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三章 無血の海賊王
無血の海賊王 8
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「こうして見ると女にも見えるな。顔だちといい、体のラインといい……」
肩に置かれたロバートの手が、スッと腕に沿って下りてくる。アレクサンドラはヒヤリとして慌てて距離をとった。
「それを言うなら、クリスなんて女性にしか見えないじゃないか」
「違いねえ。あいつは性別を越えた、クリスって生き物だからな」
ロバートは笑ってラムを煽った。
クリスの名前を出したことで、気になる単語を思い出した。
「クリスの言ってた“ご褒美”ってなに?」
「ああ、帆柱を倒した時の。気になるのか」
アレクサンドラはほのかに頬を染めながら頷いた。
クリスのロバートへの好意はあからさまだ。しかしロバートは男でクリスも男。普段は恋愛ごとに関心のないアレクサンドラだったが、クリスがなにをねだっているのか興味があった。
「ふうん。じゃあ」
ロバートにちょいちょいと指先で誘われ、アレクサンドラは近づいた。ロバートはアレクサンドラの耳に唇を寄せる。
「おまえにも、“ご褒美”をしてやろうか?」
囁きが耳朶をくすぐった。息混じりのその声があまりに官能的だったので、アルコールとは別の熱が全身を走った。
「えっ……」
アレクサドラは混乱して言葉が出ない。
「俺も混ざりますよ、キャプテン」
地を這うような低い声にアレクサンドラが振り返ると、眉をつり上げて明らかに不機嫌なエドワードが見張り台に上がってきた。
「保護者の登場か。アレックスがようやく砕けてきたところだ。おまえも“です、ます”なんて使わなくていいぞ」
そういえば丁寧語を使っていなかったと、アレクサンドラは口元を押さえた。
「それは、どうも」
エドワードは早速アレクサンドラを引きよせた。
「エドは酒を持ってこなかったのか」
「俺はアレックスを呼びに来ただけだ」
消灯時間が過ぎ、飲み足りない者たちが外の甲板に出てきていた。
「下りられるのか? そいつ、さっき酔って倒れたばかりだぞ」
ロバートの指摘に、「うっかりラム酒を飲んで、介抱してもらっていた」とアレクサンドラが白状すると、エドワードは盛大な溜息をついた。
「こいつを抱えて下りるくらい、なんてことはない」
「なに言ってるんだ、危ないよエド。もう大丈夫だと思うけど、念のためもう少し休んでから一人で下りるよ」
「だめだ、今すぐ降りろ」
エドワードの目がとがっている。アレクサンドラはなにも言えなくなった。
「……そこまで言うなら、わかったよ」
二人のやりとりを見ながら酒を煽り、ロバートは揶揄するように笑う。
「保護者というよりも恋人だな。おまえら、できてんの?」
「そんなわけあるか。私たちは男同士なんだぞ」
からかわれているとわかっていても、アレクサンドラは全力で否定した。
「そう見えるのなら、そうなのかもな。俺のアレックスに手を出すなよ」
エドワードはしれっと答え、降りようと縄梯子に足をかける。なんてことを言うんだと、アレクサンドラは真っ赤になった。
「おまえにアレックスを満足させられるのかな」
「なんだと」
ロバートの言葉に、エドワードは足を止めた。
「エドでは器が足りないと言っている」
ロバートの強い眼光は、明らかな挑発を孕んでいた。
「きさま、なにを……」
「醒めた! 酔いは完全に醒めた。すぐ降りたい! 早く先に進んでよエド」
アレクサンドラは一触即発の空気を慌てて拡散した。不敵な笑みを浮かべているロバートを困ったように睨んでから、アレクサンドラも縄梯子を降りた。なぜわざわざエドワードを怒らせるようなことを言うのだ、このキャプテンは。
「おまえたちはなんの話をしていたんだ」
エドワードが声を荒げる。
甲板に降りるとアレクサンドラはすぐに物陰に連れ込まれた。エドワードに両肩を掴まれる。
「特にロバートの出生やアジトに関わることは聞けなかったよ」
「そうじゃない。おまえたち自身のことだ」
器がどうのという話に怒り心頭なのだろう。
「そんなに怒らないでよ。ロバートにからかわれただけだよ。私たちがいつも一緒にいるから」
「それだけではないだろう」
普段は冷めた表情をしているエドワードが、苦しそうに眉根を寄せている。
「おまえ、あいつに惚れてないだろうな」
「あいつって、ロバートのこと? まさか」
アレクサンドラは首を振って否定した。
「もう任務なんてどうでもいい。おまえを連れて今すぐに帰りたい」
エドワードはきつくアレクサンドラを抱きしめた。
「エド、人に見られる」
「構わない」
さきほどのロバートの言葉がよほど堪えているとみえる。アレクサンドラはエドワードの背中を軽く叩いた。
「エドらしくないよ。それに今日も相当飲んで酔ってるでしょ。もう寝よう」
アレクサンドラはエドワードを促しながら考える。
