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告白 二
告白 二 その5
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「その指輪は、龍之介にもらったもの?」
先に階段を上っていた陽菜乃は、隠し部屋に来てから桜子に背を向けたまま尋ねた。
「うん、そうだよ」
「付き合ってるんだ」
「今日からね」
「私が龍之介のことを好きだって、知ってた?」
「……うん、知ってたよ。だから龍之介くんに近づいたんだもの」
陽菜乃は振り向いた。両手で包丁を持ち、桜子に向ける。それを見た桜子は瞠目して固まった。
「どうしていつも私の邪魔ばかりするの? 龍之介のことだけじゃない。中学の時から、ずっと!」
「やっぱり気づいてたんだ。ときどき、避けられてるなって感じる時があったよ」
陽菜乃と桜子との間には、三メートルほど距離があった。
「でもいままでは、こんなに怒らなかったよね。陽菜乃、どうして?」
なぜか、桜子の瞳の輝きが増したように見えた。
「質問してるのは私だよ」
「今回は、私が龍之介くんに本気だって気づいてるから怒ってるの?」
桜子が一歩近づいてきた。薄暗いライトに、桜子の白いワンピースとほっそりとした手足が浮かび上がる。
「ねえ陽菜乃、嫉妬してる?」
桜子は更に一歩近づいた。サラリとした光沢のある長い髪が、別の生き物のように揺れた。
「桜子、それ以上来ないで」
陽菜乃は後じさった。
両手で持った包丁を胸の高さに持ち上げた。
その手が震える。
なぜ桜子が近づいてくるのか、訳がわからない。刃物を見せられたら、普通は逃げるものではないのか。
なぜ武器を持っている自分が怯えなければならないのだ。
「陽菜乃。嫉妬しているのは、私に?」
桜子は微笑んだ。
「……それとも、龍之介くんに?」
桜子がまた一歩前に出た。もう一メートルも離れていない。
白い両手が、包丁の柄を持っている陽菜乃の手を包んだ。
「ひっ……」
陽菜乃は手を離そうとしたが桜子の手の力は存外に強く、逃げることができなかった。
「安心して。私が一番好きなのは、陽菜乃だよ」
桜子はそのまま包丁の刃を首に押し付けて、勢いよく引いた。
陽菜乃の手に、肉を裂く生々しい感触が伝わる。
刃に絡む肉の組織。
たぎるように熱いぬめりつく血液。
陽菜乃は思わず悲鳴を上げた。
包丁を離そうと動くと、更に桜子の首を切る結果となった。刃は固い骨まで達している。
それが感触で、生々しく伝わってくる。
「これからも、ずっと……」
桜子の唇が、そう動いているように見えた。
桜子は微笑んだまま膝をつき、床に倒れた。
「救急車……」
いや、こんなに勢いよく血が流れているとなれば、おそらく動脈が切れている。助からないだろう。
陽菜乃は恐ろしくなった。
陽菜乃が握っていた包丁で桜子が自害したと言って、誰が信じるのだろうか。
陽菜乃は殺人犯として掴まるだろう。
そうなれば、自分の人生が終わるだけではない。家族にも迷惑がかかる。
幸いこの部屋は誰も知らないはずだ。この部屋だけ手入れがされていないので、オーナーでさえ知らない可能性が高い。
それならば……。
陽菜乃は包丁をその場に置いて急いで自室に戻り、人に見られないよう注意して浴室に行ってシャワーを浴びた。桜子の荷物と血で染まった服は、もう一度隠し部屋に置きに行った。
恐ろしくて、桜子を見ないようにした。
もし警察に見つかったら諦めよう。
陽菜乃はそう思っていた。
しかし幸か不幸か、隠し部屋は見つからず、桜子は家出人として扱われたようだ。
「私が一番好きなのは、陽菜乃だよ。これからも、ずっと……」
桜子の言葉と、その微笑みが焼き付いて離れない。桜子の強いまなざしが、瞼の裏に張り付いているようだ。
