幕末☆妖狐戦争 ~九尾の能力がはた迷惑な件について~

カホ

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元治元年

なんか不穏分子がうろつき始めた(肆)

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 その日の夜、私はほむろに頼んで康順先生を勝手場に連れてきてもらった。

 勝手場を選んだ理由は、ここは屋内で唯一床が土で、そこに文字が書けるからだ。

 説明は、ほむろを通じて話せる部分だけ伝えた。家の周りをうろついている彼らは自分たちを狙っていること、自分たちは訳あって追われていること。

(ほむろ、明日にはここを出る旨も伝えておいて)
『うむ』

 不審人物が入山の追っ手だとわかった時、私はここを出る決心をしていた。先生は引き止めるかもしれないが、散々世話になった場所に迷惑をかけることは避けたい。

 私がここにいれば、あの人たちはいつまでもここから動かないだろう。もしかしたら襲撃もしてくるかもしれない。そうしたら先生やお涼さんにも多大な迷惑をかける。

 それは望まない。だってあの人たちは、私たちの事情に巻き込まれる必要なんて一切ない人たちだから。

『ここに残るという選択肢はできないのか?康順はそう言っておるぞ』

 私は首を横に振る。

 残ることはできない。これは私たちが自分で落とし前をつけないといけないことであって、先生たちが首を突っ込む必要はどこのにもないことだ。

 入山の里人によって人生を狂わされた私が、別の人の人生を狂わせるなんてことは、絶対にあってはならない。

(重ね重ね伝えてきて。お世話になりましたって)
『承知じゃ』

 しばらくの間、私とほむろの間に沈黙が流れる。私はただその場に座って待っていた。

『もう決意しているのだな。行くと決めたんだな。康順はこう聞いておる』

 やがてほむろから、康順先生の言葉が伝えられる。

 私はしっかりと頷く。

 風読みの術は発動していないからどこに先生がいるかわからなかったが、そんなの気にならなかった。

『康順が出て行った。少し待っていろ、だとさ』
(??)

 先生、どうしたっていうんだろう?

 よくわからないままその場に座り続け、何処かへと出かけて行ったらしい先生の帰りを待つ。

 かなり長い間待った気がする。やがてほむろから、康順先生が戻ってきたことが伝えられた。

『なんとっ!!』

 先生の言ったことを聞いたのだろう、ほむろの第一声はこれだった。

(ちょいとほむろ?どうしたの?)
『感謝してもしきれん。康順、お主はなんて良い人間なのじゃ』
(???)
『康順は、旅に必要なものを一通り揃えてくれたぞ』
(えっ!?)
『えっと………用意してくれたのは手紙が一枚、路銀、男物の着物と袴、編笠、水筒、数日分の食料、護身用の刀が一本、だ。手形もある』
(こんな何から何までお世話になるわけいかないよ)
『これは俺が勝手に君を助けようと思ったからだ。君を止められないことがわかったが、君のような子を何もせずに放り出すことなんてできない。だからこれはせめて受け取ってくれ。……康順は本気で雫の身を案じているのじゃ』
(……………)
『どうするのじゃ?』
(………………ありがとうございますって、先生に伝えて)

 親切にしてくださった康順先生に何度も何度も頭を下げ、私は暖かい気持ちになった。

 嬉しく思うと同時に、先生のように誰かの身を純粋に心配できない今の自分を思うと、ひどく悲しい。




 次の日、患者の数がピークに達している時間帯を狙って、私とほむろは半年暮らした藤山診療所をあとにした。
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