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告白 二
告白 二 その4
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陽菜乃は奇術愛好会で、小野寺龍之介に一目ぼれしてしまった。
桜子との関係は、概ね良好だ。
桜子が悪魔に変貌するのは、陽菜乃が恋をしたときなのだから。
陽菜乃は、この気持を桜子だけには悟られるまいと考えた。
龍之介に話しかける時は、桜子がいない時に絞った。
それなのに、桜子はいつの間にか、龍之介とよく話すようになっていた。陽菜乃は焦ったが、二人は付き合ってはいないようだ。
これまで上手くいかなかったのは、桜子ががんだったとわかったのだ。今度こそ桜子に邪魔をされず恋を成就させたい。そうしなければ、見えないなにかが壊れてしまう気がした。
そんなとき、サークル内で合宿を行う企画が立ち上がった。五月に同期生八人だけで行った熱海合宿が好評で、八月に第二弾を行うことになったのだ。合宿先を陽菜乃と桜子で探すことになった。
ふと、子供の頃に何度か家族や親せきで使った貸別荘を思い出した。
実はその貸別荘で、陽菜乃は隠し部屋を発見していた。かくれんぼをしていたとき、厨房の棚に隠れようとして転びそうになった。咄嗟に掴んだ仕切りの板が少し手前にずれたかと思うと、棚自体がスライドするようになった。
そして、その奥に階段を見つけたのだ。
みんなに自慢をしたかったが、かくれんぼの必勝法を見つけたのだから、陽菜乃は必死に秘密を守り通した。
別荘から帰った後、親に隠し部屋を知っているかとさりげなく尋ねると、あったら見てみたいと言っていたので、どうやら大人も知らないのだと、子供心に優越感に浸ったものだ。
この貸別荘を提案した時には、隠し部屋でどうこうしようとは思っていなかった。
合宿の初日、龍之介の車の助手席に桜子が乗った時、嫌な予感がした。二人はとても自然な空気感だったのだ。
そしてその夜、メンバー全員でマジックのお披露目会をする直前、桜子が左手の薬指に指輪をしているのが話題になった。
龍之介にもらったのだろうと、ピンときた。
おそらく、今回の桜子は本気だ。ただ陽菜乃の恋路を邪魔するために龍之介と付き合ったのではないだろう。
冗談ではない。
散々陽菜乃を邪魔しておいて、自分はあっさり幸せを手に入れるのか。しかも相手は、また陽菜乃の好きな人なのだ。
マジックをするような心境ではなかったが、どうにか七分のショーのノルマを果たした。誰がどんなマジックを披露したのか、ほとんど記憶にない。
メンバーが解散して部屋に戻った陽菜乃は、落ち着こうと努力した。
桜子に恋人ができるのはいいことではないか。これから陽菜乃はいくらでも恋人を作ることができる。
――いや、本当に解放されるのか。
桜子にとって、自分に恋人がいることと、陽菜乃に恋人ができることは別なのかもしれない。これからも一生、桜子に付きまとわれる可能性だってある。
なにより陽菜乃の胸を大きく割いているのは、失恋の悲しみと、桜子だけ卑怯だという気持ちだ。
いままではあえて、なぜ陽菜乃の恋人を奪っていたのか、桜子に聞いたことがなかった。答えはわかるような気がしたし、桜子に言葉にさせたら、取り返しがつかない気もした。
だがしかし、一度はっきりと話しておくべき時なのだと思った。
陽菜乃は隣りにある桜子の部屋に行った。一階に部屋があるのは、陽菜乃と桜子だけだ。
防音性の高い部屋なので、どちらかの部屋で話してもいいとは思った。しかし、いつ誰が訪ねてきてもおかしくない状況だ。
邪魔をされない部屋を知っているのだから、そこに移動しよう。陽菜乃はそれくらいの気持ちだった。
二人は厨房の隠し階段から、隠し部屋に向かった。途中で通過する厨房で、なにを思ったのか、陽菜乃は包丁を握っていた。
……この時の気持ちを、陽菜乃は上手く説明することができない。
殺意はなかった。
