乙女ゲーム?それは過去の話です

灯月

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閑話 娘

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今日も娘のルベライトはお茶会に呼ばれたので帰りが遅くなるだろう
心配するような事をやるような子ではないし、そういう心配をする年でもない
だが、やはり 己の娘というだけで心配になってしまうものだ

「グランピー様、そろそろ休憩なさってくださいませ」
「…書類が終わらん」
「そういって 朝昼の食事をとられてませんよね」

仲間たちや部下たちは俺の事を仕事が趣味だと言ってくる
実際、時間ができたら仕事をしていることが多いし
それ以外にすることがないのだ

「はぁ… 仕事しすぎるとからだ壊しますよ」
「人とは違うから問題ない」
「他の方々のようにずっと仕事をしないで休憩とは言いませんが、せめて少しの時間でもお休みください」

信頼している部下からそう言われるが、俺はこれをしている方が楽なのだ

「ルベライト様が作ったお菓子がございますのでそちらは食べてください」
「……ルベライトが?」

珍しいことがあるものだと、俺は手を止めて部下を見る
彼の側にはいつの間にかカートがありカートの上にはルベライトがくれたティーポットとティーカップに様々なクッキーが皿の上へ置かれていた
彼が運んできていたことに気づかないほど仕事をしていたようだ

「はい グランピー様が食事をしないかもしれないからと作られてました」

俺は目を細める
ルベライトがいるときは必ずご飯の時間だと知らせに来ては一緒に食事をし
仕事で疲れていると休息だといっておかしを食べる

あいつもそうだったな…

お菓子を作ってはせめてこれを食べろと言ってきたんだ

「…」

様々なクッキーのなかに懐かしいと感じる形のものがいくつかあり
本当にルベライトが作ったのだということがわかった

「珈琲の方がよろしいかと話をしたところ、このクッキーには紅茶でと言われましたので」
「そうか…、そうだな。 少し休息する」
「そうしてください」

なれた手つきで煎れられた紅茶を飲む
口の中はいつの間にか渇いていたらしく直ぐに飲み終えた
それをみてため息をつかれてしまったがそれくらい集中したのだと己に言い聞かせた

「20分後にまた来ますのでそれまでごゆっくりと」

部下は出ていき 部屋には一人となった
新たに注がれた紅茶を一口飲んだ後、クッキーに手をのばす
白と黒のボックスクッキーに渦巻きの柄の赤と白のクッキー
四角だけではなく、丸や三角の形がある
その中でもクッキーのなかにカラフルな宝石のような飴が入っているステンドグラスクッキーを手に取った

「あいつがよく作ってくれた、な」

俺は口に入れた
普通のクッキーよりも甘いのだが 疲れていたらしい体にはちょうどよかった

ルベライトは幸せだろうか

一人でなにもせずにいると考えてしまう
俺は人ではない 生きる時間が違う
もう少ししたら俺の年をルベライトが越すだろう
どれだけ遅くしようともどうしようもできないことだ
その上 母親に甘えることが出来ないまま亡くなり、俺もルベライトを甘やかすことなく仕事ばかりをやっていて
親らしいく共に遊ぶということはしてこなかった
それでもルベライトは俺の側から離れることなく、気にかけてくれて仕事も手伝ってくれる

「…やはり、赤だな」

イチゴ味のクッキーも中々に美味い
珈琲ではなく紅茶だからこそ楽しめる

扉をノックする音がする
俺は入れと返事をするとルベライトが入ってきた

「…はやい、帰りだな」
「はい 帰ってきましたわ」

女性らしくカーテシーをするのではなく男性のように一礼する
あいつが居たらこうではなかったのだろうか
などと今さらのことを考えてしまう
俺がなにも言わずに見ているとルベライトはなにかに気づいたようだ

「父さん、またご飯食べてなかったのね」

クッキーを今食べていることでバレてしまったらしい

「夕食は少し遅くしてもらって…、私も食べますわ」

ルベライトは一緒に来ていた部下にそういうと何処から出たかわからないティーカップを貰い部屋の中央にあるソファへ座る

「父さんもこちらで休息しましょ?」
「…そうだな」

俺は十分休んだからと断ろうと思ったが「充分ではないでしょう?」と何時ものように言われるのがわかっていたため提案にのった
ルベライトは嬉しそうに笑う

「父さん、目付きが悪くなってますわ 先程まで何か考えてたのですか?」

ルベライトも目付きが悪くなる
見た目が俺似の為か仲間からは可愛いではなく綺麗だと言われていた
母親の茶髪と俺の赤が混ざった赤茶の髪に俺と同じ赤い鋭い目
女性らしく出るとこが出るという体ではないがスレンダーでこれはこれで良いと思う
俺からしたら可愛い見た目だ

「…」
「父さん、そんなに見られても誤魔化されませんからね」

頭も悪くはないし動きもよい
あいつに似て無駄なことはしない

「また、母さんや年齢のこと考えてたんでしょ」
「あぁ」
「何度も言ってるけど、私は気にしてないわ 母さんとはあまりあったことなかったけど周りからどんな人かは聞けるしレシピだって残してくれてたし」

あいつはこの子の中で嫌われてない事が嬉しい
人と夫婦になるのはどうかと言われていたからだ

「私は人だからしょうがないもの 母さんだってそういう覚悟で父さんと夫婦になったんでしょ? だから父さんが気にすることは…!?」

俺はルベライトを抱き締める
大切な家族なのだ 代わりのいない大事な人
すべてを受け入れて年齢よりも大人に見えるときがあるけどそこも可愛くて

「っ!?? と、父さん?」

仲間たちからも人気欲しがられて
婚約者になりたいだとかふざけた手紙が届いたくらい好かれているのだろう
まぁ、ルベライトがその気ではない限り渡す気などない

こうやって慌てているのは珍しいな

俺はそう思いながらも離すことはなく後ろから抱き締め続ける

「少し疲れてるようだから このまま良いよな」
「! い、いですけど  今度からはちゃんと休んでくださいね!」
「気がむいたら、な」

少し、もう少しこのまま俺の側にいてほしい
願わくばずっと俺から離れることなく側で笑っていてほしい

己の娘でなかったら…

それ以上考えることをやめた
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