剣闘大会

tabuchimidori

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3戦目

右手の震え

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「いやー、やっぱり勝てなかったよ」
 八組目がフィールドに上がっていく流れに逆らってエレアはセキヤとリリィのいる所まで戻ってきた。
「まだまだ力を隠しているってわかったから十分でしょ」
「エレアさん凄かったです! チャンピオン相手にあんなに攻められるなんてすごいです!」
 エレアは負けたことに少なからずショックを受けていたけど、セキヤとリリィにはそれを見せない様に気丈に振る舞って笑顔を見せる。セキヤはそれに気付いたけど、今はリリィがいるからそこに触れない方が良いのだろうと考えて黙っておく。ひとまずセキヤは剣を返してもらうべくリリィと一旦距離を取って二人で話す。
「剣ありがと、結構戦えた方だよね?」
「さっきも言ったけど十分だよ。ゴウさんがまだまだ力を隠しているという前提でこれから行動すればいいわけだから」
「そう、だよね……」
「?」
 エレアが、幼いころからずっと一緒だったセキヤですら見たことの無い表情を見せる。
 ――もしかして、あのプレッシャーかな?
「ゴウさんのプレッシャーの事?」
「うん……、セキヤから聞いてたけど、あれはちょっと次元が違うと思うわね。まだちょっと震えてるくらいだもの」
 さっきまでずっと後ろに隠していた右手を見せる。その手はぶるぶると恐怖に震える子供のように動いていた。
「……その状況であれだけ戦えたんだから、やっぱりエレアは強いね」
 セキヤは少しでもエレアの恐怖を取り除こうと努めて優しい声色で励ます。しかしエレアはそれでもまだ手の震えを止めることが出来なかった。
「しっかりしなよ、リリィにはそんな姿見せられないんでしょ?」
 そのセキヤの言葉にエレアは少しだけ笑う。何で笑うのかとセキヤが問いただす。
「だって、私がリリィちゃんには格好良く振る舞いたいなんて一回も言ってないのに、セキヤはそれに気付いたから嬉しくって」
 エレアはリリィの期待や尊敬を裏切らない様に、いつも以上に気丈に振る舞うようにしていたが、その本心は誰にも話していなかった。だからこそそれに気付いたセキヤに対して喜びと安心を覚えていた。すると右手の震えが徐々に収まっていった。
「ありがと、おかげで治ったわ」
「役に立てたなら良かったよ。剣闘大会で競い合うからと言って別に仲違いまでしたわけじゃないんだから、助けが必要ならいつでも呼んでよ」
「うん、ありがと。やっぱり持つべきは家族だよね」
 エレアはそう言ってさっきまでの無理やり繕った笑顔ではなく、心からの笑顔を見せた。
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