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お邪魔虫と婚約者と俺
※オーウェン視点です
──────────────
第三王子のブートキャンプを決めて、俺は陽もまだ差さない夜明け前に起きてヤツを呼び寄せた。
「なぁ、なんなんだ、僕をこんな夜中に呼び出すなんてっ」
「シャツのボタン、ズレてるぞ。下手くそか。さっさと直せ。次はこの新聞を全部読め。白湯を飲んだらブートキャンプに出るぞ」
「これ全部?!読めるかっ!!」
「さっさと終わらせないと食事は出んぞ」
「横暴なっ」
「陛下の許可がある。問題ない」
「なぁぁぁっっ!!」
ぶつくさ文句を呟くハイデリウスをよそに、俺は領地からの報告書や商会の動き、公共工事の進捗に目を通していく。
「は……早い」
「貴様は遅いな。さっさとそれくらい読め」
「くぅっっっ」
「食事がなくなるかもな」
「くそっっ」
淡々と仕事をこなしてパッと顔を上げると、やっと読み切ったのか、机に突っ伏したハイデリウスがいた。
「白湯を飲みきれ。いくぞ」
「えっどこに」
「新兵訓練だ」
「キャンプか?趣味じゃないのだが」とかぶつくさまた文句を言うハイデリウスの首根っこをリチャードに掴ませて、庭の奥側にある芝生広場へと連れてきた。
「まずは柔軟。走り込みしてもう一度柔軟した後に筋トレ。腹筋背筋、重量上げは……まだ先だな。左右と後ろを固めろ。ペースは最低で良い」
「貴様、何を言って」
「さ、始めろっ」
ヒィィィっと情けない悲鳴をあげて、ハイデリウスが辺境から連れてきた何人かの部下に囲まれて、柔軟した後に走る。
本当なら15周から始まり、徐々に周数を増やしていくのだが、どうやら無理そうなので10周で勘弁してやる事にした。
さ、俺もさっさとトレーニングを終わらせるとするか。
軽く走りながら、ハイデリウスの特訓スケジュールを頭で簡単に纏めて、王宮に申請して講師も呼び、徹底的に根性を叩き直してやろうと考えていると、もう何度目か奴の背中を追い抜く時、「ぃヒィィィ、もう無理ィィィ」と情けない声が耳に入り呆れる。
「おい、まだ5周も行ってないぞ。さっさとしろ」
「貴様は化け物かぁ~、こんな~っひぃぃっふぅぅぅっっ、走れるかぁぁぁ」
足を止める事なく走り過ぎ、予想以下の有様に、トレーニングメニューの下方修正が余儀なくされて、ため息が溢れる。
こんな男に11年もアデレイズが拘束されて、あまつさえ公衆の面前で婚約破棄を宣言され、罵られるとははらわたが煮え繰り返るが、お陰で俺が婚約にありつけたのも事実だから、内心複雑ではある。
走り込みも終わって筋トレメニューをこなしていると、監視の部下たちが呆れ顔で取り囲んでいる真ん中で、ハイデリウスが恥も外聞もなく地面へと突っ伏して、また弱音を吐いているのが聞こえた。
見下ろす様に側に立ち、見下ろすが、奴は起きずに地面へしがみついて鼻水と涙を垂らして「無理だ」と泣き叫んでいる。
その元気があればまだいけるだろう。と、俺が判断して声をかけていると、屋敷の方から人の気配を感じて振り向いた。そこには遠目にもわかるアデレイズが佇んでいるのが見えた。
こんな奴放置して駆け寄ろうとすると、ハイデリウスが俺のアデレイズを呼び捨て、助けを求めようとするのにイラついて周数を追加するよう命じておいた。
アデレイズを自分の私室に招き入れると、いつも見慣れた部屋が一層輝いて華やぐ気がするのが不思議だ。
あまり使わない長椅子へと座らせると、無意識に口づけを落として汗を流しに浴室へと向かう。
