白銀の超越者 ~彼女が伝説になるまで~

カホ

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~東への旅~

アーティファクトと書いてマジックアイテムと読む

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 次の日の朝、ユールは珍しく寝坊した。いつもなら5、6時には起きているユールが、今日に限って9時に起きたのだ。

 「おかしいな………体の調子が狂ったかな?」

  残り二人は未だ寝ていた。

  盛大に寝過ごした三人は、宿をチェックアウトし、屋台で買い食いしつつ、10時すぎにようやくギルドにきた。冒険者もみんな出払っていて、ガランとしている。

 「あ、"世界樹"のみなさんですか?ご依頼の件は準備できていますよ」

  カウンターに近づくなり声をかけられた。昨日と今日で一躍有名人らしい。

 「まず報酬金を渡してしまいますね。こちら、オーク討伐依頼の報酬の大金貨5枚と、討伐部位51の買取金額が金貨306枚、それからオーク集落壊滅の追加報酬も虹金貨1枚です」

  総額、50000+30600+10000000で10806000エッダですね。すごい金額だ。

 「素材などは全て倉庫にございます。どうぞお納めください」

  受付嬢の案内で解体倉庫に行くと、そこには山のように積まれたオーク系の素材。オークはランクが低めであるにもかかわらず肉が美味しく、皮や牙など素材も武器防具に使えるので売らずに全て貰い受けたのだ。

 「ありがとうございます」
 「いえ、こちらこそスルトの街の危機を救ってくれてありがとうございました」

  用も済んだことだし、ユールたちはギルドの職員方に挨拶してギルドを出る。

  ギルドの前に待たせていた馬車に乗り込み、ユールたちは次の街に向けて出発する。これだけ派手に暴れまわって、公爵の耳に届かないか心配だったが、こればかりはどうにもならないからどうにでもなれ、だ。

  次の目的地は、公爵領最大の交易都市であり、ドラウと同規模の大都市、アントヴァリナウトである。




  街道をガラガラと北に向けて進んで行く白い馬車。その馬車の中で、ユールは以前から試したかったことをやろうとしていた。

  ユールが挑戦しようとしているのは、マジックアイテム作りである。この世界ではマジックアイテムは非常に希少価値の高いものだ。特に戦闘用のマジックアイテムが決定的に不足している。

  だから画期的な戦闘用アイテムを作ってみたいのだ。例えば魔力を込めるだけで自分が持っていない属性の力を借りることができる、とか。

  実は聖獣の貢物の中には、意外とバカにならない量の高級金属や鉱石が混ざっているのだ。それを使えば最高のマジックアイテムが作れるではないか?そう考えたのだ。

  その下準備として、ユールは懐からオークの魔石を一つ取り出した。ユールが聖獣たちから教わったマジックアイテムの製作方法は古代文明の遺物、いわゆるアーティファクトの類の作り方だ。この世に存在する普通のマジックアイテムとはかなり異なっている。

  アーティファクトはマジックアイテム同様、魔石を動力源にする。1つの魔石を使えば二度と魔石を交換する必要もない。

  魔石とは魔物が持っているものだが、そのままではアーティファクトの動力源として使えない。普通のマジックアイテムは魔石の魔力がなくなれば交換するからそのままでも使えるが、アーティファクトに使うものは魔力を自動補充できないといけないから、魔石の構造を組み替えないといけない。

  オークの魔石に自分の魔力を流し込み、中の魔力回路を組み替えて空気中の魔力を自動補充できるようにしてみた。回路を組み替える前なら、複数の魔石を合成することも可能みたい。

  確認できると、ユールは早速アーティファクトの作成に取り掛かる。

  まず取り出したのはブラックミスリルとホワイトミスリルという二つの鉱石。確かこの世にごくごく少量しかない最高級の鉱石で、これ一つで国一つを買えるほどの価値があるらしい。まったくなにを考えてこんなすごいものを貢いだのか。そもそもどうやって手に入れたんだし。

  鍛治魔法を使い、鉱石を薄くして剣の形にしていく。剣の元にデザインを付与させると、ユールが望んだ通りのデザインの白と黒の双剣が出来上がる。

  ソルジャーアントの魔石を全部使って圧縮し、拳大の魔力濃度が極めて高い魔石を合成し、それを黒い剣の柄に埋め込む。それからオークの魔石を4つほど使い、さっき作った魔石と同じサイズのものを作って今度は白い剣の柄に埋め込む。そして黒い剣には闇の魔力を流し込み、白い剣には光の魔力を流し込んで定着させる。これで魔力さえ流せば光と闇の力を使える。

  それから野営まで、ユールは一気に100点近いマジックアイテムを作った。多くが戦闘用だったが、日常用もある。

 「ユール様ー。さっきは何を作ってたんですか?」

  食事ができるまでの間に作ったアイテムを整理していると、ノルンが興味津々に覗き込んできた。説明してやるとあんぐりと口を開ける。

 「アーティファクトって……古代文明の遺産まで作っちゃったんですかい、ユール様」

  ますますいろんなベクトルで化け物らしい。

 「ねえ、二人に渡しものがあるの」

  食事を終えたあとの自由時間に、ユールはそう切り出した。

 「渡したいもの?」
 「テオにはこれ」

  テオに渡したのは、ユールが一番最初に作った双剣だった。

 「これは?」
 「魔力を流すだけで光と闇の力が使える剣」
 「え」

  効果を聞いたテオが固まった。まあ、国が買えるほどの価値がある鉱石で作られた、アーティファクトに匹敵するほど高性能のマジックアイテムなんて目の当たりにして、固まらない人もいないのかも?

 「そんなすごいもの、もらえません」
 「私は信頼する人にだけ、特製のマジックアイテムを与えるって決めたの。だからこれは私のテオへの信頼の証」
 「ですが………」
 「その代わり、私はあなたの忠誠を求める。これからも、ついてきてくれる?」
 「………ユール様には叶いませんね」

  テオが折れてくれたことに安堵し、ユールはもう一つのマジックアイテムを持って、すでに目を輝かせているノルンのところに行く。

 「ノルンはこれ」

  ノルンには小さな指輪を渡した。これは魔力を込めることで使い魔を呼び出すことができるマジックアイテムだ。五大属性を操る擬態モンスターで、ノルンの指示で自由に変幻できるようにしておいた。

 「わーい!ユール様からの贈り物!!」

  テオと違って、ノルンは伝説の素材など気にもせず、この喜びようである。この頃、ノルンが実に単純でかわいいことに気づいてきたユールです。

  渡すものも渡せたので、一行は食事の準備を始めた。今日のメニューはナイトホースの肉で作ったシチュー。



 「ユール様の回復薬、あれ売れますよ!」

  ワイワイ食事している途中で、ノルンからこんな提案がありました。

  言われてみればそれはそれで面白そう。

  次の街は交易の街アントヴァリナウト。思い切ってお店を経営してみようかしら?
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