【完結】遺棄事件と見えないドア

じゅん

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遺棄事件と見えないドア2

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 私の背筋に、冷たいものが走った。

“殺人”

 そんな二文字が頭に浮かんだからだ。
 まさか。
今まで生きてきた十五年間、犯罪に関わったことなんてない。そんなの、テレビの中の遠い存在のはずだ。
 私はブルリと頭を振った。額の上で揺れる前髪は汗をふくんで、いくつか束になっていた。
 ガチリガチリと擦れるような金属音や荒い息が近づいてきた。懐中電灯らしき光が上下左右に揺れて、膝丈に生い茂った草や、紅葉の準備に入りつつある木の葉を照らした。
すぐ近くまで来てる。
私は口元を手で押さえ、息をひそめた。
草の隙間から、下山してきた人物の黒いシルエットが見えた。肩くらいまである髪はパーマがかかっていて、身長が低い、小太りの女性のようだった。背中を丸めるように歩いている。
チカッと車のライトが点滅すると、女性はバックドアを開けた。車内のライトが点灯し、女性の姿が照らされた。しわが深く、五十代ぐらいのようだった。長袖のパーカーにチノパン、長靴という、まさに山に入る準備をしてきたという格好をしている。手にしていたシャベルといくつか重ねたバケツ、ビニール袋を荷室に入れた。汚れた軍手は、ところどころ、赤黒く染まっている。
赤……。
「……っ」
 血を連想した私は、思わず息を呑んだ。口もとの手に力を込める。肩が震えた。
 女性は動きを止めて、こちらを振り返った。逆光で表情は見えない。
 強い風が吹いて、木々が大きく揺れた。うるさかった虫が一斉に鳴くのをやめる。風がやみ、静寂が辺りを支配する。
 私は石のように固まった。呼吸も止めた。
 どうかあの人に、私が見えていませんように。
 私は瞬きを忘れて、その女性を凝視した。少しでも近づいて来れば、逃げ出すつもりだった。足に自信はないけど、オバサンには負けないと思う。
 女性も動かず、こちらを見ている。呼吸を止めていた私は、早鐘を打つような心臓と身体の熱さを感じていた。
 もう息が続かない。
 じっとしているのに耐え切れず、草むらから飛び出そうとした矢先に、女性が動いた。再び車の荷室に向かうと、軍手を外してバケツに入れ、黒い長靴もスニーカーに履き替えた。
 女性はドアを閉め、周囲を警戒するようにゆっくりと周囲を見回した。私はドキリとして身を縮める。
それから女性は早足で運転席に乗り込むと、車のエンジン音を響かせて走り去った。
「なに、今の……」
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