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告白 一
告白 一 その2
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この日をきっかけに、二人は急接近した。
共通点は、絶対に叶うはずがない人を思っていることだ。
いつしか、なんでも話せる間柄になっていた。
桜子は案外苦労人だった。
桜子はそもそも裕福な育ちで、高級住宅街に住んでいた。近所に有馬陽菜乃の家もあって、幼なじみの関係だ。
しかし桜子が高校生の頃、父親の会社が倒産する。私立の高校こそそのまま卒業したが、家を売却して賃貸の安いアパートに引っ越した。
桜子は高校時代もアルバイトをしていたが、高校を卒業してから時給のいいキャバクラで働き始めた。もちろん酒は飲まず、早い時間で仕事を終えるのだが、それでも容姿端麗な桜子は重宝されたようだ。その話は龍之介しか知らなかった。桜子は両親にも、親友の陽菜乃にも隠していた。バイト代が入ると、そのまま親に渡していた。
控えめではかなげな印象からは程遠い、逞しさと強さ、そして暗さも併せ持っていて、龍之介はそんなところに惹かれていった。
桜子も同じように思っていたようで、「お互いに一番は別の人だけど、二番目に相思相愛だね」と言い合うようになっていた。龍之介と桜子の関係は、特にサークルメンバーには隠していた。
そして大学一年の夏、サークルの合宿で、龍之介は桜子に告白をする決心をした。そのためのマジックも用意しておいた。
一日目の夜、食事を済ませた龍之介は、立ち上がって食堂を出る際に桜子の肩に手をのせた。その時に、「この後、部屋に来てほしい」と書いたメモを渡した。
食事後、二十時に始まるマジックショーまでの間はフリータイムだ。しばらくして、桜子は龍之介の部屋に来た。
「珍しいね。みんながいるときに呼び出すなんて」
桜子は龍之介に促されてベッドに腰掛けた。
「みんなでマジック披露会をする前に、桜子だけに見せたいマジックがある」
「えっ、なに?」
桜子は背筋を伸ばして、瞳を輝かせた。
「一瞬だから、よく見てて」
龍之介は桜子の前に立ち、煙草を取り出して一本くわえた。
「あっ、未成年なのにいけないんだあ。クリスに言いつけちゃお。クリスなら、たとえ無害な電子タバコだとしても止めると思うな」
「吹かすだけだから内緒にしておいてよ。あと、黙って見とけって」
「ふふ、ごめんごめん」
桜子は改めて真面目な表情を作って龍之介を見つめた。
龍之介は煙草に火をつけた。口を丸く開いて、輪っかの煙を吐き出す。
「綺麗な輪っか」
龍之介は輪を三つ作ると、三つ目の輪を右手で掴んだ。
「桜子に、白い輪をプレゼント」
龍之介は膝まづいて、煙を掴んだ手を桜子に差し出した。その手を開くと、手の平にシルバーリングが乗っていた。
「すごい、煙が指輪に変わった! ……え、指輪をくれるの?」
「俺たち、つきあわないか? 俺は結婚前提のつもりなんだけど。重いかな」
桜子は何度も瞬きをした。長い睫毛で風が起こりそうだ。
「嫌か?」
いつまでも黙ったままの桜子に、痺れを切らして龍之介が声をかけた。
「嫌じゃないよ」
桜子は両手で指輪ごと龍之介の手を包んだ。
「でも私、性格悪いよ」
「悪いとは思わないけど、心配している理由は知ってる。かまわないよ」
「龍之介は一生、私の一番にならないかもしれない」
「それは俺も同じだ」
「それに……」
桜子の瞳が潤んだ。
「私、龍之介と一緒になったら、幸せになっちゃうよ」
「いいじゃないか」
「いいのかな。私、幸せになる資格はあるかな」
「バカだな。いいに決まってるだろ」
龍之介も桜子の隣りに腰かけて抱き寄せた。細くて柔らかい体が密着する。腕をサラサラとした長い黒髪がくすぐった。
「ありがとう。大事にするね。薬指につけちゃっていいの?」
