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三章 ナポリタンとワンピースと文字

三章 16

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 緊張感がほぐれた途端に美優が騒ぎ出したので、とにかく穏便に志津恵の両親を送り出した。

「やれやれ、コーヒーでも飲むか。ミュウもいるか?」
「ミルクとお砂糖、いっぱい入れてください!」
 美優は不貞腐れている。

 貴之は苦笑した。美優は下手をすると高校生くらいに見えるので、仕事のパートナーというよりも、兄妹といったほうがしっくりきそうだ。あの夫婦が間違えるのも無理はない。
 美優はしばらく機嫌をそこねていたが、ついでに生クリームホイップを乗せてやった甘いカフェラテを飲んでいるうちに落ち着いてきたようだ。

「それにしても、代筆仕事は時間がかかるようになったな。ヒアリングは会うようになったし、まさかビデオレターを作成することになるとは思わなかった。押しかけて来るクレーム対応もあるしな」

 貴之はソファーに深くもたれて、ホットコーヒーで温まった息とともに小言を零した。不平不満というよりも、事実の羅列のつもりだ。

「急に押し掛けるなんて、本当に迷惑ですよね」
 美優がうんうんと同意する。

 いや、最後のはおまえに対する当て擦りだったんだが。
 そう思いながら、貴之は足を組み替えて苦笑する。

「これじゃあ副業じゃなくて、ボランティアに近くなってきたな」
「それを言ったら、わたしなんて完全にボランティアじゃないですか。一銭ももらっていませんから」

 言われてみれば、確かにそうだ。

「ミュウが呼んでくれと頼んできたんだろ」
「心配だったんですよ。貴之さんはひねてる感じで、表情も冷たかったし、代筆屋さんとして大丈夫かなって」
「悪かったな」
 貴之は眉をしかめた。確かに、少々ドライな対応だったという自覚はある。

「それは表向きの口実ですけど……」
「なんだって?」
「いえ、なんでもありませんっ」

 美優の声が小さくて聞き返したのだが、美優は慌てたように顔の前で手を振った。独り言だったようだ。

「貴之さんと初めて会ってから、三か月以上経ちますよね。その間に、貴之さんの印象は随分変わりました。柔らかくなったし、ちゃんと笑うようになりました」
「ちゃんと?」
「はい。貴之さんは初め、作り笑いばかりだったじゃないですか」

 そうだろうか。
 指摘が正しいとして、親しくもない者を相手にしていれば、誰でもそうなのではないか。
 そう考えて、貴之は腹落ちする。
 貴之は単純に、美優を他人だと思わなくなったのだ。

「それに、相手に寄り添った、とても丁寧な仕事ぶりになりました。依頼されるかたたちは、安心して貴之さんに代筆を任せていると思います」
 美優は感慨深そうに言う。

「じゃあ、もうミュウを呼ばなくてもいいな」
「と思いましたがまだ心配なので可能な限りついて行きます!」

 美優は早口にまくしたてた。
 結局、来るのか。

 ならば、美優の待遇を考えなければなるまい。費用対効果を重んじる貴之としては、いつまでもタダ働きをさせては流儀に反する。
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