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その前にですわっ!

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うるうると光る紺碧の輝き。

確かにローズカットにされたブルースターダイヤモンドが輝いている。来賓もどよめきを隠せないで、口々に「凄い…」と囁き合っている。

こ、これ、外して良いかしら……

するとオーウェンがスッと手を差し出してきた。

あ、あぁ、こっちにも嵌めなきゃね。


リングピローを見ると、男性用のリングが今か今かと出番を待っている様に鎮座している。

私はブーケを一時預けて男性用らしく、お揃いのブルースターダイヤモンドをスクエアカットにして嵌め込まれ静かな輝きを放っている指輪を恐る恐る摘み上げて、彼の薬指へと差し込んだ。


── あの時無駄に値段なんて調べるんじゃなかったわ。知らなかったら「綺麗ねー」って能天気に見つめていられたのにぃ。くぅっ。


こっそりとため息を吐いた時、大司教様が頷いて、次の言葉を紡いだ。



「では、誓いの口付けを」



うひゃーーー!ついに来てしまったわ!

私が内心大慌てしていると、オーウェンが星のレースのマリアベールの前部分をそっと持ち上げて後ろへと流す。

あの蕩けそうな瞳で笑顔のオーウェンは私の両肩をそっと包んで ───



ペッッッッチーーーーーン☆
「ぶふっっっっ……レイ??」



私は思わず両手でオーウェンの唇を、勢いよく防いでしまった。



「ごご、ごめんなさい。ごめんなさい!でも口づけその前に」



私は防いだまま至近距離にあるオーウェンの顔をまっすぐ見つめた。


「ウェイン…私、貴方が噴水広場で言いかけていた言葉を、どうしても聞きたいわっ」


恥ずかしすぎて涙がジワジワと集まってくる。
でも、神様にはもぅ誓ってしまったけれど、やっぱり口付けの前にあの言葉の先を聞きたいのだ。


「プッくくく……」


一瞬呆気に取られていたオーウェンは、次の瞬間堪えきれないと言わんばかりに笑い出した。
その少年の様な笑顔は、出会った頃のオーウェンを思い出すもので。


「っっあぁ、本当に敵わない!俺の花嫁!」

「きゃっ!ウェイン!!」


そして私を力一杯抱きしめると、オーウェンは私の両手を取って片膝をついた。


「アデレイズ・バーミライト。11年前に出会って、レイの元を去ってからずっと、会えなかった間もずっと忘れられなかった。俺はレイを………」


そこまで言うと、オーウェンは私と目を合わせてから周りに視線を配り、また私に視線を戻すと苦笑を漏らした。

今度こそ邪魔は入らないだろうなと、警戒したのかしら。私も噴水広場でのあり得ない横槍を思い出して、つられて苦笑を漏らす。

そして深呼吸をしたオーウェンは、真剣な瞳で私をまっすぐに見つめた。



「俺はずっとレイが、レイだけが好きだったんだ。幼い頃の愚かだった俺を忘れて、生涯レイだけを想い、離さず、守ると誓うから、俺と夫婦になってくれ!」



勿論貴族なのだから、感情抜きで結婚することは、当然なのかもしれないけれど。再会して、彼との婚約に向き合おうと思った日からずっと、オーウェンの瞳に宿る熱の意味を、私の胸がその熱に炙られる様に騒ぐ理由をどうしてか知りたかったのだ。

その瞬間に私はこの胸がずっと騒ぐ理由を理解した。いや、本当はもうどこかで気付いていたのかも知れない。


「……オーウェン・ディモアール様。この通り手も足も口も出てしまう女ですけれど、私も貴方をお慕いしているみたいですわ。こんな私で良ければ、貴方様を支え…手綱を一生傍で握って差し上げてよ?」


私は彼の目を見て心からの笑みを浮かべて、照れ隠しの様な可愛げのない言葉を返した。


「あぁ、勿論だっ」


オーウェンは立ち上がって片手を私の腰に回して引き寄せると、もう片方の手をそっと頬に添えた。


「愛している、レイ」


そう囁いて、私の唇にオーウェンの形の良い唇を重ねた。




周りは突然の告白劇に呆れつつも、拍手をして喜び祝ってくれ、王太子殿下に至っては指笛を鳴らして囃し立てた。


「ゥオッホン。そろそろ良いのではないですかな?」


長い口づけをを中断させるべく大司祭様の咳払いが入り、それを私は羞恥と酸欠気味のクラクラした頭で聞いていた。


その後、なんとか結婚証明書にサインを入れ、そのまま国王陛下に渡す。

最高責任者がそのまま受付完了なんて、便利すぎますわ…。

バージンロードをオーウェンと2人で歩いて大聖堂を出る時、国王陛下が眉を下げて結婚証明書を振り回しながら「手綱、頼むぞ、手綱っ!」と投げてきた言葉に苦笑する。



「……………………鋭意努力いたしますわ」



だって新郎は魔王なのよ?国王陛下でさえ大聖堂での結婚式を止められなかったじゃない。
とりあえず私は精一杯の返事を、小声で口に乗せた。


私たちは晴れてこの日、夫婦になったのだった。

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