隠され姫のキスは魔道士たちを惑わせる

じゅん

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二章 大きな運命を持つ少女

大きな運命を持つ少女 16

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 ザックは両手を顔の前で合わせる。パチンと乾いた音がした。
「で、オレは家督を放棄して旅に出た」
「えっ」
 急展開だった。
「ぶらぶらと街を歩いていると、路上の占い師に呼びとめられた。自由になったオレは時間ならいくらでもある。話を聞くことにした」
 アレクサンドラは眉を寄せて半眼になる。
(途端に話が胡散くさくなった)
「占い師は厳かに言った。この大陸のどこかに、大きな運命を背負う少女がいる。少女のことは魔法王国・アーウィンも探しているが、それよりも先に見つけ出し、大陸の外に連れ出すことが、お前の天命だ、と」
 ザックは神妙な顔で言った。わざとらしい表情だった。
「少女の大きな運命って?」
「さあ、占い師が言った言葉だからな」
 ザックは嘯いた。
「オレは剣の修業も兼ねて、その少女とやらを探した。少女というのはもちろん、お前だ」
(やっぱり)
 ザックが剣の技を磨く理由は、一人で生き抜くための手段だという。ギルド登録をして護衛の仕事などを請け負っている。賞金稼ぎをしているのも、そのためだ。
「大陸は広い。どこかにいると言われても、簡単に見つかるはずがないよな。手掛かりも少ねえし」
「どんな手掛かりを持っていたの?」
 アレクサンドラが問うと、ザックは一瞬動きがとまり、ごまかすようにワインを飲んだ。アレクサンドラがじっと待っていると「内緒」とウインクされた。話すつもりはないらしい。
「三年かけて、やっとお前を見つけたと思ったら、タッチ差で魔道士たちが先に辿りついていた。食人樹から助けた時、お前を連れ去ろうとも思ったんだが、あの魔道士二人を相手にするのは骨が折れそうだ。魔法王国が港を封鎖することも考えられる。すると、オレたちは大陸外に出られない。聖樹教団なんて予想外な奴らにもお前は狙われてたし、それならアレクサンドラを無事に魔法王国に連れて行って、様子を見よう。……ってことで、今に至る」
 ワインを飲んだザックは、やれやれ終わったとばかりにテーブルに両肘を乗せ、頬杖をついた。
「どうだった? オレの話は」
 アレクサンドラはうつぶせになって枕を抱え、分かりやすく考えるジェスチャーをした。
「後半が雑です。七十八点」
「なんだ、その中途半端な点数は。及第点か?」
 ザックは苦笑した。
 アレクサンドラは枕に顔をうずめてから、頭をずらし、華奢な肩越しに片目でザックを流し見た。隠しきれない、満面の笑みを浮かべている。
「もちろんよ。話してくれて、ありがとう」
 全てが真実ではないだろう。しかし、大筋は正しく伝えてくれたのではないか。少なくても長い間、ザックは自分を探し続けてくれていたのだと、アレクサンドラは信じられた。アレクサンドラを“大きな運命”から逃がすために。
 その“運命”が何を意味するのか。枯れかけたマナの樹をアレクサンドラが救えるという話のようだが、それだけではないようだ。肝心なことを魔道士たちもザックもはぐらかしているようなので、アレクサンドラにはまだ分からない。ただ、目の前にいる、優しいのか意地悪なのか分かりにくい天邪鬼な男が、自分のために行動していたのかと思うと、アレクサンドラはくすぐったい気分だった。
「まあ、姫さんが満足したなら、いいさ」
 照れ隠しのようにザックがアレクサンドラから視線を外す。
「なぜ見も知らない私を何年もかけて探して、大陸から連れ出そうとしていたの?」
 アレクサンドラの魔力増幅能力を何かに利用しようとしていた、と考えるのが普通だ。まさか街の占い師に天命と言われたことを、真に受けるわけもあるまい。
 そんな答えが返ってくるものとアレクサンドラは考えていたが、ザックの言葉は違った。
「なんだろうな。誰にも必要とされないオレと、大勢に求められているお前。正反対なのに、似ている気がしたんだ」
 ザックは窓に目を向けていた。しかし、そのブルーの瞳は何も映しておらず、意識を遠くに飛ばしているかのようだった。
 窓の外では夜が明け始め、墨で塗りつぶしたようだった街並みが、ぼんやりと浮かび上がりつつあった。
「それって、どういう……」
 アレクサンドラの言葉はノックに遮られた。ドアが開いて、魔道士二人が入ってくる。
「アレクサンドラ様、ご無事ですか?」
 

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