海賊王と麗人海軍~海洋恋愛浪漫譚~

じゅん

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終章 別れと始まり

別れと始まり 2

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 二人は港に近い丘にあがった。歩くたびにアレクサンドラの腰のレイピアとカトラスの鞘が当たって音を立てる。
丘は水平線を百八十度見渡せる絶景の場所だった。周囲に遮蔽物がないので強い日差しが肌を焦がす。立っているだけでじわりと汗がにじんできた。太陽はアレクサンドラのやや後ろにある。
 二人は適度に距離を取ってレイピアを構えた。
「いくぞ」
 アレクサンドラがレイピアを突き出すも、あっさりとエドワードに払われた。その勢いのまま回転して脇を狙うが受け流される。続けて、アレクサンドラから息をつく間もない攻撃を繰り出すものの、全ていなされてしまった。
 アレクサンドラは剣では誰にも負けまいと技を磨いてきた。実際、隊の中では首位だった。しかし、それをいうならばエドワードは海軍全体の中でもトップクラスにいる。
「そこまでか?」
 肩で息をするアレクサドラに、涼しい顔でエドワードが剣を向けた。逆光気味のエドワードを、アレクサンドラは眇めて見た。
エドワードは一度もアレクサンドラに斬りかかってきていない。あまりの実力差にアレクサドラは愕然とする。エドワードが強いことはわかっていたが、今まで手加減されてきたようだ。
しかし、この勝負だけは負けてはならない。
 アレクサンドラは体勢を整えると、声を発しながら再びエドワードに斬りかかった。エドワードはレイピアを受け止め、絡め取る動きをした。武器を奪って勝負を終わらせようとしているに違いない。
 チャンスだ。
 アレクサンドラは左手で腰のカトラスを抜き、アレクサンドラの剣を受け止めてガードのなくなったエドワードの腹を斬りつけた。
「っ!」
 エドワードはアレクサンドラの思惑に気付き、柄を使ってアレクサンドラを突き飛ばして距離を取った。カトラスは空を斬った。
 すぐにアレクサンドラは、抜いたカトラスの剣身をエドワードに向けた。幅広の剣身が鏡のような役割をして、太陽光がエドワードの目を襲った。意表をつかれ、エドワードは一瞬、目を閉じた。
 それで十分だった。
 アレクサンドラは踏み込んで、剣を握っているエドワードの右肘を押し上げると同時に、右の足の下に自らの左足を滑り込ませ、思い切り持ち上げた。バランスを崩したエドワードが倒れる。
「勝負あり」
 エドワードが目を開けた時には、太陽を背にしたアレクサンドラのレイピアが、喉元に押し当てられていた。
「卑怯な手を使うじゃないか」
 アレクサンドラが差し伸べてきた手を握って立ち上がったエドワードは、苦々しい表情ではき捨てた。
「こうでもしなきゃ私はエドに勝てないよ。剣を二本使ってはいけないというルールもなかった」
 それに、とアレクサンドラは続ける。
「卑怯なくらいでちょうどいい。私は海賊になるんだから」
 アレクサンドラはロバートを真似て不敵に笑った。
 つもりだった。
 しかし上手くいかなかった。エドワードとの別れが近づいているかと思うと、どうしても口角が上がらない。
「帝国には約束通り、私は死んだと伝えて」
「おまえにとって、もう、どうでもいいのか。祖国も、家族も……俺も」
「そんなはずないじゃないか!」
 アレクサンドラは魂を振り絞るように叫んだ。
「大切に決まっている」
 握った拳が震える。
「でも私は、やっと自分らしく生きられる場所をみつけたんだ。もう戻れない」
 栄えた祖国の景色。統率の取れた軍艦。兄が口やかましかったのは愛情だとわかっている。
 そして、エドワード。
 幼少のころから共にいて、アレクサンドラを見守り、助け、妻にまでしようとしてくれた。大好きで、大切な人。
 しかし、もう二度と会うことはないだろう。
「アレックス、泣くな」
 エドワードに頬の涙を拭われて、アレクサンドラは自分が泣いていることに気がついた。
「エド……」
「泣く必要はない。おまえは帝国に帰るのだからな」
「なっ」
 アレクサンドラは後ろから顔に布を押し付けられた。ツンとした薬品の匂いが鼻の奥を刺激する。
「んんっ」
 布を外そうとするが、エドワードの腕はびくともしない。
「まさか勝負に負けると思っていなかったが、念のために用意しておいてよかった。危険だとわかっている場所におまえを一人で置いて行けるか」
「……っ」
 力が抜けていく。
 アレクサンドラは立っていられず倒れそうになるところを、エドワードが支えた。
「おまえのためだ」
 いやだ、離して。
 そう言いたかったが、もう口すら動かなかった。
 アレクサンドラは意識を失った。
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