瞬きをするたび、桜子を思い出す。
もう人を愛することはできないと、陽菜乃は思った。
* * *
先に階段を上っていた陽菜乃は、隠し部屋に来てから桜子に背を向けたまま尋ねた。
「うん、そうだよ」
「付き合ってるんだ」
「今日からね」
「私が龍之介のことを好きだって、知ってた?」
「……うん、知ってたよ。だから龍之介くんに近づいたんだもの」
陽菜乃は振り向いた。両手で包丁を持ち、桜子に向ける。それを見た桜子は瞠目して固まった。
「どうしていつも私の邪魔ばかりするの? 龍之介のことだけじゃない。中学の時から、ずっと!」
「やっぱり気づいてたんだ。ときどき、避けられてるなって感じる時があったよ」
陽菜乃と桜子との間には、三メートルほど距離があった。
「でもいままでは、こんなに怒らなかったよね。陽菜乃、どうして?」
なぜか、桜子の瞳の輝きが増したように見えた。
「質問してるのは私だよ」
「今回は、私が龍之介くんに本気だって気づいてるから怒ってるの?」
桜子が一歩近づいてきた。薄暗いライトに、桜子の白いワンピースとほっそりとした手足が浮かび上がる。
「ねえ陽菜乃、嫉妬してる?」
桜子は更に一歩近づいた。サラリとした光沢のある長い髪が、別の生き物のように揺れた。
「桜子、それ以上来ないで」
陽菜乃は後じさった。
両手で持った包丁を胸の高さに持ち上げた。
その手が震える。
なぜ桜子が近づいてくるのか、訳がわからない。刃物を見せられたら、普通は逃げるものではないのか。
なぜ武器を持っている自分が怯えなければならないのだ。
「陽菜乃。嫉妬しているのは、私に?」
桜子は微笑んだ。
「……それとも、龍之介くんに?」
桜子がまた一歩前に出た。もう一メートルも離れていない。
白い両手が、包丁の柄を持っている陽菜乃の手を包んだ。
「ひっ……」
陽菜乃は手を離そうとしたが桜子の手の力は存外に強く、逃げることができなかった。
「安心して。私が一番好きなのは、陽菜乃だよ」
桜子はそのまま包丁の刃を首に押し付けて、勢いよく引いた。
陽菜乃の手に、肉を裂く生々しい感触が伝わる。
刃に絡む肉の組織。
たぎるように熱いぬめりつく血液。
陽菜乃は思わず悲鳴を上げた。
包丁を離そうと動くと、更に桜子の首を切る結果となった。刃は固い骨まで達している。
それが感触で、生々しく伝わってくる。
「これからも、ずっと……」
桜子の唇が、そう動いているように見えた。
桜子は微笑んだまま膝をつき、床に倒れた。
「救急車……」
いや、こんなに勢いよく血が流れているとなれば、おそらく動脈が切れている。助からないだろう。
陽菜乃は恐ろしくなった。
陽菜乃が握っていた包丁で桜子が自害したと言って、誰が信じるのだろうか。
陽菜乃は殺人犯として掴まるだろう。
そうなれば、自分の人生が終わるだけではない。家族にも迷惑がかかる。
幸いこの部屋は誰も知らないはずだ。この部屋だけ手入れがされていないので、オーナーでさえ知らない可能性が高い。
それならば……。
陽菜乃は包丁をその場に置いて急いで自室に戻り、人に見られないよう注意して浴室に行ってシャワーを浴びた。桜子の荷物と血で染まった服は、もう一度隠し部屋に置きに行った。
恐ろしくて、桜子を見ないようにした。
もし警察に見つかったら諦めよう。
陽菜乃はそう思っていた。
しかし幸か不幸か、隠し部屋は見つからず、桜子は家出人として扱われたようだ。
「私が一番好きなのは、陽菜乃だよ。これからも、ずっと……」
桜子の言葉と、その微笑みが焼き付いて離れない。桜子の強いまなざしが、瞼の裏に張り付いているようだ。
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