幕末☆妖狐戦争 ~九尾の能力がはた迷惑な件について~

カホ

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元治元年

ありえない邂逅(壱)

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 沖田 総司おきた そうじは動揺していた。

 会議後にちょっと厠へ行って、帰ってきたら広間のみんなの様子がどこかおかしかった。

 広間に山崎くんがいるから、何か長州の情報でももたらされたのだろうかと思った。

 しかしそれは違うと次の瞬間には悟った。

 山崎くんの後ろに、さっき巡察の時に見たばかりの人間がいた。浅葱色の服を赤く染めた"少年"だ。

 最初に見た時には呆れるくらい綺麗な子だと思った。

 男に身をやつしているが、よくよく見れば女の子だとわかる。あまりに違和感がなかったからはじめは気づかなかったが。




 そして、自分がさっき確かに死亡を確認した女の子でもあった。

「なんで、君がここにいるの?」

 思った以上に冷たい声が口から出た。自分でも想像以上に彼女のことを警戒している。

 無理もない。絶対に生きていないことを確認した彼女が、今、目の前にいるんだから。

 脈を測って死亡を確認した。だいたい確認するまでもなく、彼女は心臓の位置を貫かれていた。生きているはずがない。

 なのになぜ………彼女はここにいるのか。

「お、おい総司。やめないか」

 困ったような顔で近藤さんが慌てて止めに入る。

「総司、どうしたってんだ」

 土方さんも眉間にシワを寄せている。なぜか平助も目を見開いて固まっている。横で新八さんがいくらつついても反応がない。

 唯一、沖田と現場にいて彼女を知っている左之さんは警戒に目を細めていた。

「総司、やっぱりこいつはさっきの」
「間違いありませんね。もう一度聞く。どうしてここにいるの?」

 左之さんの方を見ずに返事をして、沖田は少女にもう一度質問をぶつけた。

「……………」

 少女は何も答えない。返答に困るようなことを聞いたつもりはない。なのに返事しないのは、ここにいる理由を知られたくないのか。

 もしそうなら、長州側の間者の可能性もある。

 それが本当なら、彼女は新選組の敵、京の街を荒らす不逞な輩だということだ。

 しかし沖田は迷っていた。

 沖田を見る少女の目が、あまりにも綺麗だったから。

 新選組の名前が広がってきて、街では浅葱色の羽織や名の知れた幹部を目にすれば、人々はこぞって脱兎の如く逃げ出す。

 新選組の隊士同士、あるいは内部の実態を知っている者以外は、誰しもが新選組を恐れる。

 それなのに、この女の子の目には恐怖が一切ない。まるで自分たちが人斬り新選組だってことを知らないように、彼女の目はあまりにまっすぐで、何やら嬉しそうな色すらある。

 おかしな子だと思った。

 少女は沖田を見たまま小さく首をかしげている。




 まるで沖田の声など聞こえていないかのように。
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