46 / 48
終章 別れと始まり
別れと始まり 2
しおりを挟む
二人は港に近い丘にあがった。歩くたびにアレクサンドラの腰のレイピアとカトラスの鞘が当たって音を立てる。
丘は水平線を百八十度見渡せる絶景の場所だった。周囲に遮蔽物がないので強い日差しが肌を焦がす。立っているだけでじわりと汗がにじんできた。太陽はアレクサンドラのやや後ろにある。
二人は適度に距離を取ってレイピアを構えた。
「いくぞ」
アレクサンドラがレイピアを突き出すも、あっさりとエドワードに払われた。その勢いのまま回転して脇を狙うが受け流される。続けて、アレクサンドラから息をつく間もない攻撃を繰り出すものの、全ていなされてしまった。
アレクサンドラは剣では誰にも負けまいと技を磨いてきた。実際、隊の中では首位だった。しかし、それをいうならばエドワードは海軍全体の中でもトップクラスにいる。
「そこまでか?」
肩で息をするアレクサドラに、涼しい顔でエドワードが剣を向けた。逆光気味のエドワードを、アレクサンドラは眇めて見た。
エドワードは一度もアレクサンドラに斬りかかってきていない。あまりの実力差にアレクサドラは愕然とする。エドワードが強いことはわかっていたが、今まで手加減されてきたようだ。
しかし、この勝負だけは負けてはならない。
アレクサンドラは体勢を整えると、声を発しながら再びエドワードに斬りかかった。エドワードはレイピアを受け止め、絡め取る動きをした。武器を奪って勝負を終わらせようとしているに違いない。
チャンスだ。
アレクサンドラは左手で腰のカトラスを抜き、アレクサンドラの剣を受け止めてガードのなくなったエドワードの腹を斬りつけた。
「っ!」
エドワードはアレクサンドラの思惑に気付き、柄を使ってアレクサンドラを突き飛ばして距離を取った。カトラスは空を斬った。
すぐにアレクサンドラは、抜いたカトラスの剣身をエドワードに向けた。幅広の剣身が鏡のような役割をして、太陽光がエドワードの目を襲った。意表をつかれ、エドワードは一瞬、目を閉じた。
それで十分だった。
アレクサンドラは踏み込んで、剣を握っているエドワードの右肘を押し上げると同時に、右の足の下に自らの左足を滑り込ませ、思い切り持ち上げた。バランスを崩したエドワードが倒れる。
「勝負あり」
エドワードが目を開けた時には、太陽を背にしたアレクサンドラのレイピアが、喉元に押し当てられていた。
「卑怯な手を使うじゃないか」
アレクサンドラが差し伸べてきた手を握って立ち上がったエドワードは、苦々しい表情ではき捨てた。
「こうでもしなきゃ私はエドに勝てないよ。剣を二本使ってはいけないというルールもなかった」
それに、とアレクサンドラは続ける。
「卑怯なくらいでちょうどいい。私は海賊になるんだから」
アレクサンドラはロバートを真似て不敵に笑った。
つもりだった。
しかし上手くいかなかった。エドワードとの別れが近づいているかと思うと、どうしても口角が上がらない。
「帝国には約束通り、私は死んだと伝えて」
「おまえにとって、もう、どうでもいいのか。祖国も、家族も……俺も」
「そんなはずないじゃないか!」
アレクサンドラは魂を振り絞るように叫んだ。
「大切に決まっている」
握った拳が震える。
「でも私は、やっと自分らしく生きられる場所をみつけたんだ。もう戻れない」
栄えた祖国の景色。統率の取れた軍艦。兄が口やかましかったのは愛情だとわかっている。
そして、エドワード。
幼少のころから共にいて、アレクサンドラを見守り、助け、妻にまでしようとしてくれた。大好きで、大切な人。
しかし、もう二度と会うことはないだろう。
「アレックス、泣くな」
エドワードに頬の涙を拭われて、アレクサンドラは自分が泣いていることに気がついた。
「エド……」
「泣く必要はない。おまえは帝国に帰るのだからな」
「なっ」
アレクサンドラは後ろから顔に布を押し付けられた。ツンとした薬品の匂いが鼻の奥を刺激する。
「んんっ」
布を外そうとするが、エドワードの腕はびくともしない。
「まさか勝負に負けると思っていなかったが、念のために用意しておいてよかった。危険だとわかっている場所におまえを一人で置いて行けるか」
「……っ」
力が抜けていく。
アレクサンドラは立っていられず倒れそうになるところを、エドワードが支えた。
「おまえのためだ」
いやだ、離して。
そう言いたかったが、もう口すら動かなかった。
アレクサンドラは意識を失った。
丘は水平線を百八十度見渡せる絶景の場所だった。周囲に遮蔽物がないので強い日差しが肌を焦がす。立っているだけでじわりと汗がにじんできた。太陽はアレクサンドラのやや後ろにある。
