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四章 竜骨の下で
竜骨の下で 4
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「さて、女は連れ込まないというのが俺たちの掟だ。みんな、どうしたい?」
ロバートは樽に腰掛けて長い脚を組み、船員を見回した。
「船から落とせばいい」
クリスが突き放すように発言した。
「初めから殺す前提のものは却下」
ロバートが返した。
「鞭打ちが妥当だろう」
「甘い」
「回数による」
「一人十回打つとして、約八百回」
「それは死ぬだろう」
「死ぬかもしれない回数を耐えてこそなんじゃないか?」
「俺たちは舐められたんだ」
口々に意見をする船員たち。アレクサンドラの味方をしてくれそうなブッチャーやピエールはあちらの商船にいるようだ。
「生きるか死ぬかなら、船底くぐりの刑だろう」
その言葉にざわめきがおきた。
「成功した者を見たことがない」
「サメに食われるか、溺死するか」
ロバートは手を打った。
「そこまで! よし、鞭打ち八百回か、船底くぐりの二択だ。アレックス、選べ」
「……わかった」
返事をするアレクサンドラの声がわずかに震えた。
海賊の鞭打ちは、丈夫で短いロープの半分を九本に解き、それぞれの先端を結わいた“九尾の猫”を使用する。その鞭で打たれると皮膚が裂け、百回でも死に至ると聞いたことがある。八百回も打たれて耐えられる自信が、アレクサンドラにはなかった。
船底くぐりはどうだろう。
文字通り、舷側から海に入り、船の中心である船底の竜骨の下をくぐって反対側の舷側まで泳ぐことだが、何分かかるのか想像がつかない。ただ、さっきロバートに落とされた商船員がしばらく無事に海にいたので、人食いザメはいないだろう。……と思いたい。
アレクサンドラは決めた。海軍で鍛えられたので、泳ぎには自信がある。あとは息が続くかだ。鞭よりは勝算があるはずだ。
「船底くぐりをする」
船員たちはどよめいた。誰かが太鼓のように樽を叩く。
ガレー船の帆がたたまれて、進みが緩やかになった。後ろの商船も速度を合わせている。海原で船を停めて、商船の乗組員たちはどうしたことかと思っているだろうか。それとも、既にネイサンがなにか伝えているのか。
「さあ、準備はいいか?」
ロバートの声に、アレクサンドラは頷いた。船員たちは黙ってアレクサンドラの一挙手一投足を眺めている。
服を着ると水を含んで動きが鈍くなりそうなので、靴を脱いだだけで、晒しとパンツのままでいることにした。腰のカトラスをどうしようか迷ったが、携帯したまま船縁を乗り越えた。
高かった。
深い藍色の波が、来ることを拒んでいるように渦を巻いている。アレクサンドラは息を飲んだ。腰が引けて足が震えそうになる。
肩越しに振り返ると、ロバートは無表情で樽に腰掛けたままこちらを見ていた。
「できる。私はできる」
緊張して、どうしても息が浅くなってしまう。アレクサンドラは全身に力を込めて、一度脱力した。深く吸った息をゆっくり吐き出しながら、集中して海面を見つめる。
震えが止まった。前に伸ばした両手に集中すると、野次などの全ての音が遠ざかる。ただ、髪を揺らす海風だけを全身に感じた。
「よし」
呼吸を整え、肺を空気で満たし。
――海に飛びこんだ。
ロバートは樽に腰掛けて長い脚を組み、船員を見回した。
「船から落とせばいい」
クリスが突き放すように発言した。
「初めから殺す前提のものは却下」
ロバートが返した。
「鞭打ちが妥当だろう」
「甘い」
「回数による」
「一人十回打つとして、約八百回」
「それは死ぬだろう」
「死ぬかもしれない回数を耐えてこそなんじゃないか?」
「俺たちは舐められたんだ」
口々に意見をする船員たち。アレクサンドラの味方をしてくれそうなブッチャーやピエールはあちらの商船にいるようだ。
「生きるか死ぬかなら、船底くぐりの刑だろう」
その言葉にざわめきがおきた。
「成功した者を見たことがない」
「サメに食われるか、溺死するか」
ロバートは手を打った。
「そこまで! よし、鞭打ち八百回か、船底くぐりの二択だ。アレックス、選べ」
「……わかった」
返事をするアレクサンドラの声がわずかに震えた。
海賊の鞭打ちは、丈夫で短いロープの半分を九本に解き、それぞれの先端を結わいた“九尾の猫”を使用する。その鞭で打たれると皮膚が裂け、百回でも死に至ると聞いたことがある。八百回も打たれて耐えられる自信が、アレクサンドラにはなかった。
船底くぐりはどうだろう。
文字通り、舷側から海に入り、船の中心である船底の竜骨の下をくぐって反対側の舷側まで泳ぐことだが、何分かかるのか想像がつかない。ただ、さっきロバートに落とされた商船員がしばらく無事に海にいたので、人食いザメはいないだろう。……と思いたい。
アレクサンドラは決めた。海軍で鍛えられたので、泳ぎには自信がある。あとは息が続くかだ。鞭よりは勝算があるはずだ。
「船底くぐりをする」
船員たちはどよめいた。誰かが太鼓のように樽を叩く。
ガレー船の帆がたたまれて、進みが緩やかになった。後ろの商船も速度を合わせている。海原で船を停めて、商船の乗組員たちはどうしたことかと思っているだろうか。それとも、既にネイサンがなにか伝えているのか。
「さあ、準備はいいか?」
ロバートの声に、アレクサンドラは頷いた。船員たちは黙ってアレクサンドラの一挙手一投足を眺めている。
服を着ると水を含んで動きが鈍くなりそうなので、靴を脱いだだけで、晒しとパンツのままでいることにした。腰のカトラスをどうしようか迷ったが、携帯したまま船縁を乗り越えた。
高かった。
深い藍色の波が、来ることを拒んでいるように渦を巻いている。アレクサンドラは息を飲んだ。腰が引けて足が震えそうになる。
肩越しに振り返ると、ロバートは無表情で樽に腰掛けたままこちらを見ていた。
「できる。私はできる」
緊張して、どうしても息が浅くなってしまう。アレクサンドラは全身に力を込めて、一度脱力した。深く吸った息をゆっくり吐き出しながら、集中して海面を見つめる。
震えが止まった。前に伸ばした両手に集中すると、野次などの全ての音が遠ざかる。ただ、髪を揺らす海風だけを全身に感じた。
「よし」
呼吸を整え、肺を空気で満たし。
――海に飛びこんだ。
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