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二章 大切なものほど秘められる

二章 14

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「節子さんへの手紙を読んで、目を疑いました。そして、この字に再会できたことに興奮しました。わたしは、あの手紙に救われましたから」

 両親を失い、親戚に引き取られた美優は深く沈んだ。生きているのもつらかった。
 前向きになろうと一歩踏み出したときにも、世間は冷たかった。

 世界は変わってしまった。
 すべてが敵になった気がした。

 美優はすさみ、外れた道を進みかけていた。

 そんなある日、美優の部屋の机に、雑誌が広げて置いてあった。美優を引き取った伯父の妻が置いたのだろう。「勝手に部屋に入るなって言ってるのに」と美優は舌打ちをした。

 しかし次の瞬間、記事に釘付けになった。
 五ページに渡る雉山トンネル炎上事故の特集記事だったからだ。

 特に、他界した両親に宛てた遺族の手紙が印象的だった。その彼は、美優と同じ状況で、同じように絶望していた。
 しかし彼は、親の死に意味をつけるのは自分なのだと、強く生きていこうとしていた。

「わたしが今のままじゃ、お父さんとお母さんが無駄死にになっちゃう」
 美優はつぶやいた。

 反対に、美優の行動次第では、いくらでも「意味」を変えられるのだ。
 両親の死があったからこそ、今の自分があるのだと胸を張りたい。そんな生き方をしたい。

 親を生き返らせることができないのなら、自分が親のためにできることは、それが唯一で最大のことだ。
 同じ境遇の「彼」も、きっとそうしているはずだ。

 そう考えるようになって、美優は今までの生活を一変させた。
 荒れた生活を変えるために、まずは通っている高校を変えた。

 聡明だった父ならば、優しかった母ならば、どうするのだろうと常に考えて行動した。
 そしていつしか、人の役に立つ仕事に就きたいと、美優は看護師を目指すことにしたのだ。

「ミュウが……荒れていたのか?」

 話を聞いた貴之はマジマジと美優を見る。こんなに小動物のような見た目なのに、まったく想像ができない。

「わたしは絵に描いたようなヤンキーでしたよ。写真でも撮っておけばよかったですね」
 美優は笑った。

「ああ、見たかったな」
 同意する貴之は「なるほど、腑に落ちた」とも思った。
 よく威圧感があると言われる貴之に、美優がまったく動じなかった理由は、これだったのかもしれない。

「だからわたしは、雑誌に載っていた手紙に救われたんです。貴之さんのメッセージを読んでいなかったら、今のわたしはありません」

 その記事からは、書き手は三つ年上の男性だという情報しかなかった。
 そしてわかっていることは、あの事故で美優と同じ境遇になったのは、彼一人だということだ。

 事故では七人が亡くなり、そこに二組の夫婦が含まれていた。すなわち、美優と彼の両親だ。

 美優の心にはずっと、両親のほかに、「彼」も存在していた。
 だからこそ、節子の手紙を見て動揺した。

 彼に会えるかもしれないという可能性に気づいたからだ。
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