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遺棄事件と見えないドア4
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夏服の袖から伸びる白い腕が、窓から入る夕暮れ色に染まっているのが目にとまった。
「それで、この赤字の部分は、テストに出るって言ってたよ」
クラスメートの海野涼子が、細長い指でノートのコピーをさしながら、今日の授業内容を解説してくれている。私の部屋の中央にテーブルを置いて、私たちは向かい合って座っていた。テーブルには温かい紅茶と、母お手製のチーズケーキと、数枚のプリント。
「いつもありがとう」
涼子からコピー用紙を受け取った私は、科目別にしているファイルに丁寧に閉じた。それぞれ、厚みを増してきている。
「ねえ美央。迎えに来るからさ、明日は学校に行こうよ。どんどん行きづらくなっちゃうよ」
印象的な大きな瞳を、涼子は心配そうにゆがめていた。
涼子は少し舌足らずのような、甘くておっとりとした喋り方をする。中三ながらに大人びた容姿の美人なので、口を開くとギャップがある。黙っていればクールなモデルのようで近づきがたいのに、親しみやすく、クラスの誰からも好かれていた。私も唯一、涼子とだけは話ができた。
だから涼子は、私の家に毎日通ってくれているのだ。
「……」
膝を抱えた私は、静かに首を横に振った。胸まである黒髪がサラサラと揺れる。
学校に行かなくなってから、二週間が過ぎていた。中学三年生の二学期という大事な時期に、私だって登校拒否なんてしたくない。だけど……。
「誰も、美央が犯人だなんて思ってないよ」
ビクリと、私は肩を震わせた。
私が第一発見者になってしまった、犬の大量遺棄事件。
自宅近くの山の中に、犬が四十頭以上捨てられていた。殆どの犬は死んでいたけれど、中には息のある犬もいた。生き埋めにされていたのだ。
それは新聞にも報じられ、悪徳ブリーダーの仕業ではないかと書かれていた。警察に通報した私は、見たことをありのままに話した。女性や車の特徴も細かく説明したというのに、いまだに犯人は捕まっていない。
「犯人が捕まれば、美央も学校に行きやすくなるのにね」
涼子は細い首を傾げた。ショートの髪が柔らかそうな頬にかかる。髪が紅茶色なのは、染めたのではなく、引退まで続けた水泳部のせいだと言っていた。プールの塩素の影響だろう。
「関係ないよ。涼子の言うとおり、みんな本気で言ってるわけじゃないんだから」
クラスメートに「犬殺し」と呼ばれて、私は学校に行かなくなった。きっかけは、犬の大量遺棄事件から二日後のことだった。
「それで、この赤字の部分は、テストに出るって言ってたよ」
クラスメートの海野涼子が、細長い指でノートのコピーをさしながら、今日の授業内容を解説してくれている。私の部屋の中央にテーブルを置いて、私たちは向かい合って座っていた。テーブルには温かい紅茶と、母お手製のチーズケーキと、数枚のプリント。
「いつもありがとう」
涼子からコピー用紙を受け取った私は、科目別にしているファイルに丁寧に閉じた。それぞれ、厚みを増してきている。
「ねえ美央。迎えに来るからさ、明日は学校に行こうよ。どんどん行きづらくなっちゃうよ」
印象的な大きな瞳を、涼子は心配そうにゆがめていた。
涼子は少し舌足らずのような、甘くておっとりとした喋り方をする。中三ながらに大人びた容姿の美人なので、口を開くとギャップがある。黙っていればクールなモデルのようで近づきがたいのに、親しみやすく、クラスの誰からも好かれていた。私も唯一、涼子とだけは話ができた。
だから涼子は、私の家に毎日通ってくれているのだ。
「……」
膝を抱えた私は、静かに首を横に振った。胸まである黒髪がサラサラと揺れる。
学校に行かなくなってから、二週間が過ぎていた。中学三年生の二学期という大事な時期に、私だって登校拒否なんてしたくない。だけど……。
「誰も、美央が犯人だなんて思ってないよ」
ビクリと、私は肩を震わせた。
私が第一発見者になってしまった、犬の大量遺棄事件。
自宅近くの山の中に、犬が四十頭以上捨てられていた。殆どの犬は死んでいたけれど、中には息のある犬もいた。生き埋めにされていたのだ。
それは新聞にも報じられ、悪徳ブリーダーの仕業ではないかと書かれていた。警察に通報した私は、見たことをありのままに話した。女性や車の特徴も細かく説明したというのに、いまだに犯人は捕まっていない。
「犯人が捕まれば、美央も学校に行きやすくなるのにね」
涼子は細い首を傾げた。ショートの髪が柔らかそうな頬にかかる。髪が紅茶色なのは、染めたのではなく、引退まで続けた水泳部のせいだと言っていた。プールの塩素の影響だろう。
「関係ないよ。涼子の言うとおり、みんな本気で言ってるわけじゃないんだから」
クラスメートに「犬殺し」と呼ばれて、私は学校に行かなくなった。きっかけは、犬の大量遺棄事件から二日後のことだった。
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