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陽菜乃 合宿二日目 昼
陽菜乃 合宿二日目 昼 その7
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陽菜乃は部屋を出た。
一階の廊下には誰の姿も見えない。相変わらず静まり返っている。広いエントランスに出て中央階段を上り、一番説得が大変そうな奈月の部屋に向かう。
奈月の部屋をノックすると、小さな声で「誰?」と聞こえた。ドアのすぐ近くに奈月がいるのだろう。
「陽菜乃だよ」
「誰も来ないでって言ったでしょ。明日まで放っておいて」
奈月の声は苛立っていた。ドアは開けないつもりらしい。
「話を聞いてほしいの」
「陽菜乃は今、一人?」
「そうだよ」
「……陽菜乃を疑ってるわけじゃないけど、誰かもう一人連れて来てくれたらドアを開ける」
「わかった」
奈月は慎重になっている。籠城はありかも知れないと思うが、個室にトイレがないので、もし部屋を出た瞬間を狙われたらひとたまりもないだろう。
陽菜乃だって今、一人で行動するのは怖かった。しかし、ここでへこたれてはいけない。
「どこよりも仲のいいサークルだと思っていたのに、どうしてこんなことに……」
いや、心当たりはある。みんなそれがわかっていて、あえて口にしていないだけなのだ。
「誰に声をかけよう」
何人か頭に浮かんだが、陽菜乃はクリスの部屋に向かった。この廊下の反対側にある部屋だ。人の気配がないか、探りながらゆっくりと歩く。
クリスの部屋をノックするが、返事はなかった。部屋を出ているのか寝ているのか。
クリスを諦め、陽菜乃はその隣りの龍之介を頼ることにした。
「龍之介、いる?」
ノックをして、部屋の主に声をかけた。部屋の中から微かに音がする。カチリと鍵の開く音がしてドアが開いた。
「どうした」
龍之介は少し癖のある黒髪をかきあげる。眠っていたのかもしれない。昼間とは別の、部屋着代わりに使っているジャージに着替えていた。
「寝てた?」
「横になって本を読んでいただけだ。まだ九時にもなっていないんじゃ眠気もおきない」
その割には目の下にくまができているようだ。陽菜乃と同じように、疲れていても眠れないのかもしれない。
「私やっぱり、みんな一緒にいた方がいいと思うの。まず奈月を説得しようと思ったんだけど、私ひとりじゃドアを開けてくれなくて」
「なるほどな」
龍之介は部屋から出てきて、ドアに鍵をかけた。
「つきあうよ」
こうして再び、二人で奈月の部屋に向かった。
「奈月、龍之介を連れてきた」
陽菜乃は奈月の部屋をノックする。
「龍之介、いるの?」
中から奈月の声がした。
「ああ。開けてくれ」
やっと奈月が部屋のドアを開けた。奈月はおびえた表情だ。いつもはつらつとして元気な姿がみじんもない。根本をくるりと巻いてフェミニンに仕上げている髪も、珍しく乱れている。
「手短にして。あたし、キャロルみたいになりたくない」
「大丈夫、そうならないために、みんなで一緒にいよう。一人でいる方が危ないよ」
「そんなことない。一人で部屋にいる方が安全に決まってるよ。現にこの数時間、なにも起こらなかった」
あのメッセージどおりだとしたら「今夜」犠牲者が出るのだから、昼間はなにも起こらなくて当然だ。
……という話を奈月にしても、通用しないだろう。
「どちらにしても、さっきはうやむやのまま解散しちゃったから、一回みんなで集まって話し合おうよ。奈月が来てくれたら、みんな集まると思うよ」
「……そうかな」
奈月は戸惑いながらも、一歩廊下に踏み出した。
そのとき。
「……っ!」
奈月は息をのんで、動きをとめた。
一階の廊下には誰の姿も見えない。相変わらず静まり返っている。広いエントランスに出て中央階段を上り、一番説得が大変そうな奈月の部屋に向かう。
奈月の部屋をノックすると、小さな声で「誰?」と聞こえた。ドアのすぐ近くに奈月がいるのだろう。
「陽菜乃だよ」
「誰も来ないでって言ったでしょ。明日まで放っておいて」
奈月の声は苛立っていた。ドアは開けないつもりらしい。
「話を聞いてほしいの」
「陽菜乃は今、一人?」
「そうだよ」
「……陽菜乃を疑ってるわけじゃないけど、誰かもう一人連れて来てくれたらドアを開ける」
「わかった」
奈月は慎重になっている。籠城はありかも知れないと思うが、個室にトイレがないので、もし部屋を出た瞬間を狙われたらひとたまりもないだろう。
陽菜乃だって今、一人で行動するのは怖かった。しかし、ここでへこたれてはいけない。
「どこよりも仲のいいサークルだと思っていたのに、どうしてこんなことに……」
いや、心当たりはある。みんなそれがわかっていて、あえて口にしていないだけなのだ。
「誰に声をかけよう」
何人か頭に浮かんだが、陽菜乃はクリスの部屋に向かった。この廊下の反対側にある部屋だ。人の気配がないか、探りながらゆっくりと歩く。
クリスの部屋をノックするが、返事はなかった。部屋を出ているのか寝ているのか。
クリスを諦め、陽菜乃はその隣りの龍之介を頼ることにした。
「龍之介、いる?」
ノックをして、部屋の主に声をかけた。部屋の中から微かに音がする。カチリと鍵の開く音がしてドアが開いた。
「どうした」
龍之介は少し癖のある黒髪をかきあげる。眠っていたのかもしれない。昼間とは別の、部屋着代わりに使っているジャージに着替えていた。
「寝てた?」
「横になって本を読んでいただけだ。まだ九時にもなっていないんじゃ眠気もおきない」
その割には目の下にくまができているようだ。陽菜乃と同じように、疲れていても眠れないのかもしれない。
「私やっぱり、みんな一緒にいた方がいいと思うの。まず奈月を説得しようと思ったんだけど、私ひとりじゃドアを開けてくれなくて」
「なるほどな」
龍之介は部屋から出てきて、ドアに鍵をかけた。
「つきあうよ」
こうして再び、二人で奈月の部屋に向かった。
「奈月、龍之介を連れてきた」
陽菜乃は奈月の部屋をノックする。
「龍之介、いるの?」
中から奈月の声がした。
「ああ。開けてくれ」
やっと奈月が部屋のドアを開けた。奈月はおびえた表情だ。いつもはつらつとして元気な姿がみじんもない。根本をくるりと巻いてフェミニンに仕上げている髪も、珍しく乱れている。
「手短にして。あたし、キャロルみたいになりたくない」
「大丈夫、そうならないために、みんなで一緒にいよう。一人でいる方が危ないよ」
「そんなことない。一人で部屋にいる方が安全に決まってるよ。現にこの数時間、なにも起こらなかった」
あのメッセージどおりだとしたら「今夜」犠牲者が出るのだから、昼間はなにも起こらなくて当然だ。
……という話を奈月にしても、通用しないだろう。
「どちらにしても、さっきはうやむやのまま解散しちゃったから、一回みんなで集まって話し合おうよ。奈月が来てくれたら、みんな集まると思うよ」
「……そうかな」
奈月は戸惑いながらも、一歩廊下に踏み出した。
そのとき。
「……っ!」
奈月は息をのんで、動きをとめた。
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