海賊王と麗人海軍~海洋恋愛浪漫譚~

じゅん

文字の大きさ
45 / 48
終章 別れと始まり

別れと始まり 1

しおりを挟む
 高い位置から太陽に照らされて、アレクサンドラたちを乗せた船は、ジャスターク国の港に戻ってきた。乗員を降ろすとその船は食料などを補充して、オルレニア王国に戻っていった。
「キャプテン、待ってたぜ」
「お帰り」
「早くお宝探しに行こうぜ」
 ロバート海賊団の何人かが石造りの突堤まで迎えに来ていた。その中にはエドワードの姿もあり、アレクサンドラはドキリとする。
「ただいま」
 おずおずと声をかけてくるアレクサンドラの無事を確認したエドワードは、安堵の表情を浮かべたあとに顔を引き締めた。
「どこに行っていた?」
「それは言えない」
 アレクサンドラは拳を握り、緊張しながらエドワードを見上げている。
「隠れ家なんだろ」
「……エド、話しがある。人のいないところに行きたい」
 二人は宿屋に移動した。狭い部屋に立ったアレクサンドラは、表情を硬くしたまま目を伏せる。
「話があるんじゃないのか」
「エド……」
 口を開きかけたものの、またアレクサンドラは俯いてしまった。それを見ていたエドワードは表情を硬くしたままベッドに腰かけた。
「では俺から話そう」
 エドワードはアレクサンドラにも座るよう視線で促す。
「今日、昼過ぎに定期船が到着する。俺はそれで帰国する。おまえも来い」
「そんな、だってまだ……」
「十分な収穫だ。おまえはアジトを突き止めたんだろう」
 挑発するような視線を受け、アレクサンドラは首を横に振った。
「私は帰らない」
 そしてアレクサンドラはエドワードの瞳を真っ直ぐに見返した。
「エド。帝国に戻ったら、私は死んだと報告してほしい」
 予測していたのだろう、エドワードはわずかに眉を寄せただけだった。
「兄は悲しむかもしれない。でも真実は知らせないで。嵐の夜に誤って船から転落したことにでもしてほしい。私の死が、軍の報復の手段に利用されるのも困る」
 エドワードは固い表情で先を促した。
「アレクサンドラ・ヴァローズは死んだ。私はアレックスとして、ここで生きていく」
「……頭を冷やしても熱病は治らなかったのか」
「ごめん、エド。でも私は決めたんだ」
 アレクサンドラは拳を固く握った。瞬きを忘れているかのような二人は、強い視線をぶつけ合っていた。
「俺が嫌だと言ったらどうする? 洗いざらい軍部に報告すると」
 アレクサンドラは下唇を噛みしめて、一息吸ってからエドワードを見据えた。
「エド、剣で私と勝負して」
「……勝負?」
 エドワードはわずかに目を眇める。
「私が勝ったら、帝国に戻って私が死んだと報告してほしい」
「正気か」
 エドワードは立ち上がった。
「おまえに剣を教えたのは俺だぞ」
 アレクサンドラは父や兄、そして特にエドワードに剣技を習っていた。
「わかってる。それを言うなら私だってエドの太刀筋はよく知っている」
 エドワードは小さく首を振る。
「それほどまでして、海賊として生きていきたいのか」
 アレクサンドラは頷いた。
「ロバートは海図を完成させたいという私の夢を笑わなかった」
 その言葉にエドワードは瞠目し、小さく歯を鳴らす。
 アレクサンドラはベッドサイドの荷からレイピアを持ち上げた。
「これを使いたい。カトラスはあまり得意ではないから」
 腰に下げたカトラスに、レイピアの鞘をコツンと当てた。
「わかった。その勝負を受けよう」
 エドワードは腰のカトラスをベッドにのせ、レイピアを帯刀した。
「ただし、俺が勝ったらおまえも帝国に帰るんだ。そしておまえは俺の妻になる」
「エド」
「俺に虚偽報告をさせようというんだ。当然、それくらいの覚悟はあるだろうな」
「……わかった」
 妻になることを罰のように言わないでほしいと、アレクサンドラは悲しくなった。しかし、エドワードをそこまで追いつめているのは自分なのだ。
 大好きな人を苦しめている。
 それがわかっていても、アレクサンドラは夢を目指すことに決めたのだ。
 もう後戻りするつもりはない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

SAI
ファンタジー
魔法が当たり前に存在する世界で17歳の美少女ライファは最低ランクの魔力しか持っていない。夢で見たレシピを再現するため、魔女の家で暮らしながら料理を作る日々を過ごしていた。  低い魔力でありながら神からの贈り物とされるスキルを持つが故、国を揺るがす大きな渦に巻き込まれてゆく。 恋愛×料理×調合

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

処理中です...