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三章 七郎兵衛とシロ(人情もの)
三章 8
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「危険かもしれない。小藤はここで待っていなさい」
「いえ、私も行きます。きっとお役に立ってみせます」
光仙は静かな瞳で小藤を見た。
「悪意を取り除く、おまえの力のことか」
「そうです」
悪霊というのなら、小藤が悪を取り除き、ただの霊にできるのではないか。
七郎兵衛の家から感じるものが全く怖くないと言ったら嘘になる。しかし双子の時の後悔が、小藤の背中を押していた。
「……わたしの後ろから離れるのではないぞ」
「わかりました」
家の敷地に踏み込んだ。囲いとしている高い木が日差しを遮り、体感温度が下がった。
悪寒のほかに圧迫感も強くなってくる。物理的に胸が潰されそうなほどだった。
光仙が戸に手をかけようとしたとき。
突如、鋭いものが戸をすり抜けて飛び出し襲い掛かってきた。
「……っ!」
光仙は懐から取り出した檜扇でそれを防ぐ。その勢いのまま弾かれるようにして後ろに下がった。その際に小藤も抱えられて家から距離を取る。
家の周辺が暗くなった。
二人が見上げると、そこにいたのは家ほども大きい獣だった。光仙を襲ったものは、獣の鋭い牙だったのだ。
それの眼窩は落ちくぼみ、真っ赤な歯肉を晒して血濡れの鋭い牙をむき出しにして唸っている。すべて犬歯のようなその口で噛みつかれたらひとたまりもないだろう。
唸りは地響きのようで、その口からは腐臭を吐き出し、赤黒い唾液を滴らせていた。
そのおぞましさに、小藤は思わず顔を押さえた。
しかしよく見ると、その獣の造形が犬であることに気づいた。小藤は恐ろしさを抑えて、その獣を観察した。
「……もしかして、シロ?」
半分肉が削げ落ちて、皮膚は変色し、毛並みはほとんどわからない。しかし、わすかに白柴の名残が見えた。
「ねえ、シロなんでしょ?」
小藤は呼びかけた。
七郎兵衛の家にいる白柴ならシロしかいない。あれだけ人懐こい犬だったのだ、声が届けば落ち着くはずだ。
「シロ、なぜそんな姿になっているの? なにがあったの?」
獣は唸るばかりで反応がない。聞こえないのだろうか。
小藤は「シロ」と声をかけながら数歩近づく。
獣はその小藤に顔を向けた。
自分を思い出してくれたのかと小藤は期待した。
しかし次の瞬間には、容赦なく爪が振り下ろされた。
「小藤っ」
光仙は小藤にかぶさる。光仙の背は爪で裂かれて吹き飛ばされた。
「小藤っ」
光仙は小藤にかぶさる。光仙の背は爪で裂かれて吹き飛ばされた。
「光仙さま!」
小藤は光仙の胸の中でくぐもった叫びをあげた。腕の中から這い出ると、横たわった光仙の背中の衣は破れ、そこから血が溢れだしているのが見えた。
「いえ、私も行きます。きっとお役に立ってみせます」
光仙は静かな瞳で小藤を見た。
「悪意を取り除く、おまえの力のことか」
「そうです」
悪霊というのなら、小藤が悪を取り除き、ただの霊にできるのではないか。
七郎兵衛の家から感じるものが全く怖くないと言ったら嘘になる。しかし双子の時の後悔が、小藤の背中を押していた。
「……わたしの後ろから離れるのではないぞ」
「わかりました」
家の敷地に踏み込んだ。囲いとしている高い木が日差しを遮り、体感温度が下がった。
悪寒のほかに圧迫感も強くなってくる。物理的に胸が潰されそうなほどだった。
光仙が戸に手をかけようとしたとき。
突如、鋭いものが戸をすり抜けて飛び出し襲い掛かってきた。
「……っ!」
光仙は懐から取り出した檜扇でそれを防ぐ。その勢いのまま弾かれるようにして後ろに下がった。その際に小藤も抱えられて家から距離を取る。
家の周辺が暗くなった。
二人が見上げると、そこにいたのは家ほども大きい獣だった。光仙を襲ったものは、獣の鋭い牙だったのだ。
それの眼窩は落ちくぼみ、真っ赤な歯肉を晒して血濡れの鋭い牙をむき出しにして唸っている。すべて犬歯のようなその口で噛みつかれたらひとたまりもないだろう。
唸りは地響きのようで、その口からは腐臭を吐き出し、赤黒い唾液を滴らせていた。
そのおぞましさに、小藤は思わず顔を押さえた。
しかしよく見ると、その獣の造形が犬であることに気づいた。小藤は恐ろしさを抑えて、その獣を観察した。
「……もしかして、シロ?」
半分肉が削げ落ちて、皮膚は変色し、毛並みはほとんどわからない。しかし、わすかに白柴の名残が見えた。
「ねえ、シロなんでしょ?」
小藤は呼びかけた。
七郎兵衛の家にいる白柴ならシロしかいない。あれだけ人懐こい犬だったのだ、声が届けば落ち着くはずだ。
「シロ、なぜそんな姿になっているの? なにがあったの?」
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しかし次の瞬間には、容赦なく爪が振り下ろされた。
「小藤っ」
光仙は小藤にかぶさる。光仙の背は爪で裂かれて吹き飛ばされた。
「小藤っ」
光仙は小藤にかぶさる。光仙の背は爪で裂かれて吹き飛ばされた。
「光仙さま!」
小藤は光仙の胸の中でくぐもった叫びをあげた。腕の中から這い出ると、横たわった光仙の背中の衣は破れ、そこから血が溢れだしているのが見えた。
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