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元治元年

これは不可抗力だ!(参)

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「し、新選組!?」

 浪士4人がうろたえる。

「なんだ、知ってるなら話が早いぜ」
「辻斬りをしたのなら、捕まえなくちゃいけませんね」

 戦闘二人の言葉で、新選組の方が一斉に抜刀する。浪士たちも捕まってたまるか!って勢いで彼らに刀を向ける。




 そして私(幽霊)の前で捕物が始まった。




『そもそも私はなんで幽体離脱してるのよ』
『お主が一回死んだからじゃ。9つの命を持つお主は、一回死ぬたびにその人生で得た記憶や能力を次の人生に引き継ぐ作業が必要なのじゃ。その引き継ぎが終わるまで、お主の魂は作業の邪魔にならぬよう、一度外に出されるのじゃ』
『なるほどね。つまり危険・立ち入り禁止状態なのね、私の体は』
『ちなみに体での引き継ぎ作業が終われば、どれほど遠くへ行っていても戻ってこれるから安心して散歩ができるぞ』
『そりゃいいね。………ところでほむろはなんで三毛猫になってるの?さっきまで黒猫じゃなかった?』
『それは妾に聞かれても困るのじゃ。知るわけなかろう。気づいたらこうなっておったんだから』

 私とほむろがそんな話をしている横で、捕物というか斬り合いは絶賛続行中である。

 平隊士に腕を切られて刀を落とし、速攻で捕縛された浪士が一名。小さいポニーテールの人の一太刀を浴びて絶命した浪士が一名。槍の柄を鳩尾に受けて気絶した浪士が一名。逃げようとして足を切られて倒れた浪士が一名。

 その光景を、私は特になんとも思わずに黙って見ている。

 刀が肉を切り裂くさまを見ても、飛び散った赤い液体が透明である私の魂魄を通り抜けて行っても、別になんとも思わない。

 これも"残虐行為への嫌悪や躊躇"がないせいなんだろうけど………。




 うん。とっても複雑な気分。

『自分の目で実際に見てるはずのに、まるで映画のワンシーンでも見てるような気分だよ』
『…?それも妾の力を吸い取った副作用じゃろう』

 そう時間もかからず、斬り合いは終了した。4人いた浪士のうち3人は捕縛されたが、一人は小さいポニーテールの人によって斬り殺されてしまった。

「おい………なんでいちいち俺たちの仕事を増やすかな」
「そんな顔しないでくださいよ。手加減はしたんですよ」
「お前はもっと真面目に手加減をしろ。はぁ………ま、終わっちまったもんは仕方ねえよな」

 槍の人がそんなことをつぶやいている間に、小さいポニーテールの人が私の体の方に近寄り、しゃがみこんだ。

 私からは彼の背中しか見えないけど、脈でも測ってるんじゃないかな。

「そいつが辻斬りの被害者か?」
「そうみたいですね」
「どうだ?」
「死んでます。突き出された刀が、偶然心臓に命中しちゃったんでしょう」
「運が悪かったんだな、そいつ」
「そうですね」

 小さいポニーテールの人がその場から立ち上がる。

「僕が殺しちゃったこの人はどうします?」
「監察がなんとかしてくれるだろう」
「そういえば監察も来てるんでしたね。じゃああとは任せちゃいます」

 やがて浅葱色の羽織の人たちが立ち去るころに、私は猛烈な力に引っ張られた。

 行く先には自分の体。

 なるほど、2本目の命が始まるのね。
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