Oil & Water~サークル合宿の悲劇~

じゅん

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告白 二

告白 二 その1

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 陽菜乃はずっと、桜子を羨み、そして憎んでいた。
 近所に住んでいる幼なじみで、幼少のころから二人で遊んでいた。
 桜子は人形のように可愛らしい子供だった。犬猫の可愛らしさとは違い、浮世離れした美しさで、触るのをためらうほどだった。大きな瞳はいつも潤んでいて、いつも一緒にいる陽菜乃でさえ時々吸い込まれそうになった。
未就学の桜子はよく熱を出した。ベッドに寝たままの桜子と遊んでいてそのまま眠ってしまい、泊まることもよくあった。そんなとき、桜子は陽菜乃の手を握って離さず、陽菜乃は安心させるように肩を抱いて寄り添って寝た。
 そうやって桜子の面倒をみていたこと、そして当時から成長の早かった陽菜乃と体格差があったことから、陽菜乃は桜子のお姉さんのように扱われた。

「桜子ちゃんはか弱いから守ってあげるのよ」
「桜子ちゃんみたいな可愛い妹ができてよかったわね」
「桜子ちゃんと一緒にいると楽しいでしょ」

 陽菜乃に話しかける大人は、いつも頭に“桜子ちゃん”をつけた。
 私は桜子じゃないし、桜子の姉でもない。ちゃんと私の名前を呼んでよ!
 小学校にあがるころには、そんな反発心が芽を出していた。
 そしてそれは、異性の目を気にするようになってから一気に加速した。
 桜子と歩いていると、誰もが桜子に視線を向けているのがわかるのだ。
 陽菜乃は透明人間になった気分だった。
 いや、それより扱いが悪かった。
 男子が桜子に声をかけると、桜子は陽菜乃の後ろに隠れてしまう。
 桜子を誘いに来た男子には「陽菜乃と約束があるから、ごめんなさい」と言って桜子は断っていた。
 次第に、男子から陽菜乃はうとまれた。
「なんだあの男女」
「ブスのくせに」
「桜子ちゃんを独占して何様だ」
そんな声が届くようになった。
 独占などしていない。むしろ桜子の方から陽菜乃にまとわりついてきていた。
 しかし、それを言ってもただの言い訳にしか受け取ってもらえなかった。そして尚更、「あの可愛い桜子になつかれて」と羨望されるのだ。
 確かに、誰よりも可愛らしい桜子になつかれているのは気分がいい。気心も知れているし、一緒にいて楽しかった。
 しかし、それを上回るほど面倒やストレスが多かったのだ。
 中学に上がるころには桜子と一緒にいるのにうんざりしていた。
 そもそも客観的に見て、陽菜乃は美人の部類に入る。桜子と常に比べられるので努力もしていた。タイプが被らないように、この頃からショートボブにもしている。それでも並はずれて美しい桜子が隣りにいると、陽菜乃は霞んでしまうのだ。
 陽菜乃は桜子と距離を取った。
 一緒だった登下校も理由をつけて別々にした。同じテニス部に所属していたが、バスケットボール部に変更した。
 こうして桜子と別々の時間を作ることで、やっと深呼吸ができるようになった気がした。自分らしさを取り戻せた。
子供の頃からの癖で、桜子がいると頼りがいのある姉御肌を演じてしまうが、本当は陽菜乃は誰かに頼りたかったし、守られたいタイプだった。
 こうなると、周囲の評価が変わっていった。
 そもそも陽菜乃はモデル体型で相貌も整っているので華があった。ただ、いつも近くにより強い光がいたために、陽菜乃は影のように人から見られていなかっただけなのだ。
 中学三年生の春、初めて告白された。陽菜乃もいいなと思っていた、男子バスケットボール部の部長だった。陽菜乃も女子バスケットボール部の部長をしていたので、交流があった。二人は交際することになった。
 性格もさることながら、彼に好意を持ったポイントは高身長なところだ。すでに百六十センチ後半だった陽菜乃は、同級生の男子の半数は自分より背が低かった。見上げるほど背の高い人とつきあうことに憧れていた。
 しばらくは彼と楽しく過ごしていた。
 初めてのキスも彼だった。
 女性扱いされるというのはこういうことなのだと、初めて知った。
 しかし、楽しい時間は長くは続かなかった。
 二か月ほどして、彼に別れを切りだされた。突然の別れだった。
「理由は聞かないでほしい。全面的に俺が悪い」
 なにが起こったのかわからなかった。
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