簡単に汗を流して、タオルで髪を拭きながら、リチャードが出しておいてくれた紺のスラックスを履いて、白のシャツを羽織る。まだ乾かない髪よりもアデレイズが扉を隔てた極近くに居ると思うと、待っていられなくて湿ったままで隣の部屋へと戻ると、アデレイズはクッションに埋もれる様に横になっていた。
体調が悪くなったかと思って慌てたが、耳まで赤くしながら、ぶつぶつと時々俺の名前を呟いているだけの様で安心と共に可愛い仕草に悶えそうになる。
そっと近づいて背もたれに手をかけて、横になっているアデレイズの上から覗き込む。
耳だけじゃなく、首筋もほんのり赤い。
もしかして男女の触れ合いに全く免疫が無いのかもしれない。まぁ、あのハイデリウスが相手なら仕方ないか。
このままずっと側に置いて、ドロドロに甘やしてやりたくなる。
顔が見たくなって声をかけると、驚いてそのまま振り仰いだアデレイズの瞳が俺を捉えて、頬を染めていく。
上から見下ろしている俺の髪から小さな雫が落ちて、ついその柔らかな熟れた頬に触れた。
俺の部屋に、俺の場所にアデレイズがいる。
頬は柔らかくて滑らかで、他の場所も、全部触れて知りたくなる。
あぁ、俺のこと、ちょっとは意識してくれているのか?
葡萄色の瞳に灯る淡い熱は、俺への思いだろうか。
このまま飲み込んでしまえば、アデレイズは俺に心を傾けてくれるだろうか…
もう婚約者なんだし、良いか……アデレイズは目を潤ませて見つめたまま拒む気配はない。
鼻が触れ合って、アデレイズの吐息さえ甘くて体が熱くなってくるのを感じる。
その瞬間、「うおっっっほん」とわざとらしいリチャードの咳払いが聞こえて我に返った。
しばらくして真っ赤な顔のままアデレイズが俺をすり抜けて帰ってしまったのを見て、やり過ぎたかとちょっと反省した。
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第三王子のブートキャンプを決めて、俺は陽もまだ差さない夜明け前に起きてヤツを呼び寄せた。
「なぁ、なんなんだ、僕をこんな夜中に呼び出すなんてっ」
「シャツのボタン、ズレてるぞ。下手くそか。さっさと直せ。次はこの新聞を全部読め。白湯を飲んだらブートキャンプに出るぞ」
「これ全部?!読めるかっ!!」
「さっさと終わらせないと食事は出んぞ」
「横暴なっ」
「陛下の許可がある。問題ない」
「なぁぁぁっっ!!」
ぶつくさ文句を呟くハイデリウスをよそに、俺は領地からの報告書や商会の動き、公共工事の進捗に目を通していく。
「は……早い」
「貴様は遅いな。さっさとそれくらい読め」
「くぅっっっ」
「食事がなくなるかもな」
「くそっっ」
淡々と仕事をこなしてパッと顔を上げると、やっと読み切ったのか、机に突っ伏したハイデリウスがいた。
「白湯を飲みきれ。いくぞ」
「えっどこに」
「新兵訓練だ」
「キャンプか?趣味じゃないのだが」とかぶつくさまた文句を言うハイデリウスの首根っこをリチャードに掴ませて、庭の奥側にある芝生広場へと連れてきた。
「まずは柔軟。走り込みしてもう一度柔軟した後に筋トレ。腹筋背筋、重量上げは……まだ先だな。左右と後ろを固めろ。ペースは最低で良い」
「貴様、何を言って」
「さ、始めろっ」
ヒィィィっと情けない悲鳴をあげて、ハイデリウスが辺境から連れてきた何人かの部下に囲まれて、柔軟した後に走る。
本当なら15周から始まり、徐々に周数を増やしていくのだが、どうやら無理そうなので10周で勘弁してやる事にした。
さ、俺もさっさとトレーニングを終わらせるとするか。
