Oil & Water~サークル合宿の悲劇~

じゅん

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告白 一

告白 一 その3

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「嬉しい。すごく嬉しい」
「よかった。受け取ってもらえないかと思った」
 龍之介はほっとした。さっきは心臓に悪い間だった。
「龍之介のは? お揃いじゃないの?」
「サイズ直してもらってる」
「そっか。それが終わったら、お揃いでつけちゃう?」
「そうだな」
「ペアリングか。楽しみだな」
 桜子は龍之介の肩に小さな頭をのせた。あまりにも軽くてびっくりした。
「車で言ってた、この合宿が最後の思い出になる、ってのは、何だったんだよ」
「覚えてたか」
「当然だろ」
 桜子は複雑な笑みを浮かべた。
「この合宿が終わったら、学校を辞めて、どこか遠いところに行こうかと思っていたの。そのためにお金も準備した。バイト代をお母さんに渡さないで、自分のために貯めたの。だって、渡した先から使っちゃって、意味ないんだもん。そのせいで、お母さんを怒らせて勘当状態なんだけどね。少し前から家も出てたんだ」
「学校を辞めたくなるほど、つらかったのか」
 桜子の思い人のことだ。
「私の恋は、人を不幸にしかしないからね。自分も含めて」
 でも、と桜子は龍之介の腕に、ほっそりとした腕をからめた。
「龍之介がいてくれるなら、やり直せる気がする」
「じゃあ、どこにも行かないな?」
「うん。龍之介の彼女になったから」
「そっか。これでやっと、ゆっくり眠れる」
 桜子は心底安堵した表情の龍之介を見上げた。
「寝てなかったの?」
「プロポーズだぞ、緊張するだろ。今日がピーク。運転中も静かだったろ」
「緊張してたから喋らなかったの?」
「そう」
「私が龍之介を振るわけないのに」
 桜子は改めて、龍之介の腕を抱きしめた。
「こんな素敵な男性は他にいないよ」
「ありがたい。そのまま買い被っていてくれ」
「ふふっ」

 龍之介は自由時間を桜子と過ごし、みんなでマジックショーをするために食堂に向かった。
その後、寝る前に洗面所で歯を磨いて、部屋に入ろうとした時、女性の悲鳴が聞こえた。微かにしか聞こえなかったが、切迫した声だった。下の方から聞こえた気がするが、よくわからなかった。勘違いかもしれない。それくらい微かにしか聞こえなかったのだ。
 そこで龍之介は、隣りの部屋のクリスに、声が聞こえたか尋ねることにした。
 夜分で寝ていると悪いと思い、控えめにノックをすると、「開いていますよ」とクリスの声が聞こえた。
 ドアを開けるとクリスがベッドに座っていて、その隣りには寄り添うようにキャロルがいた。
「ごめん」
 慌ててドアを閉めようとすると、「待つヨ! なぜ閉めるネ!」とキャロルが龍之介を引き留めた。
「ワタシ、さっきのマジックショーでマッスルパス失敗したネ。クリスに教えてもらってたヨ」
 確かに、盛大に落としていた。気にしていたのか。
「マッスルパス全然上手くならないネ。でも、できるとカッコイイネ! 上達したいヨ」
「この辺りにコインを乗せると飛ばしやすいです。ただ、普段使わない筋肉を使うわけですから、すぐ飛ぶようになりませんよ。根気が必要です。一度に長時間練習すると豆ができます。手の皮が固くならないように、少しずつでいいのです。一年二年かかるくらいのつもりで。マジシャンは手の美しさも大事ですよ」
「わかったヨ」
 クリスはキャロルの手にコインを乗せて、位置を教えていた。なるほど、だから密着していたのか。
「龍之介は、なんの用カ?」
 そうだった。
「女性の悲鳴が聞こえたんだけど、クリスたちは聞こえた?」
「いいえ。キャロルはどうですか?」
「ワタシも聞いてないネ」
 部屋には、小さい音量で洋楽がかかっている。この屋敷はかなり防音がしっかりしているので、部屋にいたら聞こえないかもしれない。龍之介は廊下にいたから聞こえたのだろうか。
「誰の声だったのですか?」
「そこまではわからない」
「一緒に、みなさんの部屋を確かめに回りましょうか」
 クリスの提案に、どうしようか考える。
「……いや、こんな夜に訪ねて行っても迷惑だろう。聞き違いかもしれないし」
 龍之介は部屋に戻った。
 思えば、この時にクリスの提案を受けていれば、状況は変わっていたはずだ。

 翌朝、桜子が姿を消していた。
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