新潟 独り酒

天龍大好き

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隠れ家

日本酒に刺身

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 新潟駅前には3階建から5階建て程のこじんまりとしたビルがいくつもあるがその中の一つ、とあるビルの二階の看板がやけに新しく感じる。つい先ほどまで一軒目で勢いを付けていた僕は、今日の二件目は新規開拓の意味も込めてここにしようと思った。店の名前はなんだか変わった名前だったが居酒屋と言うのは変わった名前の方が多い気がする。なんでもいいが入口まで来ると、なんとも和風で開いた先には広い部屋の真ん中に悪代官が座っていそうな、扉の横に明かりはついているがなんだか開けていいのか入っていいのか不安になる佇まいだ。
(どうしよう、カウンターが一席もなかったりして)
 こういう入り口からして洒落た店は誰かしら親しい人と来る為の店だと言う先入感が入店を阻害する。迷った時は勢いだとばかりに扉を開いた。
「ひとりだけど」
 さっきまでほろよい気分だったのがなんだか緊張してきた。店内は暗くまさに隠れ家と言った様相。店員さんが4,5席だけあるカウンター席に案内してくれた。さばさばした店ならここでビールを頼んでしまうのだが気後れしてしまいおとなしくカウンターにちょこんと座る。そこからいきなりタバコに火をつける始末。誰か俺を始末してくれ。妄想もほどほどにおすすめメニューに目を通す。さっきは肉で揚げ物だったから、ここではとにかくさっぱりあっさりをコンセプトにいきたい。しかも店名からして魚押し、ここは魚で攻めるのが定石か。

 (気持ち値段が高いな、、、雰囲気料か)
立ち飲み屋の後のせいでなんだか値段が高めに感じるが普通の居酒屋ならこんなもんだろう。ともかく魚、肴、うまいやつがいい。
「すいません。真鯛の刺身と活だこのあぶり、あと八海山で」
かしこまりましたと綺麗な女性の店員さんが注文を取ってくれる。しばらくするとお通しが届いた。きんぴらごぼうだったか、さといもだったかも。さといもは別の店のお通しだったかな。その後に八海山が届いたのだがこれがまた趣向を凝らしてあり、なんと竹筒に入ってやってきた。おちょこはおちょこで短めに切られた竹筒。竹筒なんてみたのは小学校の頃のキャンプ体験みたいな時にご飯を竹筒で炊いた時以来だぞ。しかもその時は炊く時間が合ってなかったのかやけに水っぽいおかゆみたいなごはんだった。そんな竹筒で飲む八海山、、、、やさしい。沁みる。そもそも八海山なのだ。新潟を代表する日本酒、新潟に酒蔵幾多あれど知名度で言えばトップクラスではないだろうか。そうなるにはやはり理由があるのだ。
 「今日はお仕事帰りですか?」
唐突に女性の店員に声をかけられたが焦らず冷静に返答できた。
「いやもう連休に入ってます。普段は忙しくて出かけられないんだけど、こういう時だから」
 「へぇー連休いいですねーここは一軒目ですか?」
「いや2軒目、一軒目は立ち飲み屋だったんだけど、あそこで肉食べたから、さっぱりしたもの食べたいなと思って。」

 そうなんですかと言う具合に会話は途切れずに続いた。飲むだけのつもりだったが、なんだが洒落た店のカウンターで綺麗な女性で会話出来てスナックにでも来てる気分だ。あれ?この子、、、少し押せば、、、付き合えるんじゃね???
 「お待たせしました。真鯛の刺身と活だこのあぶりです」
 
稚拙な煩悩を打ち消すように厚く切られた真鯛が届く。そして活だこの炙り。以前韓国でタコの踊り食いに遭遇したがその時はとても気持ち悪くて手を出すことができなかった。今ではあの時食べておけばよかったなと思う。日本で生きたタコを食べられる店は希少だからだ。そんな中活タコ、つまり生きたタコを食べる機会が来たと思ったが、残念炙られている事で見た目は軽く焦げ目の付いた茹でタコ。まずはタコからひたっと醤油につけて口に運ぶ。

 ぷるっぷるのこりっこり。プルコギに対しての炙り活だこのプルコリだ。狙い通りのあっさりさっぱりで炙ったおかげでタコの風味も香ばしい。次は真鯛、これはもう文句無し。素材が良ければ後は軽くつけた醤油が3Pシュートを撃つときの左手のように寄り添ってくれる。放たれた真鯛はゴールリングすぽっと放りこまれ試合終了、湘北高校大勝利。綺麗な店員さんも居て君が好きだと叫びたい。

 ぱくぱく食べ進めてつまみも酒も残りわずか、店員さんとの会話も楽しめた。早めに会計だけ頼んでおき残りのつまみと酒を空にし、いい気分で領収書を受け取る。
やっぱりちょっと高い気がする。もしまたこの店に来る事があればこの子と会話をする為だろう。
 
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