Oil & Water~サークル合宿の悲劇~

じゅん

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龍之介 合宿一日目 昼

龍之介 合宿一日目 昼 その2

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「ずるいよ、仲間だと思っていたのに」
 桜子は頬を膨らませて龍之介の肩を叩く。
「それより桜子、さっきの話はなんだ」
「さっきの話って?」
「この合宿が最後の思い出になる、みたいなこと言ってただろ」
「あれは……」
「あれれ、仲がいいじゃない」
 蒼一に呼ばれて後部座席に戻っていた奈月が、再びシートの間に身体を差し込んできた。ニヤニヤとしながら龍之介と桜子を交互に見る。
「奈月ったら、私たちはそんなんじゃないよ。ちょっと秘密を共有しているだけ。ね、龍之介くん」
「そうだな」
「秘密ってなに? 気になる!」
「奈月、吊り橋が見えてきたよ」
 桜子はフロントガラスの奥を指さした。あからさまな話題そらしだったが、奈月はつられて前方を見た。
舗装がなくなると、狭かった道が開けて谷川にかかる吊り橋が現れた。
「うわ……思っていたよりもえげつない」
 奈月は顔をひきつらせて呟いた。
二台並んで車を停める。車を降りると渓流の激しい水音と、それに負けない大音量のセミの声に圧倒された。
「うるさいネ! でもそれがいいネ!」
 キャロルは水音でリズムを取りながら、車のトランクから荷物をおろそうと準備していた。マジックは使用する道具が多いので、みんな数週間ほど海外旅行にでも行くような大きなキャリーバッグを車に積んでいた。
「キャロル、わたしがやりますよ」
 クリスは軽々とキャリーバッグを持ち上げてトランクからおろした。さすがにスマートだ。
クリスが荷物を次々とおろしているのを見ていると、龍之介もやらなければいけない気になってくる。龍之介は率先して奉仕をするタイプではないのだが、クリスと同じようにトランクから荷をおろすことにした。
「龍之介くん、ありがとう」
「超重いから助かる!」
桜子や奈月に感謝されて、龍之介はくすぐったい気分になった。
このサークルの同期は、かなり仲がいいと思う。
 出会って数か月のサークルメンバーがファーストネームで呼び合っているのは、クリスとキャロルの影響が大きい。名前を呼び合うことで、仲が急速に縮まったような気がする。彼らがいなければ、奇術愛好会は同学年だけで合宿をするほど仲良くなっていなかっただろう。
「どうしよう、どうしよう。あたし、高い所が苦手なんだよう」
 奈月は顔をくしゃりとさせて、キャロルに抱きつきながら渓谷を覗いては「ひゃあ高い」と首を引っ込めている。
「荷物を持っていてやるから、まずお前から渡れ」
「はあ? なんでそんなこと蒼一に言われないといけないわけ?」
 蒼一にキャリーバッグを取り上げられた奈月は、蒼一にかみついた。
「それとも一番最後に渡るか? お前だけ渡れなくて一人取り残されるかもしれないぞ」
「……それは、嫌だ」
 奈月はしぶしぶと吊り橋に向かった。
 吊り橋は十メートルほどあり、蔦が絡み合って太いロープのようになっている。足元は木の板が並び、数センチの隙間が空いていた。子供の足ならすっぽりと落ちるだろう。もちろん胴体が引っかかって川に転落することはないが、相当の恐怖に違いない。
 橋から川までは五十メートルはあるだろうか、落ちれば命がない。
「うう、怖いよう」
 奈月は初めの一歩が踏み出せない。
「奈月、がんばるネ! 風がない今がチャンスだヨ」
 キャロルが励ました。
 人一人通るのがやっとな細い橋で、少しの刺激でもゆらゆらと揺れる。絡み合っている蔦はところどころ切れているように見えて頼りないし、足場となる木の板には苔が生えていて、腐り落ちないか心配だ。
「強度を確かめるためにも、わたしが渡ってみましょう。この中で一番重いはずですから。とはいえ、全員一緒に橋を渡っても問題ないと思いますよ」
 なかなか踏み出せない奈月を見かねてか、クリスは荷物を持って吊り橋を歩いていく。荷物を合わせると百五十キロは軽く超えているだろう。恐ろしいほど揺れる吊り橋に奈月は青ざめたが、無事に渡りきったクリスを見て力をもらったようだ。蔦の橋は頼りないように見えて案外丈夫なようだ。
「行きます」
 奈月は両手でしっかりと手すりにつかまり、ゆっくりと歩を進める。思いきり腰が引けているが、なりふり構っていはいられないのだろう。
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