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一章 キライをスキになる方法

一章 7

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 なぜ美優はぐいぐいと介入して来るのだろう。節子の担当の看護師だとしてもやりすぎだ。貴之には理解できない。

「肝心の孫にだって都合があるだろ。平日の昼間だぞ」
「お孫さんは就職活動中だそうですから、たぶん、大丈夫だと思うんですよね。節子さんに連絡先を聞いているので、確認してみます」
「連絡先を知ってるのかよ」

 初めから孫に会いに行くつもりだったんじゃねえだろうな、と貴之は訝しんだ。
 それにしても、孫の萌々香が就職活動中なんて初めて知った。電話で節子の話を聞いた時には、自分のことは話していなかったはずだ。

 大学四年だったよな。九月にまだ就活してんのか。難航しているようだな。
 そう貴之は思った。それでは祖母の見舞いどころではないかもしれない。

「氷藤さん、萌々香さんオーケーでした!」
 美優がスマートフォンを振って報告した。やけに古い地蔵のストラップが揺れる。

「マジか」

 貴之は青くなる。
 そこは断ってほしかった。

「名古屋なので、新幹線で一時間半くらいですね。近い近い!」
「名古屋って……。これじゃあ赤字だな」

 貴之は力なく首を振った。

「あら、渋谷にこんな立派な事務所を構えているのに、お金がないんですか? なぁんて意地悪は言いませんよ。初めから、わたしが新幹線代を出すつもりでしたから、安心してください」

 美優がさっそくスマートフォンで新幹線チケットの予約購入をしようとしているので、手で制した。

「……いい。自分の分は自分で払う」
 貴之はため息をついた。

 これは逃げられそうもない。
 SNSで悪い評判を書き込まれないためだ。風評被害対策だ。
 貴之はそう割り切ることにした。

 品川駅から新幹線ののぞみで約一時間半、二人は名古屋駅に到着した。
 事務所に来た時の形相と打って変わって、美優はご機嫌だった。きょろきょろと顔ごと動かすたびに、首の後ろで結わかれた髪がピコピコと跳ねる。

「家と病院の往復ばかりなので、新幹線に乗るのは久しぶりです。ドクターイエロー見れないかなあ。あっ、駅弁食べようっと」

 ドクターイエローとは、「見ると幸せになれる」とも言われる、電気設備などを検査する新幹線電気軌道総合試験車のことだ。運行は十日に一回程度とレアなため、一部で四つ葉のクローバーや流れ星などのような扱いをされている。

「まだ昼飯には早すぎるだろ」
「はい。夜勤明けなので、これは朝ご飯のようなものです」

 そういえば、美優は病院から直接来たのだったか。完徹にしては元気だ。
 ちなみに貴之は夜型のため、普段から朝食は食べない。

「お昼は美味しいところに食べに行きましょう! 名古屋は名物グルメが多くて悩みますね。やっぱりひつまぶしかな、味噌煮込みうどんかな、あんかけスパゲッティもいいかも……」
「どれも東京で食えるだろ」
「発祥地で食べるからいいんですよ!」

 そんなくだらないやりとりをしていたら、あっという間に名古屋に着いた。
 こいつ、完全に観光気分だな……。

 貴之は呆れた。
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