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胎動
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少し考えて、商人たちが興味を失ったのを見計らい、男の元へと席を移った。ここで身分がばれても、特別問題はないだろう。
「一緒していいかな」
「うん? ああ、別嬪の兄ちゃんだなあ。空いてるならかまわんぜ」
「それじゃあ。あ、追加を頼むよ」
一人分には大目のつまみと、酒を二杯頼む。持ってきたのは話していた美人の女性で、ウィンクを寄越した。
男に一杯をすすめると、形だけ恐縮して見せた。
「悪いなあ、気前のいい兄ちゃんだ」
「ただでとは言わないがね」
男が口をつけるのを待って、そう告げる。予め予想していたらしく、目だけで先を促した。
「グロックスの洞窟って、西の?」
「ああ。兄ちゃん、魔導師だな」
旅装とはいえ、魔導師特有のローブは常に身につけている。宮廷魔導師の印が縫いこまれているものも持ってはいるが、これは、荷物の底だ。
曖昧に肯くと、男はそれで納得したようだった。
「腕試しなら、他にあたった方がいいぞ。あそこに入って、無事に帰ってきた奴はないんだ」
「…死者が?」
「いや、それはいろいろだ。強い奴は無傷だったりするしな。ただ、どれもこれも、薄らぼんやりして使い物にならん」
男は、話し好きなのか気がいいのか、話をじらすだけでたかれそうだと考えるでもなく、薄気味悪そうに言葉を続ける。
つまみをすすめながら、エバンスは、適当に相槌を打っていった。
探検に入った子どもが始めの犠牲者で、次は村人がばらばらに何人か、旅の剣士や魔導師も三人四人とやられ、そろそろギルドに斡旋を頼もうかと相談しているらしい。幸いにも死人は出ていないということだが、どれも、生きていて食べさせれば食事もするし眠りもするが、始終ぼうっとしているということだ。
もう一杯酒を奢ると男は相好を崩して礼を言い、宿に引き上げるエバンスににこにこと手を振った。立ち働いていた女が夜の約束を期待するような視線を寄越すが、敢えて無視する。エバンスの酒は、手もつけずに置き去りになっている。
明日には、ドーターの当主と会う。
「一緒していいかな」
「うん? ああ、別嬪の兄ちゃんだなあ。空いてるならかまわんぜ」
「それじゃあ。あ、追加を頼むよ」
一人分には大目のつまみと、酒を二杯頼む。持ってきたのは話していた美人の女性で、ウィンクを寄越した。
男に一杯をすすめると、形だけ恐縮して見せた。
「悪いなあ、気前のいい兄ちゃんだ」
「ただでとは言わないがね」
男が口をつけるのを待って、そう告げる。予め予想していたらしく、目だけで先を促した。
「グロックスの洞窟って、西の?」
「ああ。兄ちゃん、魔導師だな」
旅装とはいえ、魔導師特有のローブは常に身につけている。宮廷魔導師の印が縫いこまれているものも持ってはいるが、これは、荷物の底だ。
曖昧に肯くと、男はそれで納得したようだった。
「腕試しなら、他にあたった方がいいぞ。あそこに入って、無事に帰ってきた奴はないんだ」
「…死者が?」
「いや、それはいろいろだ。強い奴は無傷だったりするしな。ただ、どれもこれも、薄らぼんやりして使い物にならん」
男は、話し好きなのか気がいいのか、話をじらすだけでたかれそうだと考えるでもなく、薄気味悪そうに言葉を続ける。
つまみをすすめながら、エバンスは、適当に相槌を打っていった。
探検に入った子どもが始めの犠牲者で、次は村人がばらばらに何人か、旅の剣士や魔導師も三人四人とやられ、そろそろギルドに斡旋を頼もうかと相談しているらしい。幸いにも死人は出ていないということだが、どれも、生きていて食べさせれば食事もするし眠りもするが、始終ぼうっとしているということだ。
もう一杯酒を奢ると男は相好を崩して礼を言い、宿に引き上げるエバンスににこにこと手を振った。立ち働いていた女が夜の約束を期待するような視線を寄越すが、敢えて無視する。エバンスの酒は、手もつけずに置き去りになっている。
明日には、ドーターの当主と会う。
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