軽く走りながら、ハイデリウスの特訓スケジュールを頭で簡単に纏めて、王宮に申請して講師も呼び、徹底的に根性を叩き直してやろうと考えていると、もう何度目か奴の背中を追い抜く時、「ぃヒィィィ、もう無理ィィィ」と情けない声が耳に入り呆れる。
「おい、まだ5周も行ってないぞ。さっさとしろ」
「貴様は化け物かぁ~、こんな~っひぃぃっふぅぅぅっっ、走れるかぁぁぁ」
足を止める事なく走り過ぎ、予想以下の有様に、トレーニングメニューの下方修正が余儀なくされて、ため息が溢れる。
こんな男に11年もアデレイズが拘束されて、あまつさえ公衆の面前で婚約破棄を宣言され、罵られるとははらわたが煮え繰り返るが、お陰で俺が婚約にありつけたのも事実だから、内心複雑ではある。
走り込みも終わって筋トレメニューをこなしていると、監視の部下たちが呆れ顔で取り囲んでいる真ん中で、ハイデリウスが恥も外聞もなく地面へと突っ伏して、また弱音を吐いているのが聞こえた。
見下ろす様に側に立ち、見下ろすが、奴は起きずに地面へしがみついて鼻水と涙を垂らして「無理だ」と泣き叫んでいる。
その元気があればまだいけるだろう。と、俺が判断して声をかけていると、屋敷の方から人の気配を感じて振り向いた。そこには遠目にもわかるアデレイズが佇んでいるのが見えた。
こんな奴放置して駆け寄ろうとすると、ハイデリウスが俺のアデレイズを呼び捨て、助けを求めようとするのにイラついて周数を追加するよう命じておいた。
アデレイズを自分の私室に招き入れると、いつも見慣れた部屋が一層輝いて華やぐ気がするのが不思議だ。
あまり使わない長椅子へと座らせると、無意識に口づけを落として汗を流しに浴室へと向かう。
簡単に汗を流して、タオルで髪を拭きながら、リチャードが出しておいてくれた紺のスラックスを履いて、白のシャツを羽織る。まだ乾かない髪よりもアデレイズが扉を隔てた極近くに居ると思うと、待っていられなくて湿ったままで隣の部屋へと戻ると、アデレイズはクッションに埋もれる様に横になっていた。
体調が悪くなったかと思って慌てたが、耳まで赤くしながら、ぶつぶつと時々俺の名前を呟いているだけの様で安心と共に可愛い仕草に悶えそうになる。
そっと近づいて背もたれに手をかけて、横になっているアデレイズの上から覗き込む。
耳だけじゃなく、首筋もほんのり赤い。
もしかして男女の触れ合いに全く免疫が無いのかもしれない。まぁ、あのハイデリウスが相手なら仕方ないか。
このままずっと側に置いて、ドロドロに甘やしてやりたくなる。
顔が見たくなって声をかけると、驚いてそのまま振り仰いだアデレイズの瞳が俺を捉えて、頬を染めていく。
上から見下ろしている俺の髪から小さな雫が落ちて、ついその柔らかな熟れた頬に触れた。
俺の部屋に、俺の場所にアデレイズがいる。
頬は柔らかくて滑らかで、他の場所も、全部触れて知りたくなる。
あぁ、俺のこと、ちょっとは意識してくれているのか?
葡萄色の瞳に灯る淡い熱は、俺への思いだろうか。
このまま飲み込んでしまえば、アデレイズは俺に心を傾けてくれるだろうか…
もう婚約者なんだし、良いか……アデレイズは目を潤ませて見つめたまま拒む気配はない。
鼻が触れ合って、アデレイズの吐息さえ甘くて体が熱くなってくるのを感じる。
その瞬間、「うおっっっほん」とわざとらしいリチャードの咳払いが聞こえて我に返った。
しばらくして真っ赤な顔のままアデレイズが俺をすり抜けて帰ってしまったのを見て、やり過ぎたかとちょっと反省した。
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