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諦めませんわっ
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自室に戻って私はクッションを抱えてベッドへとダイブした。
「はしたのうございます」
シェリは間髪入れずにそう言って嗜める、できた侍女である。婚約が決まったあたりに優秀さを買われて私の専属になったシェリは、私の2つ上。
必要な資料集め、噂話、新聞記事や最新の流行のチェックも欠かさない、スーパー侍女である。
「顔だけの放蕩三昧で浮気症のバカ男と、頭と顔が良くて性格の悪い男。どっちがマシなのかしら」
「双方顔が良く、家柄は良しとするならばまだ頭が回る方かとは思いますが…………結婚願望の薄い私から申しますと、さして変わりございませんね」
「辛辣……長年の重責から解放された翌日に、こんな落とし穴があるなんて……」
「元の穴の方が良かったと仰いますか?」
「………………どっちも嫌だわ」
シェリは私を起こし、長椅子へと促した。
「ねぇねぇ、解消したばかりなのに他にすぐ行くなんてダメよね??」
「一般的には左様でございますが、殿下のなさいようは周知の事実ですので、適齢期のお嬢様が早々に代わりを見つけたことに非難は集まらないかと思われます」
「非難って集まって欲しい時に集まらないものよねぇ」
「非難が集まって欲しい」に咎める様な目を刺してきたシェリを見ないように、抱き抱えたままのクッションに顔を埋めて唸る。
「……無かった事に出来ないなら、無かったことにしたくなる様な女になるのはどうかしら?」
パタパタとシーツを整えていたシェリが、顔だけを向ける。
「……と、言いますと?」
「…………厄介な女になるとか?贅沢を言ったり、ワガママ言いまくるとか?」
パタパタと整え続ける手はそのままに、微笑みを固まらせたシェリは、器用に眉だけ寄せた。
「お嬢様に出来ますか?」
そうなのだ。
私は必要以上に、自分から無駄な贅沢をしたことがない。
小さい頃はお母様にお任せ。婚約が決まったら妃教育に必死こいて勤しみ、公式行事でのドレスは王宮のお針子様任せ。王宮の出席が必要な夜会はお家でオーダー。それもお母様とシェリにお任せで最低限。それ以外は、押し付けられた公務にてんてこ舞いでそれどころで無く。
「で、出来るわよ。アレでしょ?えーっと、、一番高いの持ってきて!ぃゃ、持ってきなさい!」
「………………駄目ですね」
「何で?!!」
「それではただのアh…コホン、すぐにバレてしまいますわ」
「今なんか言いかけなかった?」
「いいえ、滅相もございません。そんな事より、言うならこうです」
シェリは後光が刺す様なキラキラとした笑顔を振りまいて私向き直ると、一礼してから腕を軽く組んで斜に構えた体勢を取り、顎をツンと突き出した。
「私、マダムフェリールのオートクチュール、最新の蝶のモチーフを一針一針丁寧に編み上げた繊細なレースに小さな宝石を散りばめたドレスじゃ無いと、満足できませんわ。そうねぇ、ネックレスは薔薇の形にカットした、ブルーダイアモンドいいかしら?勿論同じマダムフェリールじゃ無いと嫌ですわ」
「シェ、シェリ……!」
「こんな所でしょうか」
「凄い、凄く高圧的でワガママそうな上に、ややこしそうだったわっ!……ところでマダムフェリール?って何かしら?」
「今王都で一番人気、王室御用達の予約の取れない超高級ブティックでございます」
ほぉーっと感心したため息をこぼすと、シェリはなぜか残念なものを見る様な目で見つめる。
「お嬢様、無理はなさらずとも…」
「いいえ、これよ、これを求めていたのよっ、やるわっ!やったるわぁぁぁぁ!!」
シェリが見事なお手本を見せてくれたのだもの。やってやるわぁぁ!
