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四章 父親の記憶(やや不条理)
四章 2
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「万能薬って、どんな病にも効く薬ってことでしょ。そんなものが存在するの?」
「ある」
阿光は自信たっぷりに頷いた。
「ただし、そういうものは人が近づけない場所にあって、そもそも存在自体が知られていない」
「この世にないということ?」
「いや。例えば先日、シロの力で七郎兵衛の家に入れなかったな。人は気分が悪くなったりして、原因はわからないものの先には進めなかった」
小藤はなるほどと手を打った。
「そういう強い力に阻まれて、踏み込めない場所に万能薬があるということね」
「そういうことだ」
阿光はニッと笑う。
「以前、双子の一人が沈んでいた沼に行くために森に入っただろ」
その時のことを思い出し、小藤の背中に冷たいものが走った。あれは悲しく恐ろしい体験だった。
「あの森で、あやかしを見たな?」
「阿光たちはいるって言ってたけど、私は見てないよ。でも、嫌な感じのする森だった」
小藤は闇が深かった森のことを思い出した。悪霊化していた春の影響だったのかもしれないが、「死の森」と名付けるのがふさわしいと思うほど、生命の息吹が感じられない森だった。
「そっか、小藤は見てないんだっけ。でも、嫌な感じがするってのは大事だな。あやかしの方も、こっちに来るなって意思表示をしているんだよ。もしくは、相当な悪意や力を持っているあやかしなら、なにもしなくても瘴気のようなものを発している。それを無視したり、鈍感な奴が凶暴なあやかしに近づいて命を落とすんだ」
「そうなんだ」
時々、人にされたとは思えない無残な遺体が見つかることがあるらしい。もしかすると、不用意にあやかしに近づいてしまった末路なのかもしれない。
「凶暴なあやかしもいれば、友好的なあやかしもいる。あやかしに食われる人もいれば、友達になることだってある。まあいろいろだ」
「いろいろかあ」
そんな話をしながら、朝の散歩は終わった。
小藤は村のあちらこちらを散策しているが、一カ所だけ近づかない場所があった。
それは小藤の実家だ。
大好きな家族なだけに、顔を見るのがまだつらかった。神使たちもそれに気づいており、小藤の実家には足を向けなかった。
小藤たちが神社に戻ると、ちょうど参拝者が来ていた。四十代ほどの女性だ。
「あっ、あれは松蔵のおっかあだ」
「小藤の知り合いか?」
人型に戻った阿光が小藤に尋ねた。十歳ほどの可愛らしい少年の姿になっている。犬のような耳と尻尾がついており、赤い袴を身に着けた神職の格好だ。小藤も同様の格好で、袴は藤色だった。
「うん、ご近所さんだったんだ」
この土地神の神社は小藤の住んでいた村に近いため、村の者が多く参拝に訪れる。
女性は拝殿で手を合わせた。
「神様、どうにか息子を外に出してください。なにもせずに家で寝てばかりいるのです。せっかく重い病が治ったというのに、これでは夫に合わせる顔がありません。息子の将来も心配です。何卒よろしくお願いします」
悲痛な表情でそう言って、女性は帰っていった。
「そういえば松蔵と最後に会ったのはいつだろう。身体が弱いと聞いていたけど、治ってたんだ」
妹の菊と同じで、身体が弱くてほとんど家から出てこなかった。しかし顔を合わせれば挨拶をする生真面目な少年だったと記憶している。年は今年で十二歳のはずだ。
「ある」
阿光は自信たっぷりに頷いた。
「ただし、そういうものは人が近づけない場所にあって、そもそも存在自体が知られていない」
「この世にないということ?」
「いや。例えば先日、シロの力で七郎兵衛の家に入れなかったな。人は気分が悪くなったりして、原因はわからないものの先には進めなかった」
小藤はなるほどと手を打った。
「そういう強い力に阻まれて、踏み込めない場所に万能薬があるということね」
「そういうことだ」
阿光はニッと笑う。
「以前、双子の一人が沈んでいた沼に行くために森に入っただろ」
その時のことを思い出し、小藤の背中に冷たいものが走った。あれは悲しく恐ろしい体験だった。
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小藤は闇が深かった森のことを思い出した。悪霊化していた春の影響だったのかもしれないが、「死の森」と名付けるのがふさわしいと思うほど、生命の息吹が感じられない森だった。
「そっか、小藤は見てないんだっけ。でも、嫌な感じがするってのは大事だな。あやかしの方も、こっちに来るなって意思表示をしているんだよ。もしくは、相当な悪意や力を持っているあやかしなら、なにもしなくても瘴気のようなものを発している。それを無視したり、鈍感な奴が凶暴なあやかしに近づいて命を落とすんだ」
「そうなんだ」
時々、人にされたとは思えない無残な遺体が見つかることがあるらしい。もしかすると、不用意にあやかしに近づいてしまった末路なのかもしれない。
「凶暴なあやかしもいれば、友好的なあやかしもいる。あやかしに食われる人もいれば、友達になることだってある。まあいろいろだ」
「いろいろかあ」
そんな話をしながら、朝の散歩は終わった。
小藤は村のあちらこちらを散策しているが、一カ所だけ近づかない場所があった。
それは小藤の実家だ。
大好きな家族なだけに、顔を見るのがまだつらかった。神使たちもそれに気づいており、小藤の実家には足を向けなかった。
小藤たちが神社に戻ると、ちょうど参拝者が来ていた。四十代ほどの女性だ。
「あっ、あれは松蔵のおっかあだ」
「小藤の知り合いか?」
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「うん、ご近所さんだったんだ」
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