私がロバートに惚れるなんて、そんなばかな。
笑おうとして、ロバートの傍で役に立ちたいと考えたことを思い出した。
ロバートは平和な世を望み、いずれ世界を巡るだろうことが、アレクサンドラの胸に深く刻まれた。
肩に置かれたロバートの手が、スッと腕に沿って下りてくる。アレクサンドラはヒヤリとして慌てて距離をとった。
「それを言うなら、クリスなんて女性にしか見えないじゃないか」
「違いねえ。あいつは性別を越えた、クリスって生き物だからな」
ロバートは笑ってラムを煽った。
クリスの名前を出したことで、気になる単語を思い出した。
「クリスの言ってた“ご褒美”ってなに?」
「ああ、帆柱を倒した時の。気になるのか」
アレクサンドラはほのかに頬を染めながら頷いた。
クリスのロバートへの好意はあからさまだ。しかしロバートは男でクリスも男。普段は恋愛ごとに関心のないアレクサンドラだったが、クリスがなにをねだっているのか興味があった。
「ふうん。じゃあ」
ロバートにちょいちょいと指先で誘われ、アレクサンドラは近づいた。ロバートはアレクサンドラの耳に唇を寄せる。
「おまえにも、“ご褒美”をしてやろうか?」
囁きが耳朶をくすぐった。息混じりのその声があまりに官能的だったので、アルコールとは別の熱が全身を走った。
「えっ……」
アレクサドラは混乱して言葉が出ない。
「俺も混ざりますよ、キャプテン」
地を這うような低い声にアレクサンドラが振り返ると、眉をつり上げて明らかに不機嫌なエドワードが見張り台に上がってきた。
「保護者の登場か。アレックスがようやく砕けてきたところだ。おまえも“です、ます”なんて使わなくていいぞ」
そういえば丁寧語を使っていなかったと、アレクサンドラは口元を押さえた。
「それは、どうも」
エドワードは早速アレクサンドラを引きよせた。
「エドは酒を持ってこなかったのか」
「俺はアレックスを呼びに来ただけだ」
消灯時間が過ぎ、飲み足りない者たちが外の甲板に出てきていた。
「下りられるのか? そいつ、さっき酔って倒れたばかりだぞ」
ロバートの指摘に、「うっかりラム酒を飲んで、介抱してもらっていた」とアレクサンドラが白状すると、エドワードは盛大な溜息をついた。
「こいつを抱えて下りるくらい、なんてことはない」
「なに言ってるんだ、危ないよエド。もう大丈夫だと思うけど、念のためもう少し休んでから一人で下りるよ」
「だめだ、今すぐ降りろ」
エドワードの目がとがっている。アレクサンドラはなにも言えなくなった。
「……そこまで言うなら、わかったよ」
二人のやりとりを見ながら酒を煽り、ロバートは揶揄するように笑う。
「保護者というよりも恋人だな。おまえら、できてんの?」
「そんなわけあるか。私たちは男同士なんだぞ」
からかわれているとわかっていても、アレクサンドラは全力で否定した。
「そう見えるのなら、そうなのかもな。俺のアレックスに手を出すなよ」
エドワードはしれっと答え、降りようと縄梯子に足をかける。なんてことを言うんだと、アレクサンドラは真っ赤になった。
「おまえにアレックスを満足させられるのかな」
「なんだと」
ロバートの言葉に、エドワードは足を止めた。
「エドでは器が足りないと言っている」
ロバートの強い眼光は、明らかな挑発を孕んでいた。
「きさま、なにを……」
「醒めた! 酔いは完全に醒めた。すぐ降りたい! 早く先に進んでよエド」
アレクサンドラは一触即発の空気を慌てて拡散した。不敵な笑みを浮かべているロバートを困ったように睨んでから、アレクサンドラも縄梯子を降りた。なぜわざわざエドワードを怒らせるようなことを言うのだ、このキャプテンは。
「おまえたちはなんの話をしていたんだ」
エドワードが声を荒げる。
甲板に降りるとアレクサンドラはすぐに物陰に連れ込まれた。エドワードに両肩を掴まれる。
「特にロバートの出生やアジトに関わることは聞けなかったよ」
「そうじゃない。おまえたち自身のことだ」
器がどうのという話に怒り心頭なのだろう。
「そんなに怒らないでよ。ロバートにからかわれただけだよ。私たちがいつも一緒にいるから」
「それだけではないだろう」
普段は冷めた表情をしているエドワードが、苦しそうに眉根を寄せている。
「おまえ、あいつに惚れてないだろうな」
「あいつって、ロバートのこと? まさか」
アレクサンドラは首を振って否定した。
「もう任務なんてどうでもいい。おまえを連れて今すぐに帰りたい」
エドワードはきつくアレクサンドラを抱きしめた。
「エド、人に見られる」
「構わない」
さきほどのロバートの言葉がよほど堪えているとみえる。アレクサンドラはエドワードの背中を軽く叩いた。
「エドらしくないよ。それに今日も相当飲んで酔ってるでしょ。もう寝よう」
アレクサンドラはエドワードを促しながら考える。
私がロバートに惚れるなんて、そんなばかな。
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