Oil & Water~サークル合宿の悲劇~

じゅん

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陽菜乃 合宿二日目 昼

陽菜乃 合宿二日目 昼 その4

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「……っ!」 
 陽菜乃は紙を離して手を引いた。
「おまえ、と書かれているということは、誰か特定の人物に向けたメッセージでしょうか」
「しかも、この文面は恐らく」
 龍之介は言葉を区切った。
「復讐だろう」
 思わず陽菜乃は後じさり、すぐ後ろにいたクリスにぶつかった。
「大丈夫ですか、陽菜乃」
「ごめん、びっくりして。誰がこんなことを……」
「さあな。でもこれではっきりしたことがある」
 龍之介は顔の高さまで紙を持ち上げ、二人に視線を流した。
「キャロルは事故でも自殺でもない。誰かの復讐のために、計画的に殺されたんだ」
「計画的に?」
「そうだろう。この別荘にはパソコンもプリンターもない。誰かが合宿前に準備をして持ち込んだんだ」
「そうか」
 言われてみれば当たり前だった。
また陽菜乃の頭の回転が鈍くなっている。
「そして、その復讐者は今夜、もう一人殺そうとしている」
「誰が、誰を……」
 陽菜乃は自分の身体を両腕で抱きしめるようにして身を震わせた。
「みんなに伝えなきゃ……」
 窓の外には、白い煙が上がり始めていた。
「狼煙が上がったみたいだね。部屋に呼んで火から目を離すのは危ないし、かといって火を消すのはもったいないから、私たちが外に出よう」
「そうしようか」
 外はあいにくの曇り空で、狼煙の煙があまり目立たない。しかも風があり、白い狼煙は生まれるとすぐに広がって薄れていく。
「なんや、推理に行き詰って出てきたんか」
 和樹がクリスに駆け寄ってきた。茶色がかった髪がふわふわとしていることもあり、その姿は主人に駆け寄るパピヨンのように見えた。
「煙の量は十分ですね。こんなにしっかりとした白い煙が上がるのですね」
 クリスは感心したように煙を眺めた。
「これで風がやめばバッチリなんやけど」
 和樹は腰に手を当てて、枝が積み上げられた火元を見た。枯れ枝ばかりかと思っていたが、青々とした緑がついた枝もかなりある。
「夏やから、そこまで枯れ枝が落ちてへんかったんや。少々木の枝を折ることにしたんやけど、その木はあかんとかあの木にせえとか、蒼一がうるさくてな。でかいんやから自分でやればええのに、口は出すけど手は出さへん」
 和樹は不満そうに、火の近くにいる蒼一に視線を向けた。
「彼なりに、燃えやすい木を選んでいたのでしょう」
「木なんて、なんでも燃えるやろ」
「いや、結構違うよ」
 詰まれた枝を見ながら龍之介が言った。
「葉や幹に含まれる水分が多いと燃えにくい。だからイチョウやサンゴジュ、ユズリハなんかは防火樹として植えられるんだ。逆に燃えやすいのは、ヒノキやマツ、スギなどだ。樹脂が多いからよく燃えて煙も上がる」
「へえ、そうなんや。ってそれ、蒼一がオレに説明するべきやろう」
「億劫がるから、あいつは誤解されやすい」
「自業自得や。余計なことはよう喋るのにな」
 そう言いながら、四人で狼煙の上がる火の元に近づいた。
「真っ白でいい煙が出てるのに、風が厄介だな」
 龍之介が枝をくべている蒼一に声をかけた。
「風に影響を受けない方法もある。山で遭難した登山者が、木を切り倒して大きなSOSをつくり、発見された事例があるんだ。だが残念ながら、俺たちには木を切り倒す道具がない」
 蒼一はそう言って眼鏡の位置を直した。
「確実なのは、この屋敷か周辺の林を燃やすことだな。必ず消防が来るだろう」
「やめや蒼一。恐ろしいこと言うな」
「火の粉が飛んで山に火をつけてしまったら、燃え広がってふもとの町まで焼いてしまうかもしれませんよ」
 クリスが諌め、和樹が怯えた様子なのに対し、
「でも、最終手段があると思えば、ちょっと気が楽かも」
 奈月は投げやりな様子でそう言った。大分疲れているようだ。
そんな奈月に、あの紙を見せていいものか迷った。陽菜乃は隣りにいる龍之介を見上げる。
奈月の気持ちはよくわかる。陽菜乃だって、今すぐここを出て家に帰りたい。
陽菜乃の視線に気づいた龍之介は、小さく首を振ってから、軽く二つ折りにして持っていた紙を広げた。
やはり見せるようだ。
「みんな、これを見てくれ」
 狼煙グループのメンバーが紙に注目する。
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