台風の目(仮)

来条恵夢

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 シュムは、そんなセレンに微笑みかけた。 
「ほんと、セレンって可愛いね」 
「ちょ、ちょっと何よ、突然!」 
「いやあ、ねえ。あたしが男なら絶対にほれてたのにさ。カイも馬鹿だなーって」 
 今や真っ赤になっているセレンを置いて、シュムは深深と溜息をついた。 
「本当に、心配してくれるのは嬉しいけどさ。自分の幸せを追求して欲しいよ」 
「え、何?」 
 シュムが何か呟いたことはわかったがちゃんとは聞き取れなかったのか、首を傾げる。 
 シュムは、苦笑して湯を叩いた。 
「この後、どうしようかと思って。ご飯食べるのと、覗き魔追うのと、カイ起こすのと。どれからしようか。とりあえず、カイを起こす? …どうかした?」 
 盛んに自分の頬を叩くセレンに、訝しげに視線を向ける。セレンは、温泉の熱さだけではなく上気した顔を俯かせた。 
「そ、そうよね、会えるのよね…やだ、緊張してきちゃった…」 
「セレン」 
「だ、だってっ」 
 意味もなく、手の平で湯を跳ね上げるセレン。それに少し笑って、ふっと、真顔になる。 
「ところで、言ってた変な奴、どうした? まだあのまま?」 
 それまでは照れていたようなセレンの顔が、途端に曇る。しかし、そんな表情すらも綺麗なのは、美人の特権だろう。 
 シュムは、その変わり様に一層真剣な眼差しを向ける。反応から、問題が解決していないのは明らかだ。果てることもなく湯気の上がるのどかな光景が、逆に異様かのようだった。 
「ディーはセレンのこと知らないし…ゼダはセレンより大分弱いし…意外に、何かあったときにたのめそうなのっていないなあ…」 
 種族の違う友たちを思い浮かべながら、シュムは知らずに眉間にしわを寄せていた。そもそも仲間意識が薄いから、頼んだところで引き受けてくれるとも限らない。シュムでは、言葉通りに住む世界が違うから駆けつけられない。 
 カイに言ったのはついでのようなもので、あの反応では駆けつけてくれるとも思えない上に、駆けつけたところで力になるのかも怪しいところだ。 
 うーん、と、シュムは頭を抱えて唸っていた。 
「そのことなんだけど、ちょっとおかしいの。なんだか…私が目的じゃ、ないみたいで」 
「どういうこと?」 
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