘違いしてしまいそうになるのをこらえ、返事をすると
「嬉しいっ! 約束ですよ!」
彼女はにっこり笑って答えたのだった。
それから、いろいろな話をして、食事も終わり、彼女を送っていきアパートの駐車場での事、少しの沈黙があり、軽く深呼吸をした真由は真剣な顔をして、おもむろに喋りだした。
「洋さんは、今付き合ってる人っているの?」
意を決して、彼女は問いかけた。
「彼女なんていませんよ!」
突然、そんな事を言われてビックリはしたが、何とか平静を装い答えたのだった。
それを聞いた彼女は目を輝かせ、
「洋さん、もし良ければ私と付き合って下さい!」
勢いよく、そして真っ直ぐに告白をしてきた。
明るく元気な彼女の事を、その時少なからずいいなと思っていた僕は、
「凄く嬉しいです! こちらこそ宜しくお願いします!」
喜びのあまり、思わず叫びだしたくなる衝動を抑えながらも、彼女に答えたのだった。
「本当に? 私と付き合ってくれるの? 夢みたい!」
真由は少し恥ずかしそうにしながらも、喜びを噛み締めていたのだった。
そうか、僕はこの人と付き合うんだ! 目の前で、嬉しそうにはしゃぐ真由を見て、大事にしようと心の中で呟いた。
真由と付き合う様になり、毎日が今までよりも楽しく過ぎていったある日のこと、彼女の実家のカフェに二人はいた。
彼女のお父さんが淹れてくれたコーヒーの香りを嗅ぎ、一口飲み
「お父さんの淹れてくれたコーヒー、いつも変わらず美味しいです!」
お世辞などではなく本心からそう思って、コーヒーの感想を言う。
「それは良かった!」
娘の彼氏とはいえ、自慢のコーヒーを褒められ、満更でもない父親である。
そして唐突に
「前から考えていたんだが、洋君さえ良ければ、ここで働かないか?」
「聞けば君は、料理やスイーツも作れるそうじゃないか?」
「丁度人手が欲しかったのだが、娘も喜ぶだろうし、どうかな?」
前のめりで洋に話しかける。
「料理はファミレスで多少やってた程度だし、スイーツもまだ2年程しかやってないですけど、僕なんかで大丈夫です?」
自分の高評価に多少困惑しながらも返事をしたところ
「いやいや、ある程度出来れば後はこちらが、いろいろ教えてあげられると思うから、心配はいらないからね!」
彼女の父親の猛アピールに根負けして、翌月からカフェで働く事となった。
カフェで働くようになり、ますます彼女の両親から気に入られ、居心地が良くなっていた頃、彼女の母親から いつ結婚するの? とか気の早い言葉を聞くようになっていた。
「結婚かぁ」
思わず口から溢れる独り言
自宅でお風呂に浸かって何となく考えていた
それまで、全然考えなかった訳ではなかったのだが、最近少し気になる事もあり、どうしたものかと悩んでいたのだった。
彼女の両親とはうまくいっていたが、彼女自身とはなかなか時間が取れずに、デートもおざなりになっていた。
最近、すれ違いが多いなぁ 風呂から上がり、冷蔵庫からビールを飲もうかとも思ったが、ふと真由に逢いたくなり、連絡もせず彼女のアパートへと車を走らせたのだった。
ビックリするだろうな! ワクワクしながらもちょっとしたイタズラ心もあって、はやる心を抑え玄関のインターホンを鳴らす。
しばらく待ったが返事はなく、居ないと思い帰ろうかとした時、真由が目の前に現れた。
その横に知らない男の人を連れて。
一瞬頭の中が真っ白になり、言葉が出てこなくなっていたが、振り絞るように彼女に質問をした。
「真由、その人は誰?」
「なんで腕を組んでるの?」
ようやく出た弱々しい声に、やや取り乱した彼女は、隣の男に帰るように促して、洋へと話しかける。
「どうしてここにいるの?」
「今の人は介護の専門学校の友達で送って貰ったの!」
「何でもないから、心配しないで!」
焦った様子で矢継ぎ早に言葉をかけてきた。
とてもそうは見えなかった僕は、
「腕まで組んで、ただの友達には見えなかったよ!」
怒りを感じ、声が震えながらも、静かに言った。 その時、やめておけばいいものを、彼女のスマホを取り上げ、メールを見たのだった。
「何だこれっ!」
思わず叫んでしまった。
そこに書かれていたメールに、愕然となり、見てしまった事を激しく後悔していた。
そこには、さっきの男と思われる人との、親しげな、また言葉にするのもはばかれる内容の男女の仲の会話であった。 それも、一度や二度ではなくである。
サァッと血の気がひき、力が入らなくなった僕は、そのまま無言で帰ろうと真由をおいて車に向かう。
「ちょっと待って、お願いだから私の話を聞いて!」
真由は泣きながら腕を掴んできた。
「ごめん、無理! もう終わりです!」
今まで誰よりも好きでいた彼女の裏切りに、またさっきまで大好きだった人に対して気持ちが急になくなる訳もなく、それでも彼女がした事を絶対に許せるはずもなく、彼女の掴んだ腕を無理やり剥がし、車で走り出した。
どこをどうして帰ったか、自宅に帰りつき、そのままベッドに顔をうずめて、号泣した。
本当に大好きだった人、大事な思い出、そしてこれから先にあったかもしれない未来の事を考えながら、それを全て忘れようと布団の中で一晩中泣いたのだった。
あれから僕は、元彼女の両親に真実を隠して、彼女と別れた事を報告し、カフェを辞めた。 当然、真由から何度も電話があったが、スマホを新しく買い替え、番号も変え、それ以来はもちろん電話はこなくなり、部屋も引越しし、暫くの後、少しずつ平穏な日常が訪れるようになった。
仕事は心機一転、あらたに託児所で働くようになり、毎日子供達との賑やかな触れ合いにより、過去の事をあまり考えなくなっていた。
そして今このとき、ふと我に返ると、コーヒーがすっかり冷めてしまい、それを温め直し、カフェ・オ・レにした。
少し苦味があるそれを飲みながら、軽い倦怠感に襲われていた。
「姫に逢いたいな。」
ゲーム内で妻になった白姫の事を思って呟いた。
過去の事をもう一度見つめ直し、改めて姫への思いを再確認する事が出来たのだった。 過去の出来事は辛いものだったが、それから、本当に偶然見つけたゲーム、それを何となく始めた事により、姫と出逢う事になるのである。
その時の僕はまだ、その事を知らないのだったが。
二人は確かにこの後、運命の出会いをするのであった。
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