白銀の超越者 ~彼女が伝説になるまで~

カホ

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~東への旅~

三姉妹

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 道中で盗賊を倒したりもしつつ、一行は次の街、ギャロルビルグに到着した。アントヴァリナウトを旅立った2日後だった。

 「あぁ?んだとこのガキ」

  現在よくわからない状況に立たされています。

  到着して初日は何事もなく終わったのだが、二日目の今日、ユールは路地裏のチンピラと向かい合っていた。

 「身の程知れよ、ガキはおとなしく年配者に従ってればいいんだよ」

  ことの発端は、路地裏でチンピラたちに詰め寄られている女の子三人を、ユールが見つけてしまったことだった。

  正義感が強いわけではなかったが、なんとなく気に食わなくて声をかけたのだ。

 「んだよ、関係ねえやつは引っ込んでろ」

  そしたら逆に凄まれた。

  ユール的には別に放置してもよかったんだが、ノルンはユールがバカにされたととったらしく、チンピラに意見申した。

 「なにを言っているのです?この方をどなたと心得ますか。あなたたちのような小物が歯向かっていい相手ではありませんよ」
 「んだと!」

  そんな昔話があったのです。

  今でも睨み合ってるチンピラたちとノルンをチラリと見て、ユールは三人組の女の子の方に声をかけた。

 「あなたたち、大丈夫?」
 「え、えっと、大丈夫です……」

  一番年上っぽい黒髪の女の子が答える。

 「どうしてこんなところに?」
 「え、いえ……私たちはこの辺り住んでいたんです……」
 「この辺りに?」
 「はい……過去形、ですけど……」
 「過去形?」

  黒髪の少女がそっと目を伏せる。

 「あのチンピラ絡み?」
 「チ、チンピラ……」
 「どうなの?」
 「……はい、そうです。先ほどから私たちが住んでいた場所の所有権を主張しているんです」
 「横暴な奴らですね」

  テオがボソッと一言。

 「それで?」
 「えっと……私たちは数年前からここで暮らしていました。でも知人から譲り受ける形だったので正式な手続きは踏んでないんです」
 「そこをつけ込まれた」
 「はい……」

  とんでもないチンピラだ。人の弱みにつけ込む輩は叩いておきたいが、街中で騒ぎを起こすのはとてもよろしくない。

 「あれ相手するのも面倒だから、あなたたち宿に泊まらない?」
 「いえ……そんなお金はないんです……」
 「いいよ、出すから」
 「「「ええっ!!」」」

  三姉妹がそろって叫んだ。変なことは言ってないと自負してるんだが。

 「ユール様、お人好しって言われません?」
 「さあ?言われたことはない。テオ、あっちの怒りで我を忘れている子を回収してきてくれない?」
 「はいはい、ノルンですね……わかりました」

  テオがノルン回収に向かうと、ユールは少女たちに手を差し伸べた。

 「私はユール。名前は?」
 「えっと……長女のウルズです」
 「次女のヴェルザンディです」
 「さ、三女のスクルド…です」
 「そ。じゃ行くよ」

  三人の名前を確認すると、ユールはウルズと名乗った黒髪の少女を引っ張り起こした。

 「………」

  そのままウルズの手を握った間ま彼女の瞳をじっと見る。

 「あ、あの……何か?」
 「……いや…変わった魔力ね」
 「「「!!!」」」

  素直に感想を述べたら、ものすごく驚かれた。

  だって変わってるもの。ウルズの魔力は不思議な色をしていたからだ。

  普通の魔力持ち、例えばテオのような存在を見た時、風属性の魔力を持っているからその魔力は緑色に見える。

  しかし目の前にいるウルズというこの女の子の魔力は、水色と緑が混ざり合っていた。ウルズに限らず、色は違うが他の二人の魔力も同様だった。

  そしてウルズのそれは、水属性の魔力と風属性の魔力を示す色だ。



 「……魔力を、見ることができるのですか?」

  目の前にいるユールと名乗った少女の手を振り払い、ウルズは大いに警戒しながらこの少女を観察した。

  初対面の人間に魔力のことを指摘されたのは初めてだった。この世界で魔力を感知できる人は極めて少ない。それができる人間は優秀な魔法使いになる、と言われているほどだ。

  自分より全然年下で、今年7歳の三女スクルドと同年齢に見えるこの銀色の少女を鋭い視線で見つめる。この娘は、自分たちを処罰するために教会から派遣された者だろうか?

 「ユール様、すんごい警戒されてますね」
 「テオ、言わないで。気づいてる」

  テオと言う、従者らしき少年と軽口のようなものを叩きながらも、ユールの表情にさほど変化はない。人形のように無表情で、美しい子だ。

 「そうだよ。あなたの聞いたとおり、私は魔力を感知することができる」
 「連れて行くの?」
 「なにが?どこに?」
 「教会からの、使いなのでしょう?私たちを抹殺するための」

  冷たく言い切り、ウルズは妹二人を背後にかばう。こんな若い聖職者がいるとは思えなかったが、それ以外の可能性が思いつかなかった。魔力を感じることができる人材など、聖職者か魔術師にしかありえない。

 「抹殺?この街の教会はそんな物騒なことをしてるの?」
 「物騒って、なによ……」
 「テオ、この街の教会は抹殺なんて物騒なことしてるんだって」
 「けしからん!ですね。なにをするおつもりで?」
 「殴り込みに行こうかしら」
 「え!?」

  今度は逆にウルズが度肝を抜かされた。教会に、殴りこむ!?

