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遺棄事件と見えないドア3
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女性は早足で運転席に乗り込むと、車のエンジン音を響かせて走り去った。
「なに、今の……」
私は大きく息をはいた。視界から車がいなくなったのを確認してから立ち上がる。つま先や頭の先まで脈打たせんばかりに、心臓が激しく動いていた。どっと冷や汗がわいてくる。それと同時に、あちらこちらがかゆくなった。蚊に刺されてしまったようだ。今更ながら、鞄から虫除けを出して全身に吹きかけた。
「もう、最悪」
ハンカチで顔の汗をぬぐいながら、私はまだその場から動けずにいた。足のしびれだけではない。
――赤い、血のようなものが、頭から離れなかった。
「まさか、そんなはずが……」
打ち消そうにも、頭にこびりついてしまった“殺人”の文字はなくならない。もし本当にそうならば、このまま帰ったら罪悪感にさいなまれそうな気がする。
私は決意した。
「行ってみよう」
怖くないわけではないけれど、このままモヤモヤしているよりはマシだ。
生い茂る草で皮膚を切らないように、制服のスカートの下にジャージをはいた。上半身は暑くなりそうなので、ジャージを羽織る代わりに、虫よけスプレーを改めて吹きかける。
スマートフォンのライトで足元を照らしながら、あの女性が出てきた付近から、私は山に踏み込んだ。女性の足跡を辿るのは、思っていたより簡単だった。草が踏みつぶされ、獣道のようになっていたからだ。
しばらく進むと、草が生えていない一帯があった。大きな木が重なっていて、太陽の光が届かないようだ。そこには、足跡がいくつも重なっていた。
ライトを当てて確認する。靴跡は、全て同じ靴底の模様のようだった。さっきの女性が、ここでなにかしていたということだろう。
更に近づいて見ると、その一部の土が、周囲と明らかに色が違っていた。しかも盛り上がっている。
掘り返した、という印象を受けた。
「わっ!」
私は思わず声を上げ、数歩後退った。盛り上がった土が、動いたように見えた。
「本当に……」
あの女性が埋めた死体がここにあるのだろうか。でも動いたということは、まだ息があるってことだ。それなら助けなきゃ。
私はそう思いながらも、足が進まなかった。
怖かった。
土山にライトを当て続けていると、再び土が動いた。
「ひっ」
(気のせいじゃなかった。やっぱり生き埋めにされてる!)
そう思った時、土からなにかが出てきた。土まみれで分かりにくいが、毛、のように見える。
人ではなさそうだった。
灰色っぽいそれは。
「もしかして、犬の足……?」
更に土が盛り上がった。
そこから見えたものは――。
眼球が飛び出し、皮膚が腐りかけ、歯が抜け落ち、顎が溶けているため舌がタラリと垂れた、シーズーだった。
* * *
「なに、今の……」
私は大きく息をはいた。視界から車がいなくなったのを確認してから立ち上がる。つま先や頭の先まで脈打たせんばかりに、心臓が激しく動いていた。どっと冷や汗がわいてくる。それと同時に、あちらこちらがかゆくなった。蚊に刺されてしまったようだ。今更ながら、鞄から虫除けを出して全身に吹きかけた。
「もう、最悪」
ハンカチで顔の汗をぬぐいながら、私はまだその場から動けずにいた。足のしびれだけではない。
――赤い、血のようなものが、頭から離れなかった。
「まさか、そんなはずが……」
打ち消そうにも、頭にこびりついてしまった“殺人”の文字はなくならない。もし本当にそうならば、このまま帰ったら罪悪感にさいなまれそうな気がする。
私は決意した。
「行ってみよう」
怖くないわけではないけれど、このままモヤモヤしているよりはマシだ。
生い茂る草で皮膚を切らないように、制服のスカートの下にジャージをはいた。上半身は暑くなりそうなので、ジャージを羽織る代わりに、虫よけスプレーを改めて吹きかける。
スマートフォンのライトで足元を照らしながら、あの女性が出てきた付近から、私は山に踏み込んだ。女性の足跡を辿るのは、思っていたより簡単だった。草が踏みつぶされ、獣道のようになっていたからだ。
しばらく進むと、草が生えていない一帯があった。大きな木が重なっていて、太陽の光が届かないようだ。そこには、足跡がいくつも重なっていた。
ライトを当てて確認する。靴跡は、全て同じ靴底の模様のようだった。さっきの女性が、ここでなにかしていたということだろう。
更に近づいて見ると、その一部の土が、周囲と明らかに色が違っていた。しかも盛り上がっている。
掘り返した、という印象を受けた。
「わっ!」
私は思わず声を上げ、数歩後退った。盛り上がった土が、動いたように見えた。
「本当に……」
あの女性が埋めた死体がここにあるのだろうか。でも動いたということは、まだ息があるってことだ。それなら助けなきゃ。
私はそう思いながらも、足が進まなかった。
怖かった。
土山にライトを当て続けていると、再び土が動いた。
「ひっ」
(気のせいじゃなかった。やっぱり生き埋めにされてる!)
そう思った時、土からなにかが出てきた。土まみれで分かりにくいが、毛、のように見える。
人ではなさそうだった。
灰色っぽいそれは。
「もしかして、犬の足……?」
更に土が盛り上がった。
そこから見えたものは――。
眼球が飛び出し、皮膚が腐りかけ、歯が抜け落ち、顎が溶けているため舌がタラリと垂れた、シーズーだった。
* * *
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