【完結】遺棄事件と見えないドア

じゅん

文字の大きさ
3 / 21

遺棄事件と見えないドア3

しおりを挟む
女性は早足で運転席に乗り込むと、車のエンジン音を響かせて走り去った。
「なに、今の……」
 私は大きく息をはいた。視界から車がいなくなったのを確認してから立ち上がる。つま先や頭の先まで脈打たせんばかりに、心臓が激しく動いていた。どっと冷や汗がわいてくる。それと同時に、あちらこちらがかゆくなった。蚊に刺されてしまったようだ。今更ながら、鞄から虫除けを出して全身に吹きかけた。
「もう、最悪」
 ハンカチで顔の汗をぬぐいながら、私はまだその場から動けずにいた。足のしびれだけではない。
 ――赤い、血のようなものが、頭から離れなかった。
「まさか、そんなはずが……」
 打ち消そうにも、頭にこびりついてしまった“殺人”の文字はなくならない。もし本当にそうならば、このまま帰ったら罪悪感にさいなまれそうな気がする。
 私は決意した。
「行ってみよう」
 怖くないわけではないけれど、このままモヤモヤしているよりはマシだ。
 生い茂る草で皮膚を切らないように、制服のスカートの下にジャージをはいた。上半身は暑くなりそうなので、ジャージを羽織る代わりに、虫よけスプレーを改めて吹きかける。
 スマートフォンのライトで足元を照らしながら、あの女性が出てきた付近から、私は山に踏み込んだ。女性の足跡を辿るのは、思っていたより簡単だった。草が踏みつぶされ、獣道のようになっていたからだ。
 しばらく進むと、草が生えていない一帯があった。大きな木が重なっていて、太陽の光が届かないようだ。そこには、足跡がいくつも重なっていた。
 ライトを当てて確認する。靴跡は、全て同じ靴底の模様のようだった。さっきの女性が、ここでなにかしていたということだろう。
更に近づいて見ると、その一部の土が、周囲と明らかに色が違っていた。しかも盛り上がっている。
掘り返した、という印象を受けた。
「わっ!」
私は思わず声を上げ、数歩後退った。盛り上がった土が、動いたように見えた。
「本当に……」
 あの女性が埋めた死体がここにあるのだろうか。でも動いたということは、まだ息があるってことだ。それなら助けなきゃ。
 私はそう思いながらも、足が進まなかった。
 怖かった。
土山にライトを当て続けていると、再び土が動いた。
「ひっ」
(気のせいじゃなかった。やっぱり生き埋めにされてる!)
 そう思った時、土からなにかが出てきた。土まみれで分かりにくいが、毛、のように見える。
人ではなさそうだった。
灰色っぽいそれは。
「もしかして、犬の足……?」
 更に土が盛り上がった。
そこから見えたものは――。
眼球が飛び出し、皮膚が腐りかけ、歯が抜け落ち、顎が溶けているため舌がタラリと垂れた、シーズーだった。

 * * *
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

25年目の真実

yuzu
ミステリー
結婚して25年。娘1人、夫婦2人の3人家族で幸せ……の筈だった。 明かされた真実に戸惑いながらも、愛を取り戻す夫婦の話。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【完結】限界離婚

仲 奈華 (nakanaka)
ミステリー
もう限界だ。 「離婚してください」 丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。 丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。 丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。 広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。 出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。 平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。 信じていた家族の形が崩れていく。 倒されたのは誰のせい? 倒れた達磨は再び起き上がる。 丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。 丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。 丸田 京香…66歳。半年前に退職した。 丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。 丸田 鈴奈…33歳。 丸田 勇太…3歳。 丸田 文…82歳。専業主婦。 麗奈…広一が定期的に会っている女。 ※7月13日初回完結 ※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。 ※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。 2026年1月ジャンルを大衆文学→ミステリーに変更しています。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

処理中です...