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遺棄事件と見えないドア9
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学校の授業が終わってからの時間で、涼子と保健所の前で待ち合わせることにした。最寄駅などでは、クラスメートと顔を合わすことになってしまうからだ。
「悪徳ブリーダーを探すことになってしまった」
涼子が帰った部屋で一人、ポツリと私は呟いた。涼子に誘導されたような気もするけど、悪い気はしなかった。
翌日。家を出ると言ったら、母が私の手を取って喜んだ。
私が家から出るのは、十五日ぶりだった。
アスファルトに濃い影を落とす快晴で、立っているだけで汗がにじむ暑い日だった。
「ごめんごめん、待たせちゃったね」
「まだ五分前だよ。私が早く着いちゃっただけだから。むしろ急がせてごめん」
待ち合わせの保健所に約束の十五分前に到着した私は、メッセージアプリで涼子に報告していた。メッセージを見た涼子は、短い制服のスカートを翻して走って来てくれた。何度見ても見惚れるくらいスタイルがよくて羨ましくなる。身長は私より十センチほど高かった。
「じゃ、行こうか」
私たちは犬が遺棄された山から一番近い保健所に来た。けれど、相手は車を持ったオバサンだ。過去に通報されたとしたら、繁殖を行っている場所に近い所になるはずで、今来ている保健所とは限らない。たとえば私が犬を処分したいと思った時、近所の山は選ばない。だけど当てがないので、涼子と相談した結果、まずは近場からということになった。
埼玉県では、動物保護などを管轄しているのは、動物愛護相談センターだった。シンプルな町役場のような建物で、敷地に入ると動物特有の臭いがした。二階の事務局に行って担当者を呼ぶと、五十代くらいの女性がやってきた。事情を説明して、通報のあった、規模の大きい悪徳ブリーダーの通報先を教えてもらえないかとお願いする。
担当者は、困ったような表情になった。
「何度かご連絡をいただいて、見守りをしている繁殖業者はいくつかあるのですが、情報の開示はしておりません」
「それは、教えてもらえないということですか?」
予想していたこととはいえ、思わず詰問するような口調になってしまった。悪者を守ってどうする、という気持ちもある。
担当者は「申し訳ございませんが、私どもとしては……」と奥歯に物が挟まったような物言いをする。その表情は硬くなに拒んでいるというよりは、自分は言いたいけれども、決まり事だから仕方がない、というように読み取れた。
私は涼子に視線を向けた。
これは、押せばなんとかなるかも。
私たちは頷き合う。
「一か所だけでもいいんです、お願いします。どんなところか、見に行くだけですから」
涼子は手を合わせた。
「そう言われましても……」
担当者が弱っているところに、「どうしたんですか?」と後ろから声をかけられた。
振り向くと、三十代半ばくらいの女性が、きびきびと歩いてきていた。胸くらいまである黒髪を、無造作に首の後ろで一纏めにしていた。
「ああ、山口さん。丁度良かった」
担当の女性は、心底ほっとしたように、山口と呼んだ女性を手招きした。
「悪徳ブリーダーを探すことになってしまった」
涼子が帰った部屋で一人、ポツリと私は呟いた。涼子に誘導されたような気もするけど、悪い気はしなかった。
翌日。家を出ると言ったら、母が私の手を取って喜んだ。
私が家から出るのは、十五日ぶりだった。
アスファルトに濃い影を落とす快晴で、立っているだけで汗がにじむ暑い日だった。
「ごめんごめん、待たせちゃったね」
「まだ五分前だよ。私が早く着いちゃっただけだから。むしろ急がせてごめん」
待ち合わせの保健所に約束の十五分前に到着した私は、メッセージアプリで涼子に報告していた。メッセージを見た涼子は、短い制服のスカートを翻して走って来てくれた。何度見ても見惚れるくらいスタイルがよくて羨ましくなる。身長は私より十センチほど高かった。
「じゃ、行こうか」
私たちは犬が遺棄された山から一番近い保健所に来た。けれど、相手は車を持ったオバサンだ。過去に通報されたとしたら、繁殖を行っている場所に近い所になるはずで、今来ている保健所とは限らない。たとえば私が犬を処分したいと思った時、近所の山は選ばない。だけど当てがないので、涼子と相談した結果、まずは近場からということになった。
埼玉県では、動物保護などを管轄しているのは、動物愛護相談センターだった。シンプルな町役場のような建物で、敷地に入ると動物特有の臭いがした。二階の事務局に行って担当者を呼ぶと、五十代くらいの女性がやってきた。事情を説明して、通報のあった、規模の大きい悪徳ブリーダーの通報先を教えてもらえないかとお願いする。
担当者は、困ったような表情になった。
「何度かご連絡をいただいて、見守りをしている繁殖業者はいくつかあるのですが、情報の開示はしておりません」
「それは、教えてもらえないということですか?」
予想していたこととはいえ、思わず詰問するような口調になってしまった。悪者を守ってどうする、という気持ちもある。
担当者は「申し訳ございませんが、私どもとしては……」と奥歯に物が挟まったような物言いをする。その表情は硬くなに拒んでいるというよりは、自分は言いたいけれども、決まり事だから仕方がない、というように読み取れた。
私は涼子に視線を向けた。
これは、押せばなんとかなるかも。
私たちは頷き合う。
「一か所だけでもいいんです、お願いします。どんなところか、見に行くだけですから」
涼子は手を合わせた。
「そう言われましても……」
担当者が弱っているところに、「どうしたんですか?」と後ろから声をかけられた。
振り向くと、三十代半ばくらいの女性が、きびきびと歩いてきていた。胸くらいまである黒髪を、無造作に首の後ろで一纏めにしていた。
「ああ、山口さん。丁度良かった」
担当の女性は、心底ほっとしたように、山口と呼んだ女性を手招きした。
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