隠され姫のキスは魔道士たちを惑わせる

じゅん

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二章 大きな運命を持つ少女

大きな運命を持つ少女 4

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「アレクサンドラ様には懸賞金がかかっているんです」
「私に懸賞金っ」
「ぼくたちは国の人間だから関係ないですよ。アレクサンドラ様が長年見つからなかったので、懸賞金をかけて、一般の方にも手伝っていただいていたんです」
 だから自分を探すため、普段は人が通ることのない迷いの森にザックがいたのか、とアレクサンドラは納得した。
「でも、よく分かりましたね。公開されている情報は、年齢と、魔力増幅能力を持つ女性、くらいで、ぼくたちのようにアレクサンドラ様の気配は知りませんよね」
「オレくらい魔力があれば、分るもんなんだよ」
 魔力の全くないアレクサンドラにはその感覚は分からない。それよりも、フランシスの言葉で気になることがあった。
「ねえフランシスさん。私がお姫様だって情報は公開してるの?」
 魔道士同士の二人は顔を見合わせた。
「いいえ、非公開です」
 やっぱり、とアレクサンドラは思った。
「彼に話したのですか?」
「私は言ってないけど」
――あんたが、魔力を増幅させるお姫さんだな?
 ザックはアレクサンドラを見て、そう言ったのだ。
「私のこと、姫って言ったよね?」
「そうだったか?」
 ザックはしらばくれた。
「ご苦労だった、もう結構だ。指定された場所に送金するよう手配しよう。彼に住居を伝えて、去るがいい」
 ザックをフランシスに促そうとしたオスカーに、ザックはチッチと立てた指を振った。
「金は手渡しで貰わないと信用できねえな。それに、またさっきみたいに襲われるかもしれないだろ? オレは役立つぜ。援軍が来るまで手伝ってやってもいいんだけどな。もちろん、こっちは貰うけど」
 ザックは指先で、金のマークを作った。
「ザックさんの腕前が大陸一だというのは証明されていますからね。隊長、どうします?」
 オスカーは「確かに戦力になるが」と腕を組んで考えている。
「殿下のご意見は?」
「私?」
 突然ふられて、アレクサンドラはドキリとした。ザックを見ると、不敵な笑みを浮かべていた。目が合うとパチリとウインクされる。断られると微塵も思っていない態度だ。
(反対に一票投じてやろうかしら)
「さっき助けてもらったし、いても困らないと思うわ」
 アレクサンドラは考えとは違う意見を口にしていた。ザックがニッと笑う。アレクサンドラの頬に朱がさした。
(別に、どっちでもいいんだけどね。なぜ私の過去を知っているのか、まだ聞いていないし)
 ――お前はもっと、人に甘えてもいいよ。
(ザックのあの言葉は、ちょっと嬉しかったから……)
「よし。ではザックの同行を許可する。大幅に時間をロスしてしまった。急ぐぞ」
 アレクサンドラはフランシスに預けていた荷物から着替えを出して、溶けて穴だらけになった服を着替えた。それから麓の町に向かって、フランシスの魔法でぬかるんでしまった山道を下っていった。
「ねえ、聖樹教ってなに? どうして私は狙われているの?」
 アレクサンドラは誰にともなく尋ねた。教団が現れたときにはすぐに戦闘になってしまい、聞きそびれていた。
「聖樹教団は、マナの樹を信仰するカルト宗教です」
 オスカーが答えた。
「私、教団の人に“女神”って呼ばれたの」
 なぜ自分が狙われているのかをアレクサンドラが尋ねるが、オスカーはちらりとザックを見て口を噤んだ。それを察したザックは、ニヤッと笑う。
「言えばいいじゃねえか。聖樹教団の目的ならオレも知ってる。あんたたちがしようとしている、マナの樹の復活方法もな」
 ザックが挑発的な視線を向けると、オスカーは瞠目した。
「まさか。我が国の国家機密だ」
「まあ、人の口に戸は立てられねえさ」
 思考の読めない不敵な笑みを浮かべるザックを、オスカーは氷のような鋭い視線で刺した。
 
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