台風の目(仮)

来条恵夢

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胎動

4-5

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 考え込んでいたエバンスは、彼が一緒に黙り込んでいることに気付き、顔を上げた。こちらを見ていたらしい視線とぶつかり、そこに、思いがけず動揺の色を見た。
「何か?」
「いや。…なあ、あんたならどう思う? 執事の息子と駆け落ちしたからって、何もかも否定されないといけないものか?」
「何のことだ?」
 話が読めずに首を傾げたが、彼は、それ以上言葉を重ねるつもりはないようだった。 
 それならと、言われたことだけを考えてみる。駆け落ちの条件は親の反対か身分の違いといったところだろうが、言葉をそのまま受け取れば、両方だろう。裕福な、貴族の娘と執事の息子――次期執事候補。
 身分違いの結婚は、男性側の身分が高くても苦労し、中には社会不適合者とみなされてしまう場合もある。女性であれば、男性側について家を出たものの、今までよりも貧しい生活に耐えられず、決裂してしまうことも多い。
 そんな一般事例を思い浮かべていたところで、エバンスの兄も身分違いの結婚をして、しかも数少ない成功例だということを思い出して、知らずに溜息を吐き出していた。その成功例でさえ、数え切れないほどの苦労があった。
「個人的な意見としては、わざわざ苦労を買って出ているのだから、それ以上責めるなと言ってやりたいな。自分がそれほどの恋愛をできなかったからといって、ひがむことはないだろうに」
 ぶっと、吹き出す音に驚いて目をやると、彼が体を折ってくつくつと笑っていた。
「…笑うようなことを言ったか?」
 つい、険の混じった声になる。
 その勢いでグラスを干すと、笑いながらも律儀に、彼が酒を注いだ。笑っているせいで、ビンが小刻みに動いていて危なっかしい。エバンスは無言で酒瓶を奪うと、自分で注いだ。 
「なあ、あんたなんで、名を変えない? 王家とのつながりを嬉しがるようには見えないけど?」
 リードは国姓、つまりは王家の姓だ。
 エバンスも、王位継承権を捨てて魔導師に弟子入りしたときには、名を変えようと思っていた。それを辞めたのは、あの人のせいだ。
 溜息に似た息を吐く。既に酒臭い。
「兄が…泣くと脅しをかけてきた。あの人は、そんな対策しか考え付かなくて…あまりの馬鹿馬鹿しさに、名乗りを変えたところで血がつながっていることが同じなら一緒だと、それに姉上も…お前と気が合いそうだ、兄上は」
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