Oil & Water~サークル合宿の悲劇~

じゅん

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陽菜乃 合宿二日目 昼

陽菜乃 合宿二日目 昼 その10

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 落ち着いてきた和樹の肩を抱いて龍之介たちがこちらに向かって来た。陽菜乃と蒼一は道を開ける。
「俺はもう少し和樹の傍にいるよ。二人は部屋に戻って休んでくれ。まだなにが起こるかわからないから、戸締りはしっかりしておけよ」
 そう言った龍之介は和樹を支えながら、和樹の部屋に入っていった。和樹の部屋のドアが開いている間だけ、ロック調の音楽が聞こえてきた。
「下の部屋まで送ってやろうか」
「結構よ」
 陽菜乃はつい蒼一を拒んでしまったが、本当は一人では心細かった。大した距離ではないが、あんな光景を見た後だ。
 この強がってしまう癖をどうにかしたいと思っていた。可愛げがないと言われるのは、背が高いことだけが原因ではないという自覚もあった。
「それなら、ついていってやる」
「それならって?」
「俺は人の嫌がる姿を見るのが好きなんだ」
「……天の邪鬼ね」
 蒼一は眼鏡を押し上げながら口角を上げた。あんなことがあったのに、なんとマイペースな男だろう。
 不安や恐怖や、様々なもので押しつぶされそうになっている陽菜乃の胸が、少しだけ軽くなった気がした。
「蒼一は、もっと奈月に優しくしてあげた方がいいと思うよ」
 送ってくれるのが嬉しくて、少しアドバイスをする気になった。
「なぜ?」
「なぜって、蒼一は奈月が嫌いなの?」
 てっきり、好きだから構っているのかと思っていた。
「まさか。俺は奈月が怒ったり困ったり怯えたり泣いたりするリアクションを気に入っている」
「なんと迷惑な……」
 思わず口からこぼれてしまった。
「本格的に嫌われたら避けられて、そういう姿が見られなくなるからね」
 既に手遅れかもしれないが。
「俺は奈月に嫌われているのか」
「えっ」
 あれだけあからさまな態度を取られているのに、気づいていなかったのか。頭は切れるタイプだと思うが、人の感情にはとことん鈍いらしい。
「優しくしろと言われてもな」
 蒼一は尖り気味の顎に手を当てて、思案するように切れ長の目を伏せて視線を落とした。容姿が整っているだけに、その姿はやけに色気があった。まるでかぐや姫に無理難題を出されて悩む求婚者のようだが、こちらの課題は園児の標語にでもなっていそうな、ごく簡単なものだ。
 話しているうちに、陽菜乃の部屋の前に到着した。
「送ってくれてありがとう。なんか、頑張ってね」
 二人はおやすみと言い合って別れた。
 蒼一と話して気が紛れたかと思ったが、ベッドに入っても寝付けなかった。
「昨日も殆ど眠れなかったのにな」
 目を閉じれば、さきほどのクリスの姿が、部屋の異臭と共に鮮明に思い出される。
 それにクリスの部屋から出てきたと思われる、奈月が見た白い人影。それは今朝、陽菜乃が見たものと同じだろう。
 だとしたら……。
 だとしたら、どうしたらいいのか。
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