桜子を殺したいとまで思ったことはなかった。
ただ、いままでどんなに辛かったのか、苦しんできたのか。そして今、桜子がしていることは、自分に対してひどい裏切りなのだと伝えたかったのかもしれない。
桜子との関係は、概ね良好だ。
桜子が悪魔に変貌するのは、陽菜乃が恋をしたときなのだから。
陽菜乃は、この気持を桜子だけには悟られるまいと考えた。
龍之介に話しかける時は、桜子がいない時に絞った。
それなのに、桜子はいつの間にか、龍之介とよく話すようになっていた。陽菜乃は焦ったが、二人は付き合ってはいないようだ。
これまで上手くいかなかったのは、桜子ががんだったとわかったのだ。今度こそ桜子に邪魔をされず恋を成就させたい。そうしなければ、見えないなにかが壊れてしまう気がした。
そんなとき、サークル内で合宿を行う企画が立ち上がった。五月に同期生八人だけで行った熱海合宿が好評で、八月に第二弾を行うことになったのだ。合宿先を陽菜乃と桜子で探すことになった。
ふと、子供の頃に何度か家族や親せきで使った貸別荘を思い出した。
実はその貸別荘で、陽菜乃は隠し部屋を発見していた。かくれんぼをしていたとき、厨房の棚に隠れようとして転びそうになった。咄嗟に掴んだ仕切りの板が少し手前にずれたかと思うと、棚自体がスライドするようになった。
そして、その奥に階段を見つけたのだ。
みんなに自慢をしたかったが、かくれんぼの必勝法を見つけたのだから、陽菜乃は必死に秘密を守り通した。
別荘から帰った後、親に隠し部屋を知っているかとさりげなく尋ねると、あったら見てみたいと言っていたので、どうやら大人も知らないのだと、子供心に優越感に浸ったものだ。
この貸別荘を提案した時には、隠し部屋でどうこうしようとは思っていなかった。
合宿の初日、龍之介の車の助手席に桜子が乗った時、嫌な予感がした。二人はとても自然な空気感だったのだ。
そしてその夜、メンバー全員でマジックのお披露目会をする直前、桜子が左手の薬指に指輪をしているのが話題になった。
龍之介にもらったのだろうと、ピンときた。
おそらく、今回の桜子は本気だ。ただ陽菜乃の恋路を邪魔するために龍之介と付き合ったのではないだろう。
冗談ではない。
散々陽菜乃を邪魔しておいて、自分はあっさり幸せを手に入れるのか。しかも相手は、また陽菜乃の好きな人なのだ。
マジックをするような心境ではなかったが、どうにか七分のショーのノルマを果たした。誰がどんなマジックを披露したのか、ほとんど記憶にない。
メンバーが解散して部屋に戻った陽菜乃は、落ち着こうと努力した。
桜子に恋人ができるのはいいことではないか。これから陽菜乃はいくらでも恋人を作ることができる。
――いや、本当に解放されるのか。
桜子にとって、自分に恋人がいることと、陽菜乃に恋人ができることは別なのかもしれない。これからも一生、桜子に付きまとわれる可能性だってある。
なにより陽菜乃の胸を大きく割いているのは、失恋の悲しみと、桜子だけ卑怯だという気持ちだ。
いままではあえて、なぜ陽菜乃の恋人を奪っていたのか、桜子に聞いたことがなかった。答えはわかるような気がしたし、桜子に言葉にさせたら、取り返しがつかない気もした。
だがしかし、一度はっきりと話しておくべき時なのだと思った。
陽菜乃は隣りにある桜子の部屋に行った。一階に部屋があるのは、陽菜乃と桜子だけだ。
防音性の高い部屋なので、どちらかの部屋で話してもいいとは思った。しかし、いつ誰が訪ねてきてもおかしくない状況だ。
邪魔をされない部屋を知っているのだから、そこに移動しよう。陽菜乃はそれくらいの気持ちだった。
二人は厨房の隠し階段から、隠し部屋に向かった。途中で通過する厨房で、なにを思ったのか、陽菜乃は包丁を握っていた。
……この時の気持ちを、陽菜乃は上手く説明することができない。
殺意はなかった。
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