 「殴りこむ!?殴りこむって言いました!?」
 「言いましたね。罪もない人を抹殺するような教会には一度……」
 「私なにも言ってません!殴り込みにはいかなくていいですから!」
 「…?そうですか」

  そして拍子抜けするほどあっさり殴り込み計画はなかったことにされた。この子……全く読めない。

  この子は一体なんなんだろう?堂々と教会に殴り込むと言っていたから教会の人間ではないのだろう。かといって魔術師団員にも見えない。

 「で、どうするの?」
 「え?どうって……?」
 「宿」

  あ、そういえば宿に泊めてくれるって言っていたっけ?この子は宿屋の娘か何か?

 「……本当に、泊めてくれるの?」
 「いいよ。へそくりはいっぱいあるから」
 「ユール様、へそくりって……」
 「間違ったことは言ってないと思うけど?」

  またもや軽口を叩いているユールとテオ。しかし今度はユールの口元にも淡い微笑が浮かんでいる。

 「さっきの話も、あとで聞かせて」
 「さっき?」
 「抹殺の話。本当だったらほっときたくない」
 「ユール様、やっぱりお人よしって言われるでしょう」
 「他の人と違うってだけで、その存在を消されてしまうのは見ていてすごく不愉快でね」

  そう言って目を伏せるユールに、ウルズはこの銀色の少女がなにやらとてつもなく暗い何かを抱えているのを感じた。

  結局ユールの好意に甘えて、ウルズ、ヴェルザンディ、スクルドはユールたちが泊まっている宿で部屋をとった。

 「で、詳しく聞いていい?」

  部屋に戻ると、ユールは訪ねてきた。この場にはユール、ノルン、それから自分たち三人しかいない。テオはドアの外で人払いをしているらしい。ユール曰く、テオは風の力でこの部屋の会話を拾えるから外にいても問題ない、だとか。

  話すと約束したので、ウルズはおとなしく自分たちの事情を話した。

  ウルズたちは別に何の特別性もない普通の家に生まれた。しかし彼女たちは特殊な魔力と力を持って生まれてきてしまった。

  本来どんな人間でも無属性の魔力は必ず持って生まれる。そして魔力こそみんな持っているが、必ずしも全員が魔力に目覚めるわけではない。魔力の覚醒は、その人の魔法の才能と努力によって得られるものだ。

  しかしウルズたちにはそれが当てはまらなかった。ウルズたちは無属性の魔力を持っていなかった。三姉妹は無属性の魔力の代わりに、二つの属性を混合した魔力を持って生まれたのだ。ウルズは水と風、ヴェルザンディは木と火、スクルドは土と雪。そして生まれた瞬間から魔力に目覚めていて、魔法を使うことができた。

  それに加え、三姉妹には特別な力もあった。それは運命を見ることができる目の力。ウルズは過去から教訓を引き出す目、ヴェルザンディは現在を見据える目、スクルドは未来を予言する目。三人が揃えば過去・現在・未来の全てを見通すことができ、発動に代償もないという、人外すぎる能力だった。

  その力に目を付けた教会は、彼女たちを手に入れようと暗躍し始める。両親は彼女たちを逃がすために殺され、住んでいた家もだまし取られた。そうやってじわじわと追い込まれ、行き着いた場所がここだった。

 「そう」

  ウルズを独白を聞き終えると、ユールはそうとだけつぶやいた。そっちから聞いておいてその反応は何!?と思ったが。

 「なら一緒に来る?」

  怒る前にユールからそんな提案がされた。今の話のどこから"なら"が出てくるのかはわからないが。

 「あなたたち、この街にいる限り追われ続けるんでしょ?だったらこの街から出てしまえばいい。行方をたどっても死んでるとしか思えないようなところまで逃げ込めばいい」
 「死んだことにするって……あなたたちはどこへ向かっているの?」
 「ヴァルハラだよ。聞いたことない?魔の森魔の海に囲まれた死の地方」
 「!!」

  聞いたことがあった。このリーヴ公爵領の最南東にある、領内で2番目に広い地方であるにもかかわらず、凶悪な魔物が生息する森や海域に囲まれている帰らずの地。

 「そ、そんなところにっ!?」
 「平気だよ。」
 「どうして、そんなに自信満々なの?魔の森だよ?そんなところ……」
 「別にヴァルハラに来て欲しいと言ってるわけじゃないわ。魔の森に行きたくないならその手前のセッスニルで別れればいい。どうする?」

  ユールが水色の瞳でこっちを見ている。彼女の提示した意見は実に合意的だ。両親を失い、住む場所も失っている自分たちには、この提案に乗るのが生き残るための最善だろう。

 「わかり、ました」
 「じゃあとりあえずセッスニルまでね」

  ウルズがそう答えると、ユールはこくりと頷いて部屋から出て行った。

  その凛々しすぎる背中を、ウルズたちはいつまでも見送った。
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