隠され姫のキスは魔道士たちを惑わせる

じゅん

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二章 大きな運命を持つ少女

大きな運命を持つ少女 6

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「やっと馬までたどり着きましたね」
 やれやれという様子で、フランシスは長い髪をかき上げた。
「アレクサンドラ、乗馬経験は?」
 ザックに聞かれ、アレクサンドラは首を横に振った。手伝いで牛耕をしたくらいだ。
「じゃあ、一人で乗れねえな。オレの後ろに乗せてやるよ」
「抜け駆けはいけませんよ、ザックさん。みんなアレクサンドラ様と乗りたいんですから。ね、隊長?」
「……王女殿下に決めていただこう」
「ん? 私は……」
 誰でもいいけど、と口にしかけたとき、ザックの言葉を思い出した。
(そういえば、私に触ると気持ちがいいって言ってたっけ。私と一緒に乗りたいって、そういうことか)
 うわあ選びたくない、と思ったが、一人で馬に乗る自信もない。
(どうしよう。ザックは絶対からかってくるから却下でしょ。魔道士さんのどちらかなら……)
「フランシスさん、お願いします」
 アレクサンドラはフランシスの前に移動した。
「選んでいただけて嬉しいです、アレクサンドラ様」
 アレクサンドラはギュッとハグされた。
(しまった。話しやすいのはフランシスさんだけど、スキンシップが多いのもフランシスさんだった)
 精神安定のためにも、触れられることに過敏にならないようにしようとアレクサンドラは決めた。
「アレクサンドラ、なんでオレを選ばねえんだよ」
 ザックが不満げな表情で、むにっとアレクサンドラの頬を引っ張った。
(そんなの、胸に手を当てて考えれば分かるでしょっ)
 散々人で遊んでおいて、選ばれると思っている神経がアレクサンドラには理解できない。
 ザックの肩越しにオスカーがいた。いつもの無表情だったが、選ばれずにガッカリしているように見えるのは、気のせいだろうか。
「そうだ、オスカー」
 ザックはオスカーを呼び、指輪を見せた。
「これ、こいつにつけていいか?」
「エンチャントリングか」
 オスカーの言葉に、ザックは頷いた。
「なんの指輪?」
「はめた者の気配が消える魔法が付加された指輪だ」
 魔道士は追跡魔法で特定の人物の気配を辿り、居場所を探し出すことができる。オスカーたちも今回、追跡魔法でアレクサンドラを発見したのだ。しかし気配が消えていると、探し出すのは困難になる。老婆が魔法で結界を張っていたのも、同じ理由からだ。
「お前の気配は独特なんだよ。自分じゃ気配を消せねえだろうから」
「この指輪を付けておけば、聖樹教団に見つからないってことね?」
「ああ。だが問題は、オレたちとはぐれたときだ」
 もしアレクサンドラが誘拐された時に気配が辿れなければ、救出に時間がかかる可能性がある。
「聖樹教団に追跡されないメリットを優先させるべきだろうな。三日逃げ切れば安全地帯だ」
「オーケー。じゃつけるからな、お姫様」
 ザックがうやうやしく、アレクサンドラの左手の中指に指輪をはめた。シンプルで真新しい銀の指輪だった。
「サイズもぴったり」
「こんなこともあろうかと、いくつか用意しておいたんだよ」
 指輪自体も高級そうなものだが、そこに魔力が込められているとなると、値が張るに違いない。魔法が一般的ではないのなら流通自体が少なく、入手も困難なのではないか。アレクサンドラはそう思った。
「ありがとう、ザック。ちゃんと返すから」
「いいよ。それより、感謝の気持ちはキスでもらいてえな」
 ザックがウインクする。
(すぐ茶化すんだから)
「アレクサンドラ様、乗ってください」
 高い位置から声が降ってきた。アレクサンドラが振り返ると、フランシスは既に乗馬していた。フランシスの長い青みがかった銀髪と白馬の鬣が風に揺れ、まるで絵画から抜け出してきたかのように美しかった。
馬には二人乗りしやすいような馬具が準備されていた。
「ぼくの手を握ってください。鐙に足をかけて。引っ張りますよ」
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