私が拳を振り上げる片隅で、静かなため息が聞こえたのは聞こえないふりをした。
「はしたのうございます」
シェリは間髪入れずにそう言って嗜める、できた侍女である。婚約が決まったあたりに優秀さを買われて私の専属になったシェリは、私の2つ上。
必要な資料集め、噂話、新聞記事や最新の流行のチェックも欠かさない、スーパー侍女である。
「顔だけの放蕩三昧で浮気症のバカ男と、頭と顔が良くて性格の悪い男。どっちがマシなのかしら」
「双方顔が良く、家柄は良しとするならばまだ頭が回る方かとは思いますが…………結婚願望の薄い私から申しますと、さして変わりございませんね」
「辛辣……長年の重責から解放された翌日に、こんな落とし穴があるなんて……」
「元の穴の方が良かったと仰いますか?」
「………………どっちも嫌だわ」
シェリは私を起こし、長椅子へと促した。
「ねぇねぇ、解消したばかりなのに他にすぐ行くなんてダメよね??」
「一般的には左様でございますが、殿下のなさいようは周知の事実ですので、適齢期のお嬢様が早々に代わりを見つけたことに非難は集まらないかと思われます」
「非難って集まって欲しい時に集まらないものよねぇ」
「非難が集まって欲しい」に咎める様な目を刺してきたシェリを見ないように、抱き抱えたままのクッションに顔を埋めて唸る。
「……無かった事に出来ないなら、無かったことにしたくなる様な女になるのはどうかしら?」
パタパタとシーツを整えていたシェリが、顔だけを向ける。
「……と、言いますと?」
「…………厄介な女になるとか?贅沢を言ったり、ワガママ言いまくるとか?」
パタパタと整え続ける手はそのままに、微笑みを固まらせたシェリは、器用に眉だけ寄せた。
「お嬢様に出来ますか?」
そうなのだ。
私は必要以上に、自分から無駄な贅沢をしたことがない。
小さい頃はお母様にお任せ。婚約が決まったら妃教育に必死こいて勤しみ、公式行事でのドレスは王宮のお針子様任せ。王宮の出席が必要な夜会はお家でオーダー。それもお母様とシェリにお任せで最低限。それ以外は、押し付けられた公務にてんてこ舞いでそれどころで無く。
「で、出来るわよ。アレでしょ?えーっと、、一番高いの持ってきて!ぃゃ、持ってきなさい!」
「………………駄目ですね」
「何で?!!」
「それではただのアh…コホン、すぐにバレてしまいますわ」
「今なんか言いかけなかった?」
「いいえ、滅相もございません。そんな事より、言うならこうです」
シェリは後光が刺す様なキラキラとした笑顔を振りまいて私向き直ると、一礼してから腕を軽く組んで斜に構えた体勢を取り、顎をツンと突き出した。
「私、マダムフェリールのオートクチュール、最新の蝶のモチーフを一針一針丁寧に編み上げた繊細なレースに小さな宝石を散りばめたドレスじゃ無いと、満足できませんわ。そうねぇ、ネックレスは薔薇の形にカットした、ブルーダイアモンドいいかしら?勿論同じマダムフェリールじゃ無いと嫌ですわ」
「シェ、シェリ……!」
「こんな所でしょうか」
「凄い、凄く高圧的でワガママそうな上に、ややこしそうだったわっ!……ところでマダムフェリール?って何かしら?」
「今王都で一番人気、王室御用達の予約の取れない超高級ブティックでございます」
ほぉーっと感心したため息をこぼすと、シェリはなぜか残念なものを見る様な目で見つめる。
「お嬢様、無理はなさらずとも…」
「いいえ、これよ、これを求めていたのよっ、やるわっ!やったるわぁぁぁぁ!!」
シェリが見事なお手本を見せてくれたのだもの。やってやるわぁぁ!
私が拳を振り上げる片隅で、静かなため息が聞こえたのは聞こえないふりをした。
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