「もちろん。そんなに高い指輪じゃないけど」
二人は身体を離す。桜子は左手薬指につけたシルバーリングを掲げて微笑んだ。華奢で長い指に細めの指輪がよく似合っている。
共通点は、絶対に叶うはずがない人を思っていることだ。
いつしか、なんでも話せる間柄になっていた。
桜子は案外苦労人だった。
桜子はそもそも裕福な育ちで、高級住宅街に住んでいた。近所に有馬陽菜乃の家もあって、幼なじみの関係だ。
しかし桜子が高校生の頃、父親の会社が倒産する。私立の高校こそそのまま卒業したが、家を売却して賃貸の安いアパートに引っ越した。
桜子は高校時代もアルバイトをしていたが、高校を卒業してから時給のいいキャバクラで働き始めた。もちろん酒は飲まず、早い時間で仕事を終えるのだが、それでも容姿端麗な桜子は重宝されたようだ。その話は龍之介しか知らなかった。桜子は両親にも、親友の陽菜乃にも隠していた。バイト代が入ると、そのまま親に渡していた。
控えめではかなげな印象からは程遠い、逞しさと強さ、そして暗さも併せ持っていて、龍之介はそんなところに惹かれていった。
桜子も同じように思っていたようで、「お互いに一番は別の人だけど、二番目に相思相愛だね」と言い合うようになっていた。龍之介と桜子の関係は、特にサークルメンバーには隠していた。
そして大学一年の夏、サークルの合宿で、龍之介は桜子に告白をする決心をした。そのためのマジックも用意しておいた。
一日目の夜、食事を済ませた龍之介は、立ち上がって食堂を出る際に桜子の肩に手をのせた。その時に、「この後、部屋に来てほしい」と書いたメモを渡した。
食事後、二十時に始まるマジックショーまでの間はフリータイムだ。しばらくして、桜子は龍之介の部屋に来た。
「珍しいね。みんながいるときに呼び出すなんて」
桜子は龍之介に促されてベッドに腰掛けた。
「みんなでマジック披露会をする前に、桜子だけに見せたいマジックがある」
「えっ、なに?」
桜子は背筋を伸ばして、瞳を輝かせた。
「一瞬だから、よく見てて」
龍之介は桜子の前に立ち、煙草を取り出して一本くわえた。
「あっ、未成年なのにいけないんだあ。クリスに言いつけちゃお。クリスなら、たとえ無害な電子タバコだとしても止めると思うな」
「吹かすだけだから内緒にしておいてよ。あと、黙って見とけって」
「ふふ、ごめんごめん」
桜子は改めて真面目な表情を作って龍之介を見つめた。
龍之介は煙草に火をつけた。口を丸く開いて、輪っかの煙を吐き出す。
「綺麗な輪っか」
龍之介は輪を三つ作ると、三つ目の輪を右手で掴んだ。
「桜子に、白い輪をプレゼント」
龍之介は膝まづいて、煙を掴んだ手を桜子に差し出した。その手を開くと、手の平にシルバーリングが乗っていた。
「すごい、煙が指輪に変わった! ……え、指輪をくれるの?」
「俺たち、つきあわないか? 俺は結婚前提のつもりなんだけど。重いかな」
桜子は何度も瞬きをした。長い睫毛で風が起こりそうだ。
「嫌か?」
いつまでも黙ったままの桜子に、痺れを切らして龍之介が声をかけた。
「嫌じゃないよ」
桜子は両手で指輪ごと龍之介の手を包んだ。
「でも私、性格悪いよ」
「悪いとは思わないけど、心配している理由は知ってる。かまわないよ」
「龍之介は一生、私の一番にならないかもしれない」
「それは俺も同じだ」
「それに……」
桜子の瞳が潤んだ。
「私、龍之介と一緒になったら、幸せになっちゃうよ」
「いいじゃないか」
「いいのかな。私、幸せになる資格はあるかな」
「バカだな。いいに決まってるだろ」
龍之介も桜子の隣りに腰かけて抱き寄せた。細くて柔らかい体が密着する。腕をサラサラとした長い黒髪がくすぐった。
「ありがとう。大事にするね。薬指につけちゃっていいの?」
「もちろん。そんなに高い指輪じゃないけど」
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