二人は適度に距離を取ってレイピアを構えた。
「いくぞ」
アレクサンドラがレイピアを突き出すも、あっさりとエドワードに払われた。その勢いのまま回転して脇を狙うが受け流される。続けて、アレクサンドラから息をつく間もない攻撃を繰り出すものの、全ていなされてしまった。
アレクサンドラは剣では誰にも負けまいと技を磨いてきた。実際、隊の中では首位だった。しかし、それをいうならばエドワードは海軍全体の中でもトップクラスにいる。
「そこまでか?」
肩で息をするアレクサドラに、涼しい顔でエドワードが剣を向けた。逆光気味のエドワードを、アレクサンドラは眇めて見た。
エドワードは一度もアレクサンドラに斬りかかってきていない。あまりの実力差にアレクサドラは愕然とする。エドワードが強いことはわかっていたが、今まで手加減されてきたようだ。
しかし、この勝負だけは負けてはならない。
アレクサンドラは体勢を整えると、声を発しながら再びエドワードに斬りかかった。エドワードはレイピアを受け止め、絡め取る動きをした。武器を奪って勝負を終わらせようとしているに違いない。
チャンスだ。
アレクサンドラは左手で腰のカトラスを抜き、アレクサンドラの剣を受け止めてガードのなくなったエドワードの腹を斬りつけた。
「っ!」
エドワードはアレクサンドラの思惑に気付き、柄を使ってアレクサンドラを突き飛ばして距離を取った。カトラスは空を斬った。
すぐにアレクサンドラは、抜いたカトラスの剣身をエドワードに向けた。幅広の剣身が鏡のような役割をして、太陽光がエドワードの目を襲った。意表をつかれ、エドワードは一瞬、目を閉じた。
それで十分だった。
アレクサンドラは踏み込んで、剣を握っているエドワードの右肘を押し上げると同時に、右の足の下に自らの左足を滑り込ませ、思い切り持ち上げた。バランスを崩したエドワードが倒れる。
「勝負あり」
エドワードが目を開けた時には、太陽を背にしたアレクサンドラのレイピアが、喉元に押し当てられていた。
「卑怯な手を使うじゃないか」
アレクサンドラが差し伸べてきた手を握って立ち上がったエドワードは、苦々しい表情ではき捨てた。
「こうでもしなきゃ私はエドに勝てないよ。剣を二本使ってはいけないというルールもなかった」
それに、とアレクサンドラは続ける。
「卑怯なくらいでちょうどいい。私は海賊になるんだから」
アレクサンドラはロバートを真似て不敵に笑った。
つもりだった。
しかし上手くいかなかった。エドワードとの別れが近づいているかと思うと、どうしても口角が上がらない。
「帝国には約束通り、私は死んだと伝えて」
「おまえにとって、もう、どうでもいいのか。祖国も、家族も……俺も」
「そんなはずないじゃないか!」
アレクサンドラは魂を振り絞るように叫んだ。
「大切に決まっている」
握った拳が震える。
「でも私は、やっと自分らしく生きられる場所をみつけたんだ。もう戻れない」
栄えた祖国の景色。統率の取れた軍艦。兄が口やかましかったのは愛情だとわかっている。
そして、エドワード。
幼少のころから共にいて、アレクサンドラを見守り、助け、妻にまでしようとしてくれた。大好きで、大切な人。
しかし、もう二度と会うことはないだろう。
「アレックス、泣くな」
エドワードに頬の涙を拭われて、アレクサンドラは自分が泣いていることに気がついた。
「エド……」
「泣く必要はない。おまえは帝国に帰るのだからな」
「なっ」
アレクサンドラは後ろから顔に布を押し付けられた。ツンとした薬品の匂いが鼻の奥を刺激する。
「んんっ」
布を外そうとするが、エドワードの腕はびくともしない。
「まさか勝負に負けると思っていなかったが、念のために用意しておいてよかった。危険だとわかっている場所におまえを一人で置いて行けるか」
「……っ」
力が抜けていく。
アレクサンドラは立っていられず倒れそうになるところを、エドワードが支えた。
「おまえのためだ」
いやだ、離して。
そう言いたかったが、もう口すら動かなかった。
アレクサンドラは意識を失った。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理
SAI
ファンタジー
魔法が当たり前に存在する世界で17歳の美少女ライファは最低ランクの魔力しか持っていない。夢で見たレシピを再現するため、魔女の家で暮らしながら料理を作る日々を過ごしていた。
低い魔力でありながら神からの贈り物とされるスキルを持つが故、国を揺るがす大きな渦に巻き込まれてゆく。
恋愛×料理×調合
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる