Oil & Water~サークル合宿の悲劇~

じゅん

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陽菜乃 合宿二日目 昼

陽菜乃 合宿二日目 昼 その3

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「問題は、キャロルはいつこの部屋から消えたのか、ですね」
 クリスの言葉にうなずきながら、陽菜乃は血のついていない椅子に座った。床には凶器と思われる包丁が転がったままだ。キャロルや彼女の荷物はなくなっているというのに、犯人はこれを始末しなくてよかったのだろうか、と陽菜乃は思った。
「悲鳴が聞こえてみんなが駆け付けたのは、寝る前の時刻だった」
「日付が変わる前後あたりだ」
 龍之介が補足した。
「私と龍之介が朝この部屋に来たのは、七時くらいかな?」
「そうだな」
 その間にキャロルを動かしたことになる。
「みんな寝静まっている時間帯だ。何をしていたか聞いたところで、寝ていたと答えるだろう。特にあんなことがあった夜だ、戸締りを厳重にして、なるべく廊下にも出ないようにしていたんじゃないか」
 クリスはうなずいている。もちろん陽菜乃もうなずいた。
「外部犯の可能性は、ないのかな」
 陽菜乃はすがるような気持ちで言ったのだが「ないだろうな」と龍之介はすげなく答えた。
 何度この部屋に来ても、芳しい成果がでない。陽菜乃はため息をついた。
「俺は、結構本気で考えているんだが」
 龍之介がベランダから戻ってきた。窓の鍵をかけて、カーテンを閉める。
「昭和初期からあるような古い屋敷だ。隠し部屋のひとつやふたつ、あると思うんだ」
 龍之介はこんこんと壁を叩きながら陽菜乃を見た。その瞳に昏い闇が映り込んだ気がして、陽菜乃はドキリとした。
「……そんなのがあれば、とっくに見つかってるでしょ」
「みんなが探していたのは人で、隠し部屋じゃなかった。可能性は捨てきれない」
「確かにね」
 そう言って陽菜乃は龍之介から視線を外した。
「……あれ」
 陽菜乃は部屋の中で違和感を覚えた。
 なにかが、今朝と違う気がする。
 どこに引っかかったのだろう。
「陽菜乃、どうかしましたか?」
 乾いているとはいえ三人は血溜まり跡を避けていて、陽菜乃は中央付近の机の前、龍之介は窓辺、クリスは入り口に近いベッドとクローゼットの傍に立っていた。
 中央付近血溜まりの傍にベッドがあり、ベッドや壁には血しぶきのようなものが付着している。少し離れた机にも血が付着していた。
「枕かな」
 ベッドの血の軌道が途切れいていたのが不自然に感じたのだ。既に誰がどう触ったのかわからないので、配置は初期から変わっているだろう。白い枕についた血が直線で切れているのは、枕に掛け布団がかかっていたからだろうか。
 陽菜乃はベッドに近づいた。
「……ちょっと来て」
 陽菜乃は二人を呼んだ。
「紙がある」
 血が途切れているように見えたのは、枕の上に白い紙が乗せられていたからだ。よくあるA4サイズのコピー用紙のようだ。白い枕にかけ布団がかかっていて、布団から紙の一部がはみ出すように枕の上にあったので、同色で気付きにくかった。
「こんな紙、なかったよね」
「なかった。布団をめくって何もないことを確認しているからな」
 龍之介が同意した。
 誰も紙に手を伸ばさなかった。
 恐る恐る、陽菜乃はコピー用紙の角を持って布団からゆっくり引き出した。文字が見え始めた。縦書きの大きなフォントで、こう書かれていた。

 おまえのせいで
  今夜も一人 犠牲になる

「……っ!」 
 陽菜乃は紙を離して手を引いた。
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