Oil & Water~サークル合宿の悲劇~

じゅん

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告白 一

告白 一 その5

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「二人が生きていることに驚いているようだな」
 龍之介が、クリスとキャロルの後ろから前に進み出た。
「お前が桜子をこんな目に遭わせたんだな……、陽菜乃」
 憎しみ、悲しみ、憐み――そのどれでもあり、どれでもないような表情を龍之介はしている。
 クリスとキャロルも、白骨化した桜子をつらそうな表情で見つめていた。
 陽菜乃は茫然としたまましばらく対峙する三人を見ていたが、やがて口を開いた。
「確かにキャロルは生きているかもしれないと、少し怪しんでたよ。死亡確定をしたのは脈をみたクリスだけだったから。しかも翌日、キャロルが消えちゃうんだからね。でもまさか、生真面目なクリスが嘘をつくとは思わなかったから、もしキャロルが生きているなら、自分で脈を止めるような細工をしたんだろうと思っていたんだけど」
 陽菜乃は開き直ったように腕を組んだ。クリスは苦笑するのみだ。
「面白いことを始めてるじゃないか。俺も混ぜてくれよ」
 男の声に陽菜乃が振り返ると、蒼一が服の埃を払っているところだった。
「どうしてここに」
 そう言ったのは龍之介だ。
「なに、龍之介が今夜なにか仕掛けるだろうと思って様子を伺っていたんだ。そうしたら、階段を上ってきた誰かが俺の部屋を通過して西のどこかの部屋に入った。奈月は部屋から出ていないから、キャロルの部屋にでも入ったんだろうが、それから長い時間出てこないのを見ると、そいつも仕掛け人だと思った」
 蒼一の部屋は、二階西側の階段に一番近い部屋だ。そこから奥に向かって、奈月、キャロルの部屋になっている。
「だから、また俺の部屋の前を通るやつを確認しようと待っていたら、死んだはずのキャロルだった。つけてみたらクリスと龍之介が合流して厨房に入っていき、そしてここに辿りついたわけだ」
「気になっていたんだけど、蒼一はどうしてそんなに私たちの様子がわかっていたの?」
 陽菜乃が質問する。
「この屋敷は防音性が高いから、ちょっとしたことでも気づけるように、常にドアにコインを挟んで、少し隙間を作っていたんだ。もちろん、窓も開けていた」
「そのコイン見たな。換気のためだと思っていたんだけど。細い隙間だし、常に廊下を窺ってでもいなければ問題ないと思っていた。まさか本当に窺っていたとは」
 龍之介は首を振る。
「俺は疑われていたのか」
「わざわざ桜子が失踪したいわくのある屋敷に俺たちを導いたんだ。意図があると思うだろう。そしてキャロルの件で、始まったと思ったよ」
「嫌な奴だな。初めからか」
「龍之介が怪しいと思っていたとしても、それとは別に殺人鬼がいるかもしれないって状況だったのに、戸締りをしようと思わなかったの?」
 陽菜乃が尋ねた。
「そんなのがいるとしたら、むしろ来てくれた方が面白いだろ」
「蒼一は相変わらず変わってるネ」
 キャロルも肩をすくめた。
 蒼一は部屋の奥の階段を上って、天井を開けた。
「上にも出入り口があるんだな。ここは龍之介の部屋の近くの物置に繋がってるようだ。物置の床一面が蓋のようになっているな。縁の溝にかぶせてあるだけだから、二階からではこの蓋は開けられないだろう。一方通行だ」
「物置……ああ、なるほど」
 龍之介は納得した。
初日の夜、女性の悲鳴はきっと物置経由で聞こえたのだ。
思い返せばこの屋敷に来て早々、部屋の前で肉じゃがの匂いがしていた。龍之介の部屋から厨房までは遠いのになぜだろうと疑問に感じたが、厨房とこの中二階の部屋、そして物置が繋がっていたのなら納得だ。
それでも壁が厚いので、悲鳴が微かに聞こえた程度だったのだろう。
「窓のない中二階の部屋……中央階段の踊り場の隣りに作られた隠し部屋なんだな。よくもここまで白骨化したものだ、腐敗臭で隠し部屋に気づきそうなものだが……気密性が高いうえに温泉の硫黄の匂いで紛れたか。そもそも借り手がほとんどいなかったのかもしれないが……、ああ、俺のことは気にしないで続けてくれ。聞いてるから」
 蒼一が部屋をウロウロと観察しながら言った。
「気になるだろ。じっとしてろよ」
 龍之介が注意した。ここまで自由だと、苦笑するしかない。
「では話を戻すが、キャロルの部屋の大量の血はどうやって入手したものだ?」
 蒼一は向かい合っている龍之介と陽菜乃の中間辺りに、距離を取って立ち止まった。
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